三
「――つまり、宝玉は、聖玉は、世界の果てにいるローディラルトを倒すべく生み出されたものということか」
クラウドの、大きな異物をかみ砕こうとしながら呟かれた言葉が、ひどく、重かった。
適合者たちには、コトノが以前、聖玉の由来はエゴだと話していた、その理由がよく分かった。
失われたものを取り戻すために、ローディラルトを利用したかった。利用するために、リディア達も利用した。
自らの欲望のために、自らの手を汚さない方法を用いた。
「御主たちが日記を集めたがゆえ、二千年前の最高神ミコトの日記が読めるようになった。今私が語ったことは、その日記より知れ得たことじゃ。じゃが、以前言ったな、聖玉はエゴより作られしものであると。我らがかつての同胞たちは、この世界を、己が箱庭としか思っておらんかったことは、"私"の記憶にもある通りじゃ」
二千年前の適語者たちが、利用されるために選ばれたとして、自分たちはどうなのだろうか。
他人のエゴの渦に呑み込まれ、このままあがく事もできずに、終わるのだろうか。
クラウドの中に様々な思いが浮かんでくる。
そして、一つ、認めたくない思いさえも、浮かんでしまった。
自分の大切にしている存在が、他人に利用され、その一生を左右されていたと知ったなら。自分は、一体どれだけの怒りと悔恨を募らせるだろうか、と。
きっとこれが、グレイ=ジェルドが二千年の長きにわたって募らせた、悲しみと無力感なのだろう。
全てを破壊し、正すまいと躍起になる男の、原点なのだろう。
――けれど、本当に利用されて終わったのだろうか。彼らは、いや、俺たちは、このまま誰かの思惑のままでいいんだろうか。
「なぁ。……聖玉は、つまりローディラルトの力ってわけだろう。世界を創った神の力を借りているんだろう。そんで、俺たちの目の前の問題を、どう解決するかってことだけどよ……」
クラウドは、その先の言葉が言えなかった。
何が正しくて、何が悪いかなんて、もう不毛な議論だった。
何をしたくて、何ができて、何を捨てなければならないのか、それさえも絡めとられてしまいそうだった。
しばしの沈黙の後、ユファが口を開いた。
「きっと、誰かの幸せは、誰かの不幸なんだろうな。そして私達は、聖玉というシステムに、あまりにも慣れ過ぎてしまったんだろう。聖玉がなくても、世界があり続けられるのなら、もう、聖玉なんてなくてもいいのかもしれない。ブラドワールと他の国との問題は、政治的に、話し合いで解決をすべきものだ。きっかけが聖玉というシステムだったのなら、私達には、そのシステムを変える権利だってあるはずだ」
ユファはアンを真っ直ぐに見た。
「聖玉というシステムを変えるべきかどうか、そもそもそこから話し合うべきだろうな。けれど、今は時間がない。何より、私は……」
「シエラのことが心配、なんだよね?」
「サルバナ……」
「確かに俺たちは、敵っていう立場なのかもしれない。でも、今はそれさえも揺らいでいる状況だ。そんな中で、俺たちが、一つ揺らがないでいられるものといえば」
「シエラを助けること、ですね」
ウエーバーの言葉に、サルバナが微笑んだ。
クラウドは、ラミーナを見やった。彼女は、腕を組みながら、目をつむっていた。眉間にはしわが寄っている。何かを言おうと数度口を開き、ようやく言葉を発した。
「……シエラを、助けましょう。そのために出来ることなら、なんでもするわよ。たとえ、あんた達ブラドワールの力を借りることになっても、ね」
その言葉に、アンも首肯した。
「――我々の目的は、シエラ=ロベラッティを救出し、グレイを止める」
決して根本の解決に至ったわけではない。
言葉をかわし、互いの立場を知り、新しい道を模索しなければならない。
それでも、今やっと、一つの目的に向かって、彼らは歩き始めた。
重い塊が胸に残るのを感じながら、この時のクラウドはただただ前を見るしかなかった。




