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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
第1章 未成年クリエイター事故
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2/20

王と宰相(2)

午後2時半、星河互娛本社 会議室。




未成年クリエイターの運用基準見直しを議題にした、定例リスク会議だった。




信頼安全部門、プロダクト、法務、広報が集まっている。


テーブルの上には、十六歳の「小鹿」を含む、急上昇中の未成年クリエイター数名のデータが並べられていた。




議論は早くも行き詰まっていた。




信頼安全部門のチーフが、資料を軽く叩きながら言った。




「周部長、賀総はなんて言ってました?」




啓文は眼鏡のブリッジを軽く押し上げ、淡々と答えた。




「『その改善は、星河を魅力的にするのか?』……だそうだ」




会議室に、深いため息が漏れた。




法務部のベテラン女性が、苦笑混じりに肩を落とす。




「またそのパターンか……これだからクリエイターは」




プロダクト側の担当者が、露骨に嫌な顔をした。




広報部の若手が、椅子に深く寄りかかりながらぼそりとつぶやいた。




「賀総が王様なら、周部長はまさに宰相ですよね」




空気が一瞬、ざわついた。




「王様の言葉を、外に出せる形にする人……って感じじゃないですか」




啓文は即座に、静かだがはっきりした声で言った。




「その呼称は不適切です」




しかし、信頼安全チームの若手が、にやっと笑いながら続けた。




「でも社内ではみんな言ってますよ。


正直、周部長がいないと賀総は国ごと燃やしますし」




会議室に、くすくすと笑い声が広がった。




啓文は資料から目を上げ、淡々と言い返した。




「……燃えるのは国ではなく株価です。


 しかも、かなり高額な株価ですよ」




その言葉に、会議室の笑いが少し大きくなった。




誰かが「さすが周部長」と小さく言った。




天才クリエイターと、有能な危機管理広報部長。




賀総の奔放さと周部長の危機管理の絶妙なバランスが、星河をここまで押し上げたのだと。


社内では、そうした美談として語られていた。





啓文は軽く息を吐き、話を戻した。




「さて、本題に戻りましょう。


 危険企画への年齢制限と、投げ銭表示の変更について……」




会議は再開されたが、啓文の耳には、先ほどの笑い声がまだ少し残っていた。




(王様と宰相、か……)




彼は内心で小さく自嘲した。




啓文はふと、朝の会議室で賀総が言った言葉を思い出した。




『啓文のおかげで、俺は星河を作れる』




感謝の言葉だった。


信頼の言葉でもあった。




だからこそ、少しだけ引っかかった。




啓文が処理し続けている限り、賀雲舟は外の世界の厳しい風にさらされることはない。


摩擦も、痛みも、成長も、すべてを避け続けられる。


それを、便利だと思ってきた。


星河にとっても、賀総にとっても。


おそらく、自分にとっても。




それは、本当に正しいことなのだろうか。




啓文は自分の胸の奥で、その違和感をそっと押し殺した。


まだ、声に出すタイミングではなかった。



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