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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
最終章 0.3秒の王国
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王のアルゴリズム(1)

小鹿家族の代理人から正式なログ開示請求が届いた。


啓文は書面をデスクに広げ、ゆっくりと読み進めた。




焦点はもはや賀総の失言ではなかった。




(『プラットフォームは、危険性をあらかじめ把握していたのか』だ)




彼は書類をめくりながら、静かに息を吐いた。




内部ではすでに分かっていた。


小鹿の配信は、アルゴリズム上「盛り上がっているコンテンツ」として扱われていた。




視聴数が上がる。


投げ銭が増える。


コメントが過熱する。


その直後、推薦表示が増える。




ログを時系列で並べれば、誰でも一本の線を引ける。




単に「配信を止めなかった」では済まされない、


推薦ロジックのスパイラルが、ログに冷たく刻まれていた。




星河にとって、アルゴリズムは頭脳だ。


それを丸裸にすることは、競争上も、規制上も、投資家向けにも、絶対に避けたいことだった。




同日午後、危機管理フロアの会議室。


啓文、法務部長、信頼安全チームのチーフ、プロダクト責任者、ファイナンス責任者、そして賀雲舟がテーブルを囲んでいた。




空気は重く張りつめていた。


プロダクト責任者が最初に口を開いた。




「ログを開示すれば、推薦アルゴリズムの詳細が外に出ます。


視聴数・投げ銭・コメント熱量によるブーストの仕組みが、すべて明らかになる可能性が高い」




信頼安全チームのチーフが苦い顔で頷いた。




「小鹿の配信は、当時の基準では『高エンゲージメント配信』として優先表示されていました。


停止基準には達していなかった……つまり、システム上は問題ないと判断されていた」




賀総は黙って聞いていた。


表情はほとんど変わらないが、指先がテーブルの端を軽く叩いている。




法務部長が眼鏡を直しながら、低く言った。




「家族側は『危険だと知っていたのに放置した』という証拠が欲しくてログを求めている。


開示すれば、訴訟で極めて不利になります」




ファイナンス責任者がため息まじりに吐き出した。




「結果としてアルゴリズム的にブーストをかけていた、と読まれれば、賠償金の桁が変わるでしょうね」




会議室に重い沈黙が落ちた。


啓文は賀総の横顔をちらりと見て、静かに言った。




「……和解しましょう。


高額になっても、迅速に決着をつけるべきです。


ナスダック上場を控えた今、長期化は避けなければなりません」




法務部長がため息をついた。




「金額は相当高くなるでしょう。


しかし、ログを開示して裁判になれば、ブランド価値と上場審査へのダメージは計り知れません」




信頼安全チームのチーフが頷いた。




「現実的な判断だと思います」




ファイナンス責任者も、それ以外の選択肢はないという表情だ。




賀総はようやく口を開いた。


声は低く、抑揚が少なかった。




「……和解でいい。


家族が金が必要なら、払う」




彼はそれだけ言うと、視線を資料に落とした。


啓文は胸の奥で小さく息を吐いた。




争うより、払う。


そのほうが、星河は守れる。




啓文は、そう判断していた。




隣に座る彼の横顔を、もう一度静かに見た。


賀総はただ、ひどく遠いものを見るような目をしていた。



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