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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
最終章 0.3秒の王国
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王のアルゴリズム(2)

小鹿と星河は、賠償金を以て和解した。


啓文は自室のデスクで、声明文を何度も読み返していた。




「本日、星河互娛は、クリエイターとの間で和解に達しました。


当社は今回の事故を重く受け止め、未成年クリエイター保護のための抜本的な改革を進めてまいります……」




彼は画面から視線を離し、ため息を一つ吐いた。


投資家と世論の両方を意識した、精密で冷たいバランスの文章。




(危機管理の教科書に載せたいくらいだな)




責任を認めすぎず、しかし逃げもせず。


それが分かることに、啓文は少し疲れていた。





星河が提示した賠償金の額は、彼女の家族を納得させるには十分な額のはずだった。


しかし、数日後、当局、アンダーライター、広告主から照会が相次いだ。


問われていることは、皆同じだった。




―――再発防止策の実効性を、どのように担保するのか。




高額な賠償金でもない。


未成年保護基金でもない。


危険コンテンツの停止権限でも足りない。




(危険な配信が数字を取ったとき、星河がそれをどう扱うのか、だ)




それは、星河の一番深い場所に触れる問いだった。




0.3秒で人を掴むこと。


見つからなかった才能を拾うこと。




賀総が星河に込めてきたものは、そこにあった。





**********




その日、賀雲舟は総裁室で書類作業をしていた。


こういう作業は苦手だ。




決裁待ち資料を開く。


タイトルが出る。


順にクリックし、電子決裁印を押していく。




しかし、その内のひとつが目にとまった瞬間、耳の奥で血液が逆流するような音がした。




『推薦ロジック暫定調整案


未成年クリエイターの配信における急上昇露出抑制について』




作成者はプロダクト/信頼安全。


確認者は法務、危機管理・IR、外部監査役。


末尾には、参考資料として規制当局からの照会事項、主要広告主からの質問リスト、アンダーライターからの追加確認事項が添付されていた。




総裁室に呼ばれた啓文は、賀総の前に立った。




「プロダクトと信頼安全がまとめた案ですね。私からご説明します。


外部に出す再発防止策の中核になります」




一拍置き、続ける。




「当局、広告主、アンダーライター、全員が同じ点を見ています。


危険な配信が数字を取ったとき、星河がそれをどう扱うのか。


そこを説明しなければ、再発防止策として認められません」




賀総は資料をじっと見つめ、長い間黙っていた。


やがて、低く、苛立った声で言った。




「金で済んだんじゃなかったのか」




「訴訟は、です」




「……推薦ロジックにまで手を入れるのか」




啓文は静かに答えた。




「外部から強く求められています」




賀総は資料を押しやり、息を吐いた。




「推薦をいじったら、星河は別物になる」




賀総は啓文をまっすぐに見つめたまま、静かに、しかしはっきりと言った。




「それなら、俺は何のためにここにいるんだ」




啓文は、一瞬目を伏せた。




賀総の言葉を外へ出すための言い換えなら、いくらでも用意できた。


投資家向けにも、社員向けにも、メディア向けにも。





だが、賀総自身が自分に向けた問いに、代わって答えることはできない。






彼はゆっくりと息を整え、静かに告げた。




「それは、私が答えることではありません」




賀総は一瞬目を見開き、そのまま黙って窓の外の夜景に視線を移した。





二人の間に、長い沈黙が落ちた。


賀総は窓の外を見たまま、かすかに笑った。


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