王のアルゴリズム(5)
星河ブランド戦略室。
ビビアンはソファの背もたれに体を預け、大きなモニターをじっと見つめていた。
画面には彼女のブランドの最新広告配信結果が表示されている。
スタッフは遠慮がちに右側の画像を指した。
「こちらのほうが、クリック率が0.8ポイント高いです。視聴維持率も、上回っています」
ビビアンが最後まで迷って外したほうの画像だった。
色が強く、肌の見せ方も少しだけ大胆だった。
「……そう」
ビビアンの声は小さく、乾いていた。
彼女は無言で画面を見つめ続けた。
「データ上では、ユーザーはこちらを好んでいるようです。ブランドの空気感からは、少し外れていますが……」
「……いいわ。そっちで進めて」
スタッフが小さく頷き、比較画面を閉じた。
彼女はそれ以上何も言わなかった。
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同じ夜、東亜財経の編集部は白い蛍光灯の下で淀んだ空気が流れていた。
沈予真は書き上げた原稿を上司に見せた。
『星河、未成年クリエイター事故で和解/推薦設計の実効性が次の焦点に』
上司は顔をしかめ、椅子を大きく軋ませた。
「見出しが弱い。和解金を前面に出せ。金額はいくらだ?」
「金額は公表されていません」
上司は鼻で笑う。
「じゃあ賀総裁の辞任観測で引っ張れ。もっと尖らせろ」
「辞任観測は取れていません」
「観測、でいいんだよ」
予真は少しだけ黙ってから言った。
「それは、この事件の本質ではないと思います」
上司は苛立ったようにため息をつき、コーヒーカップを乱暴に置いた。
「真正面から書いたって誰も読まないんだよ。PV取れない記事なんて、ただの自己満足だ」
予真は唇をきつく結んだ。
結局、配信された記事の見出しは、デスクが書き換えたものになっていた。
『アルゴリズムは少女を追い詰めたのか
高額和解で幕引き、総裁辞任観測も』
公開から数時間でPVは予想を大幅に上回り、コメント欄は非難と野次と好奇心で埋め尽くされた。
上司が予真のデスクの横で足を止めた。
「ほら、伸びただろ」
予真は自分の名前が付いた記事を、ただ黙って見つめていた。
本文のほとんどは自分が書いたものだった。
しかし見出しは、彼女のものではなかった。




