番外編~目覚めの時には
※宰相の独白?です。
自分はどんな形をしていただろうか?
髪の色は?
眼の色は?
鼻の形は?
唇の形は?
全てが曖昧で不確か。
記憶に霞がかかったようで、あやふや。
自分はこんなにも記憶力がなかっただろうか。
陛下の最強の懐刀と呼ばれ、宰相としてその智を思うが侭にふるってきた。
だが。と言葉を区切る。
そう、ふるってきた、だ。それは既に過去の事。
ならばこうして漂う意識はなんだろうかと、そこで再び首を傾げる。
段々と、あやふやで曖昧だったものが形になってくるが、その中でただ一つ。たった一つだけ色鮮やかなものがある。
例え自身を忘れたとしても、決して失いたくなかったモノ。
綺麗だった。
陳腐な言葉だが、それしか言いようがなかった。
色鮮やかな色彩。
それにも目を奪われるが、それだけじゃなかった。
俺が心惹かれたのは、内から溢れる光だ。目を奪われ、一瞬で虜にされた。
しかし、その相手は俺が仕えるべき陛下の、奥方になる女だった。
女は身体が弱かったがそれでも、幸せな家庭だと思えた。
俺は宰相として城に勤め、女と陛下とその二人の子供を見守った。
素直ではない俺と、淑やかではない女。内から溢れ出す光に身体を蝕まれ、少ない寿命を更に削る。
だが、光は衰えない。
肉体の死が近付くにつれ、女の輝きは増すだけ。
眩しくて、目を細めずにはいられない。
最期の時。
俺は漸く本音を口にした。
必ず探し出す。
女はきっと、生まれ変わる。
女はきっと、人の理からは外れた存在なのだろう。
だからこそ眩しく。
だからこそこんなに欲しい。
俺は女を娶った。
銀の髪だけが似ている、何の特徴もない女だった。
だが、女を俺を大切にし、俺も女を大切にした。
俺も女も、身代わりだったのだ。
女は好いた男を死という形で永遠に失い、俺も失った。
傷を舐めあうように俺と女は、理想の家族という欲しがった未来を描き、夢に浸る。
俺が、女を看取る事はなかった。
俺が、先に死んだからだ。
リーウェルは多分、長生きしただろう。アイツはしぶとい。俺にそう言わせる程、アイツはしぶといんだ。
だから、その辺りは心配していない。
だが、俺が死んだのは寿命ではない。
まだ生命力に溢れるうちに、自身の魂を縛りつけ、この身体から離す。
俺の前には、箱に納められた女の髪。
死んでから数十年。今もなお輝かしいばかりの魔力を放つ女の髪。それに、俺は自身を縛り付けた。
女が再びこの星に生れ落ちたとき、俺も共に在れるようにとしっかりと楔を打つ。
準備は全て済んだ。
残りは、俺の子孫が終わらせてくれるだろう。
手筈は整え、それだけの知性を称えた子供が生まれ成長した。
次生れ落ちる時は、俺は宰相でもなく、リーウェルの親友でもない。
この国を手に入れた子孫は女を捜し、俺は網を張る。
そして今度こそ、女を手に入れる。
鉛のように重たい瞼をゆっくりと開けてみれば、目に飛び込んできたのは一面の銀世界。この色は好きな色だ。中々趣味がいいと辺りを見回せば何もない。
あるのは、この身一つだけ。
自由の利かない手足を苛立ちを含めて動かしてみれば、視界に収まるのは小さな手の平。
あぁ。漸く目が覚めた。
あぁ。漸く女がこの星に生れ落ちたのか。
よくよく見れば、籠にいれられ温かな毛布に包まれている。そして、母親と思しき女が駆け寄ってきた。
どうやら、俺は連れ去られたらしい。
まったくくずらない俺に、母親らしき女は父親らしき男に賢明に何かを訴えかける。ショックがどうだこうだと。
馬鹿らしい。
俺が目覚めてしまえば、この身に宿る魔力でどうとでもなるというものを。
だが、あの女はきっと、この身の両親を大切にしない俺を諌めるだろう。
ならば仮初といえど、俺はこの二人の子を演じ、大切にしよう。
俺の身体が成長するまで。
ちょっとした退屈しのぎだと思えばそれ程苦にはならない。
今頃、あの女もこの景色を見ているのだろうかと、そう思えば心の中は温かいもので満たされた。