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0.3秒の王国 ―アルゴリズムの王と宰相―  作者: Furi0804
第2章 透明性の代償
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王の言葉(5)

会見から一週間後。啓文のデスクに、小鹿家族の代理人弁護士から正式な書面が届いた。




分厚い封筒を開け、中身を読み進めるにつれ、啓文の表情が静かに沈んでいった。


書面の最後、家族の声が直接綴られていた。




「私たちは、娘が動画を撮ること自体を否定するつもりはありません。


しかし、プラットフォームは、地方の未成年の子どもが、


突然何十万人もの視線と投げ銭を浴びることの危険性を、本当に理解していたのでしょうか。




娘はただ、注目を浴びたかった。


それが、命を落としかけるほどの代償を伴うことになるとは、思ってもいませんでした。」




啓文は書面を置いて、椅子の背もたれに体を預けた。




小鹿のことを、改めて思い浮かべる。




中国本土の地方都市出身。


経済的には極貧というわけではないが、決して裕福でもない家庭。




添付された資料には、事故前の動画の一覧と、数枚のスクリーンショットがあった。




地元の廃工場、建設途中で止まった高層ビル、錆びついた鉄骨の上で踊る細い身体。


夕方の橙色の光、スマホの画角、危うい足場。




「田舎の廃墟をステージに変える子」としてバズり、


フォロワーが急激に増え、投げ銭が殺到した。


視聴者たちはコメントで煽った。




「もっとヤバいの見たい」


「次は何するの?」


「君ならできるよ」




彼女は応え続けた。


そして、限界を超えた。




親は、娘が動画を撮っていること自体は知っていた。


しかし、投げ銭の金額、ランキングの仕組み、視聴者からの無言の圧力までは、理解していなかった。




啓文は目を閉じた。


賀総の声が、頭の中に蘇る。




『彼女たちは、自分の価値を証明したくてここにいるんだ』




あの言葉を、啓文は今でも覚えている。


ラボで新機能の説明をしていたときの、賀総の熱のこもった目。




啓文は書面をもう一度手に取り、家族の言葉をゆっくりと読み返した。




「プラットフォームは……本当に理解していたのか」




自分自身に問いかけるような声で、啓文は小さく呟いた。




星河は彼女を見つけた。


ステージを与えた。


視線を与えた。


価値を証明する機会を与えた。


そして、地方の十六歳の少女にとっては、命を賭ける天秤でもあった。




「創作の自由」




その言葉で、どこまでを照らし、どこから先を見落としてきたのか。


啓文には、まだ答えがなかった。

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