王の言葉(6)
緊急対応会議は、いつにも増して重苦しい空気に満ちていた。
信頼安全チームのチーフが、硬い声で言った。
「……これ、ログ開示要求が来ます」
法務部長が頷く。
「向こうはすでに相当準備を進めている。任意協議で済むかどうか、まだ分からない」
プロダクト責任者は腕を組んだまま、低く言った。
「危険行為の検知ログは残っています。ただ、あの時点で自動停止までは走っていませんでした」
「なぜです」
信頼安全チームのチーフが即座に問う。
「当時の基準では、通報数と危険ワードの組み合わせでエスカレーションする設計でした。
小鹿の配信は、視聴数と投げ銭は急増していましたが、停止基準には達していなかった」
「つまり、盛り上がっている配信として扱われた、と」
啓文が静かに言った。
プロダクト責任者は、答えなかった。
法務部長が言った。
「周部長。今回の会見発言は、単なる広報上の問題ではなくなっています」
信頼安全チームのチーフが続けた。
「小鹿は中国本土側のユーザーです。内陸部の地方都市。
登録時の年齢は十六歳。未成年アカウントとして区分されています」
彼はメガネを外し、深いため息をついた。
「最近、本土側の未成年保護規制がまた厳しくなっています」
法務部長が抑えた声で続けた。
「家族側は、本土の規制も前提にして照会してきています。
香港上場会社としての説明だけでは足りません。
ログの保全と説明範囲を早急に決める必要があります」
プロダクト責任者は眉を寄せた。
議題は、小鹿家族側への説明から、未成年クリエイターの取り扱いへと移っていった。
出席者のタブレットに示された資料には、星河全体のユーザー分布が表示されている。
「未成年クリエイターからの収益を、今後どう扱うか……。
現在は危険企画に限り一時停止中ですが、範囲を広げるべきか」
ファイナンス責任者が資料を指で叩いた。
「当社の収益の約65%は依然として本土からです。
このまま未成年関連の規制が厳しくなれば、
成長率が投資家ロードショーでの想定を大幅に下回る可能性が高い」
会議室に短い沈黙が落ちた。
啓文は黙って資料を見つめていた。
星河は本土で始まったサービスだった。
ユーザーも、クリエイターも、収益も、最初から主戦場は本土。
賀総自身も、本土で生まれ育った。
海外投資家からの資金調達、香港での上場、
そして将来のナスダック上場と東南アジア展開を見据えて、
持株会社とグローバル本部を香港に置いた。
本土はいまも、星河の心臓部だった。
ファイナンス責任者がさらに言った。
「現在の試算では、未成年クリエイターによるライブ配信収益は一桁後半。
ただ、広告主への波及も想定されます。
数字はまだ固めます」
啓文は資料の一行をじっと見つめていた。
推薦表示回数。
視聴維持率。
投げ銭発生時刻。
どれも、星河では日常的に使われてきた数字だった。
だが今は、訴訟対応資料の項目になっていた。
星河は今、グローバル市場の要求と向き合うために、
これまで当然のように回っていたいくつかの歯車を、
止めなければならなくなっている。
「ナスダック上場は、スケジュール通りいかないかもしれないな」
その事実に、啓文はただ、静かに向き合っていた。




