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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
第2章 透明性の代償
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王の言葉(6)

緊急対応会議は、いつにも増して重苦しい空気に満ちていた。




信頼安全チームのチーフが、硬い声で言った。




「……これ、ログ開示要求が来ます」




法務部長が頷く。




「向こうはすでに相当準備を進めている。任意協議で済むかどうか、まだ分からない」




プロダクト責任者は腕を組んだまま、低く言った。




「危険行為の検知ログは残っています。ただ、あの時点で自動停止までは走っていませんでした」




「なぜです」




信頼安全チームのチーフが即座に問う。




「当時の基準では、通報数と危険ワードの組み合わせでエスカレーションする設計でした。


小鹿の配信は、視聴数と投げ銭は急増していましたが、停止基準には達していなかった」




「つまり、盛り上がっている配信として扱われた、と」




啓文が静かに言った。


プロダクト責任者は、答えなかった。




法務部長が言った。




「周部長。今回の会見発言は、単なる広報上の問題ではなくなっています」




信頼安全チームのチーフが続けた。




「小鹿は中国本土側のユーザーです。内陸部の地方都市。


登録時の年齢は十六歳。未成年アカウントとして区分されています」




彼はメガネを外し、深いため息をついた。




「最近、本土側の未成年保護規制がまた厳しくなっています」




法務部長が抑えた声で続けた。




「家族側は、本土の規制も前提にして照会してきています。


香港上場会社としての説明だけでは足りません。


ログの保全と説明範囲を早急に決める必要があります」




プロダクト責任者は眉を寄せた。




議題は、小鹿家族側への説明から、未成年クリエイターの取り扱いへと移っていった。


出席者のタブレットに示された資料には、星河全体のユーザー分布が表示されている。




「未成年クリエイターからの収益を、今後どう扱うか……。


現在は危険企画に限り一時停止中ですが、範囲を広げるべきか」




ファイナンス責任者が資料を指で叩いた。




「当社の収益の約65%は依然として本土からです。


このまま未成年関連の規制が厳しくなれば、


成長率が投資家ロードショーでの想定を大幅に下回る可能性が高い」




会議室に短い沈黙が落ちた。




啓文は黙って資料を見つめていた。




星河は本土で始まったサービスだった。


ユーザーも、クリエイターも、収益も、最初から主戦場は本土。




賀総自身も、本土で生まれ育った。




海外投資家からの資金調達、香港での上場、


そして将来のナスダック上場と東南アジア展開を見据えて、


持株会社とグローバル本部を香港に置いた。





本土はいまも、星河の心臓部だった。





ファイナンス責任者がさらに言った。




「現在の試算では、未成年クリエイターによるライブ配信収益は一桁後半。


ただ、広告主への波及も想定されます。


数字はまだ固めます」




啓文は資料の一行をじっと見つめていた。




推薦表示回数。


視聴維持率。


投げ銭発生時刻。




どれも、星河では日常的に使われてきた数字だった。


だが今は、訴訟対応資料の項目になっていた。





星河は今、グローバル市場の要求と向き合うために、


これまで当然のように回っていたいくつかの歯車を、


止めなければならなくなっている。




「ナスダック上場は、スケジュール通りいかないかもしれないな」




その事実に、啓文はただ、静かに向き合っていた。


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