一
クラウドは、飛び掛かってきた魔物を一刀両断していく。
「あいつ、こんな隠し玉持ってやがったのか」
バイソンの心底感心したような声に、ラミーナが舌打ちする。
「感心してる場合じゃないでしょう! なんであの男、こんなに魔物を召喚できるのよ」
文句を言いながら、詠唱破棄できる魔法で次々に魔物を吹き飛ばしていく。すると、アンが小さく「いや、当然のことだ」と呟いた。
「グレイは、あいつは、おそらくシエラ=ロベラッティの魔力を吸い取ったのだ。あの様子だと、相当持っていかれたのだろうな。そしてなにより、これだけの魔物を召喚するだけの魔力だ。間違いないだろう」
「そうは言っても、以前彼は、吸い取れる魔力にも上限はあると言っていました。シエラの魔力を吸ったとしても、これほどのこと……」
「いや、お前たちがここに来る前、グレイの野郎はアークのメンバーとやりあってた。相当な魔力を消費したはずだからな。すっからかんになったところに魔力を吸えば、そりゃこんだけのこともできるだろうよ」
ウエーバーが口にした疑問は、一連の出来事を監視していたジルが解消した。
ジルは軽い身のこなしで中空で体をひねり、ジャマダハルと蹴撃で四方八方から来る敵をなぎ倒していく。
「ったく、これじゃキリがない」
「ふん、そうは言っても、随分と生き生きとしているじゃないか」
サルバナは槍を薙ぎ払い、さらりと黄金の髪をなびかせる。まるで踊りでも披露するかのごとく軽やかな動きだ。
「あらぁ、ジルちゃんのことそんな風に言って、そちらさんも随分愉しそうじゃない? ねぇ、ショコラ!」
必殺の拳を容赦なく叩き込みながら、ビルダは笑い。ショコラは心底面白くなさそうに眉をひそめる。
「いいからこのアホみたいな数をどうにかしやが――れってんだ!」
ショコラが足を踏み鳴らす。地面を伝い衝撃が広がり、地面が隆起する。魔物たちは衝撃に吹き飛ばされ散り散りになっていく。
「相変わらずショコラの魔法は景気がいいですね」
「あら、グラベボ、あなたもその気になれば使えるのではなくって?」
「まぁ、そうですけど。使い手ではありませんので、魔力の消費量が大きいんですよ。ねぇ、フォーワード?」
「そうだな」
グラベボとフォーワードは背中あわせで戦い、エリーザはアンを守るようにしながら縦横無尽に戦場を駆ける。
「我々が殲滅戦を得意としていないのを知った上ででしょうか」
エリーザはアンのはった結界の周辺に集まった魔物を、一体ずつ確実に仕留めていく。アンは自分の身を守りつつ、周囲に防壁のように結界を作り出す。
「だろうな。ここで魔力を使い切らせるつもりなのだろう。……少なくとも、力を温存させてくれるほど柔な相手ではない」
「ねぇ、アールフィルト、この魔物放っておいてあいつ追いかけるんじゃダメなのぉ?」
「……ふん。そうしたいのはやまやまだがな」
「そんなの、僕らが許すとでも? いくら他国とはいえ、魔物を野放しにすることが、どれだけの混乱を招くか。あなたたちだって想像できるでしょう」
「そうよねぇ」
飛び掛かってくる群れに体をひねりながら、ビルダは拳を叩き込んでいく。
「ったく、仕方ねーな」
ショコラはビルダの陰から飛び出し、魔物たちの群れの中に躍り出た。
「アールフィルト!」
「まさか私に指図するとはな!」
アンはショコラの眼前に群れる魔物たちを結界で取り囲んだ。
「命脈する星の息吹、流転する大いなる力――ロード・グラウンド!」
ショコラの詠唱とともに、大地が隆起し、岩の"つらら"が出現する。結界の中で行われた圧倒的虐殺に、思わずアンは目をそらす。
「これで少しはマシになったか?」
「ちょっとショコラ、あんたも魔力ペース考えておきなさいよぉ! 本丸に着く前にバテられても困るんだからねぇ!」
「あぁん!? 仕方ねーだろーが! こいつらうじゃうじゃいるんだから!」
そう、ショコラが圧倒的な虐殺をしたところで、まだ魔物はいる。岬を埋め尽くすほどのそれらは、最早なんのためにここにいるのかなど理解していないだろう。ただ目の前にいる外敵を殺す。ただそれだけの本能で襲いかかってくる。
「たしかに、これではシエラに追いつけそうにもないな」
ユファはバイソンの拳から逃れて来た魔物たちを魔法で攻撃しながら、あたりを見まわした。この消耗戦は相手の作戦勝ちだ。ならば、こちらもなりふり構わず行動するしかないだろう。
「コトノ……! 力を貸してくれ!」
ユファはイヴに向かって叫んだ。その場にいた全員、一瞬躊躇したような表情を浮かべたが、ユファは続ける。
「いつまで傍観者でいるつもりなんだ!」
これは人の世の終わりなのか、これは世界すべて、生きとし生けるものすべての問題なのではないか。ユファはコトノに問いかける。
イヴは小さく鳴き、淡く体を光らせた。そして、影からコトノの姿が現れた。
「全く、ひとづかい……神づかいが荒いのぉ」
静かな湖面のようなコトノの瞳が、燃えるような火の色に変わる。
「よかろう。人の身にはかなわぬ、私ゆえの力をもって、この獣畜生どもを葬ってしまおうか」
コトノは、両手を大きく広げ、群がる魔物どもを宙に浮かばせる。まるで金縛りにあったように魔物たちは動けない。
「人の子よ。さっさと行け。そして、シエラを……世界を救っておくれ」
うっすらと笑みを浮かべた彼女は、どこか寂しげだった。クラウドは魔物を薙ぎ払いながら、岬の先端に向かって走った。
「これで……決着をつける!!」
そして、魔法陣の中に飛び込んだ。




