幕間
****
時はさかのぼり、シエラとグレイが消えた神殿。
クラウドは朦朧とした意識の中、視線を彷徨わせた。
グレイによってクラウドの体は岩に呑み込まれている。傷を負った今の体では、自力で抜け出すのはほぼ不可能だった。他の仲間たちも岩によって動くことはおろか、クラウド以外意識を失っている。
――どうにかして、こっから抜け出さねぇと……。
シエラの連れて行かれた先は分からないが、一刻も早く追いかけなければならない。宝玉を失ったことも大きいが、このままシエラをグレイの好きにさせていくことが許せない。
唯一自由の利く右手で岩を殴るが、その程度で壊れるわけもない。何か手はないかと模索していると、耳馴染みのある鳴き声が聞こえてきた。
「きゅーん……」
イヴだった。どこか物陰に隠れていたのだろうか。とことことクラウドに向かって駆けてくるその小動物の変わらぬ毛並に、安堵の息が漏れた。
「きゅん!!」
そんなクラウドの気持ちを知ってか知らずか、イヴは高く鳴くと勢いよく駆けだした。その体は青白い光に包まれ始める。
クラウドがじっと見守る中、光の毛玉のようになったイヴが宙に舞い上がる。光が強くなる。そしてクラウドの体が温もりに包まれていく。クラウドだけはない。この空間にいるもの全てを、その光が包み込む。
「これは……」
次いで浮遊感に襲われる。体を覆う岩は砂のように溶けていき、クラウドの体はゆっくりと地面に下ろされる。体に伝わる温もりは、体の芯から力が湧いてくるようだった。
クラウドは宙で光を放つイヴを見上げた。その光の幻影に、一人の女性が見えた。白銀の長髪をなびかせながら、慈愛のような瞳をまつ毛の影に揺らしている。
「あいつは……神の遣いの」
――そうか、イヴはずっと……。
クラウドが納得しているうちに、イヴの体はもとに戻っていた。
「きゅーん」
「ありがとな、イヴ」
傷が完治したわけではないが、それでも体力も魔力もかなり回復した。これなら他の仲間たちが目を覚ますのも時間の問題だろう。そして、敵が目を覚ますのも。
クラウドが考えあぐねていると、背後から気配を感じた。振り向けば、そこにはアン=ローゼンが息も絶え絶えに立っていた。
「グレイは……どこに消えた……」
今までの湖畔のように薙いだ瞳が嘘のように、殺意を伝えてくる様子に、クラウドは眉をひそめた。
「あの男は俺たちの仲間を一人連れて消えやがった」
端的に言えば、アンは心底忌々しそうに歯を噛み締めた。
「連れて行かれたのはシエラ=ロベラッティか……」
アンは一人ごちると、クラウドには見向きもせずにエリーザのもとへ歩き出す。
ちぐはぐな少女の背中にクラウドは眉を顰めながらも、口を挟むことは出来なかった。
「クラウド=ディワーディス」
「……なんだ」
「宝玉を失った今、貴様は自分は適合者であるといえるか」
その問いかけの意味を、クラウドは考える。倒れた仲間の顔と、ここにいない少女のことが脳裏に浮かんでくる。
「確かに、宝玉は俺の体にない。だけどな、俺たちは宝玉に選ばれた。その事実は、俺たちが死んだとしても覆らない。だから俺たちは――適合者だ」
クラウドの答えに、アンはゆっくりと振り返った。薄暗い神殿であっても、彼女の意志を持つ瞳の色が分かる。
「それでは以前我々は敵だな」
アンの指先がクラウドの心臓を示す。
「けれど、宝玉を持たぬ貴様らと争う道理はない」
歪になってしまった神殿の中で、彼女の持つ真正なものが響く。
「ついて来い――クラウド=ディワーディス」
その有無を言わさぬ物言いに、クラウドは一歩を踏み出した。
アンとクラウド。グレイに敗れた刺客たちと適合者はこの後一体……。




