↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リディア―世界の中で―  作者: 知佳
第二十一章
PR
152/159

三

「――つまり、宝玉は、聖玉は、世界の果てにいるローディラルトを倒すべく生み出されたものということか」

 クラウドの、大きな異物をかみ砕こうとしながら呟かれた言葉が、ひどく、重かった。

 適合者たちには、コトノが以前、聖玉の由来はエゴだと話していた、その理由がよく分かった。

 失われたものを取り戻すために、ローディラルトを利用したかった。利用するために、リディア達も利用した。

 自らの欲望のために、自らの手を汚さない方法を用いた。

「御主たちが日記を集めたがゆえ、二千年前の最高神ミコトの日記が読めるようになった。今私が語ったことは、その日記より知れ得たことじゃ。じゃが、以前言ったな、聖玉はエゴより作られしものであると。我らがかつての同胞たちは、この世界を、己が箱庭としか思っておらんかったことは、"私"の記憶にもある通りじゃ」

 二千年前の適語者たちが、利用されるために選ばれたとして、自分たちはどうなのだろうか。

 他人のエゴの渦に呑み込まれ、このままあがく事もできずに、終わるのだろうか。

 クラウドの中に様々な思いが浮かんでくる。

 そして、一つ、認めたくない思いさえも、浮かんでしまった。

 自分の大切にしている存在が、他人に利用され、その一生を左右されていたと知ったなら。自分は、一体どれだけの怒りと悔恨を募らせるだろうか、と。

 きっとこれが、グレイ=ジェルドが二千年の長きにわたって募らせた、悲しみと無力感なのだろう。

 全てを破壊し、正すまいと躍起になる男の、原点なのだろう。

 ――けれど、本当に利用されて終わったのだろうか。彼らは、いや、俺たちは、このまま誰かの思惑のままでいいんだろうか。

「なぁ。……聖玉は、つまりローディラルトの力ってわけだろう。世界を創った神の力を借りているんだろう。そんで、俺たちの目の前の問題を、どう解決するかってことだけどよ……」

 クラウドは、その先の言葉が言えなかった。

 何が正しくて、何が悪いかなんて、もう不毛な議論だった。

 何をしたくて、何ができて、何を捨てなければならないのか、それさえも絡めとられてしまいそうだった。

 しばしの沈黙の後、ユファが口を開いた。

「きっと、誰かの幸せは、誰かの不幸なんだろうな。そして私達は、聖玉というシステムに、あまりにも慣れ過ぎてしまったんだろう。聖玉がなくても、世界があり続けられるのなら、もう、聖玉なんてなくてもいいのかもしれない。ブラドワールと他の国との問題は、政治的に、話し合いで解決をすべきものだ。きっかけが聖玉というシステムだったのなら、私達には、そのシステムを変える権利だってあるはずだ」

 ユファはアンを真っ直ぐに見た。

「聖玉というシステムを変えるべきかどうか、そもそもそこから話し合うべきだろうな。けれど、今は時間がない。何より、私は……」

「シエラのことが心配、なんだよね?」

「サルバナ……」

「確かに俺たちは、敵っていう立場なのかもしれない。でも、今はそれさえも揺らいでいる状況だ。そんな中で、俺たちが、一つ揺らがないでいられるものといえば」

「シエラを助けること、ですね」

 ウエーバーの言葉に、サルバナが微笑んだ。

 クラウドは、ラミーナを見やった。彼女は、腕を組みながら、目をつむっていた。眉間にはしわが寄っている。何かを言おうと数度口を開き、ようやく言葉を発した。

「……シエラを、助けましょう。そのために出来ることなら、なんでもするわよ。たとえ、あんた達ブラドワールの力を借りることになっても、ね」

 その言葉に、アンも首肯した。

「――我々の目的は、シエラ=ロベラッティを救出し、グレイを止める」

 決して根本の解決に至ったわけではない。

 言葉をかわし、互いの立場を知り、新しい道を模索しなければならない。

 それでも、今やっと、一つの目的に向かって、彼らは歩き始めた。

 重い塊が胸に残るのを感じながら、この時のクラウドはただただ前を見るしかなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。