王の言葉(3)
星河本社 大会議室。
フラッシュの嵐の中で、啓文は隣に座る賀雲舟の横顔をちらりと見た。
賀総は表面上は落ち着いていたが、左手の指が軽くテーブルを叩いているのが見えた。
壇上には、啓文、賀雲舟、信頼安全チームのチーフの3人。
啓文がマイクを取った。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。
星河互娛集団コーポレートコミュニケーション本部。
危機管理広報部長の周啓文です。
本日の司会を務めさせていただきます」
軽く一礼。
「今日お話しいたしますのは、弊社プラットフォームにおける、
未成年クリエイターの取り扱いに関する新たな規則です」
啓文の説明が終わると、会場に緊張した沈黙が落ちた。
質疑応答が始まる。
フラッシュが焚かれる中、最初に手が上がったのは、東亜財経の沈予真だった。
彼女は立ち上がり、落ち着いた声で質問を投げかけた。
「賀総裁にお伺いします。
今回の事案について、総裁ご自身はどのように受け止めていらっしゃいますか?
先日のご自身のSNS投稿では、『創作には失敗も逸脱もある』と仰っていましたが……」
会場全体の視線が、一斉に賀総に集中した。
啓文は隣で、静かに息を止めた。
賀総はマイクを引き寄せ、ゆっくりと口を開いた。
「まず、今回の件は本当に痛ましいと思っています。
クリエイターとご家族の方々には、心よりお見舞い申し上げます。
安全対策を強化する方向で、ただいま設計を見直しているところです」
そこまでは、無難だった。
予真が質問を重ねる。
「では、ご自身の発言と、本日の安全対策の発表は、どのように整合するのでしょうか」
啓文の背中に冷たい汗が伝うのがわかった。
賀総は語気を強めて答える。
「安全対策は必要です。特に、まだ世界の理を知らない未成年に対しては。
ただ、クリエイターが自分の限界を試したいと思うこと自体を、僕は否定したくない。
問題は、その限界が危険な方向へ向かう前に、プラットフォームが止められるかどうかです」
会場がどよめいた。
賀総はまだ続けていた。声に熱がこもっていく。
「星河は、クリエイターが自由に輝ける場所でありたい。
もちろん安全は大事ですが、それを言い訳に、表現の可能性まで狭めてしまうのは……
違うと思うんです」
啓文は素早くマイクを引き寄せ、フォローに入った。
「補足いたします。賀総裁が申し上げたのは、
創作の自由と安全対策を対立させるべきではない、という趣旨です。
先ほどご説明申し上げた通り、未成年クリエイターの危険企画について、
収益化とランキング掲載を一時停止し……」
しかし、フラッシュの嵐はさらに激しくなり、
記者の視線はもはや啓文ではなく、賀総に集中していた。
沈予真は座りながらも、静かにノートに何かを書き込んでいた。
啓文は隣の男の横顔を、横目で見た。
また、守りきれなかった。




