王の言葉(5)
会見から一週間後。啓文のデスクに、小鹿家族の代理人弁護士から正式な書面が届いた。
分厚い封筒を開け、中身を読み進めるにつれ、啓文の表情が静かに沈んでいった。
書面の最後、家族の声が直接綴られていた。
「私たちは、娘が動画を撮ること自体を否定するつもりはありません。
しかし、プラットフォームは、地方の未成年の子どもが、
突然何十万人もの視線と投げ銭を浴びることの危険性を、本当に理解していたのでしょうか。
娘はただ、注目を浴びたかった。
それが、命を落としかけるほどの代償を伴うことになるとは、思ってもいませんでした。」
啓文は書面を置いて、椅子の背もたれに体を預けた。
小鹿のことを、改めて思い浮かべる。
中国本土の地方都市出身。
経済的には極貧というわけではないが、決して裕福でもない家庭。
添付された資料には、事故前の動画の一覧と、数枚のスクリーンショットがあった。
地元の廃工場、建設途中で止まった高層ビル、錆びついた鉄骨の上で踊る細い身体。
夕方の橙色の光、スマホの画角、危うい足場。
「田舎の廃墟をステージに変える子」としてバズり、
フォロワーが急激に増え、投げ銭が殺到した。
視聴者たちはコメントで煽った。
「もっとヤバいの見たい」
「次は何するの?」
「君ならできるよ」
彼女は応え続けた。
そして、限界を超えた。
親は、娘が動画を撮っていること自体は知っていた。
しかし、投げ銭の金額、ランキングの仕組み、視聴者からの無言の圧力までは、理解していなかった。
啓文は目を閉じた。
賀総の声が、頭の中に蘇る。
『彼女たちは、自分の価値を証明したくてここにいるんだ』
あの言葉を、啓文は今でも覚えている。
ラボで新機能の説明をしていたときの、賀総の熱のこもった目。
啓文は書面をもう一度手に取り、家族の言葉をゆっくりと読み返した。
「プラットフォームは……本当に理解していたのか」
自分自身に問いかけるような声で、啓文は小さく呟いた。
星河は彼女を見つけた。
ステージを与えた。
視線を与えた。
価値を証明する機会を与えた。
そして、地方の十六歳の少女にとっては、命を賭ける天秤でもあった。
「創作の自由」
その言葉で、どこまでを照らし、どこから先を見落としてきたのか。
啓文には、まだ答えがなかった。




