王の言葉(10)
星河互娛本社役員会議室。
役員会では、ガバナンス改革案が正式に議題に上がっていた。
啓文は賀総の前に資料を置いた。
「アンダーライターへの回答案です。ご確認ください」
資料には、重大インシデント時の対外発信に関する事前承認プロセス、トップマネジメント層の個人SNSも対象とするルール、エスカレーション手順が記されていた。
賀総は資料を黙って読み進めていた。
表情はほとんど変わらないが、指先がわずかに資料の端を握りしめているのが見えた。
テーブルには、未成年保護規程の強化案、危険企画制限の詳細、コンテンツ推薦ロジックの調整案も並んでいた。
外部取締役と法務部長は淡々と議論を進めている。
賀総の視線が一瞬、調整案の上で止まった。
企業経営者として、彼は現実を理解していた。
小鹿の家族が動いている。
上場審査は厳しくなっている。
社員の雇用。
クリエイターたちの生活。
広告主の信頼。
投資家、市場の目―――。
すべてが、もう「自分の作品」だけでは片付けられない規模になっていた。
賀総はゆっくりと息を吐き、ペンを取った。
「……俺が黙ることで、星河を守れるのなら」
彼は承認書に署名した。
王は王国を守るために、自分の声を削ることを選んだ。
ペンを置いた音が、静かな会議室に小さく響いた。
役員会が終了する。
賀総は静かに立ち上がり、会議室のドアに向かいながら、背中で小さく言った。
「啓文」
「はい」
「……星河は、まだ続くんだろう?」
啓文は答えず、ただ静かに頷いた。
(第2章 了)




