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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
第2章 透明性の代償
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王の言葉(8)

撮影スタジオの外、控室近くの廊下。


ビビアンが通りかかった啓文に声をかけた。




「周部長。いつもご苦労様」




「恐れ入ります、奥様」




「あなた、大変ね」




ビビアンは壁に軽く寄りかかり、静かに言った。




「あの人は、すべての物事を創作の文脈でしか見ていないから」




啓文が何かを言おうとしたとき、ビビアンが続けた。




「私は、それが嫌いじゃないけどね。


私の顔ではなく、見せ方を見たのは雲舟が初めてだったから。


……でも、企業の顔としては、違うでしょう」




ビビアンは少し目を細め、啓文を見つめた。


啓文は小さく微笑んだが、すぐに表情を引き締めた。




「……賀総は、小鹿さんのことも、才能として見ていました」




「でしょうね」




少しあきれた顔。


そして、彼女は声を少し落として言った。




「あなたも、私も、たぶん共犯ね」




啓文の動きが止まった。




「はい?」




「あの人の無垢さが、むき出しの言葉が、どれほど危ういものか知っている」




彼女の表情は感情が読みにくい。


しかし、静かに、はっきりと言った。




「それでも、そこに惹かれている」




啓文は息を飲んだ。




「あなたも、私もね」




ビビアンは軽く肩をすくめた。




「でも、そろそろ限界かもしれないわね」




彼女はそれだけ言うと、出口に向かった。


啓文は廊下に一人残され、壁に背を預けた。





経済紙を辞め、危機管理PR会社に移り、


企業危機対応やIR、上場準備の広報を担当するようになってから、


香港上場を目指していた星河もクライアントの一つになった。




香港上場が本決まりになった頃、賀雲舟本人から直接引き抜かれた。




―――啓文、うちに来てくれ。


香港のメディアと危機管理を知っていて、資本市場が分かる人間。


これからの星河にはそういう人間が必要になる。




香港上場を控えた星河に必要だったのは、若い創業チームの熱量ではなく、外から見たときに会社がどう読まれるかを知る人間だった。


生え抜きではないからこそ、彼は賀総の天才性を盲目的に崇拝することはなかった。


彼の言葉を冷静に受け止め、削り、整えることができると思っていた。




しかし今、ビビアンの言葉が胸に刺さる。




(……私は本当に、星河を守るためにやっていたのか?)





啓文が目を閉じたとき、ポケットの端末が震えた。


沈予真からだった。


彼は深呼吸をしてから電話に出た。




「周です」




「周部長、お久しぶりです。東亜財経の沈予真です。


小鹿さんのご家族が法的手続きの準備に入った件について、星河側の正式コメントをいただけますか?」




啓文の声は、いつも通り落ち着いていた。




「進行中の案件につきましては、コメントを控えさせていただきます」




「そうですか。……では、別の角度からお聞きします。


星河は今回、未成年クリエイター保護策を発表しました。


ただ、家族側が問うているのは、事故前にプラットフォームが危険性をどう把握していたのかという点です。


そこについて、星河は説明する用意がありますか」




啓文は一瞬、目を閉じた。




「申し訳ありませんが、それについてもお答えできません」




電話を切った後、啓文は壁にもたれたまま、長い息を吐いた。




共犯、という言葉が、まだ耳に残っていた。

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