幕間
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「――生きるか死ぬか、ここで選びなさい」
問いかけた少女の声は、微塵の震えも感じさせなかった。澄み切った翡翠の瞳が強く心を射抜く。男は自然と口許が緩むのを感じた。
「その賭け、俺は乗ろう」
男は狭い檻の世界で、自らの意志で選んだ。目の前の少女は、満足そうに笑い、辺りを見回す。そしてまた一人、また一人と少女の言葉に自らの運命を選ぶものがいた。
男は決してこの日のことを後悔していない。この日の決断は、もはや運命だったのだ。
そして八人は旅に出た。最初はいがみ合っていた。生まれた場所も育った環境も、あまりにも違い過ぎた。ただただお互いが異端であったこと以外は、男と仲間を繋ぎ止める楔はなかった。
男は隣を歩く、深緑の髪をした男の横顔を睨む。切れ長の深緑の瞳に、引き結ばれた口許はこの男の不器用さを表している。無骨な指は男のものと同等に荒れていた。
しかしその横顔は、次第に変わっていく。
屈託なく口を大きく開けて笑う。こらえるように下を向いて唇を震わして笑う。愛しいものを見つめて微笑む。一つ一つの顔に色がついていく。
背中を預けともに戦い、幾多の困難を乗り越えた。困難という言葉でさえ陳腐になるほど、多くの敵を斬りはらってきた。そして勝利にはともに酒を呑み、技を磨き、誓いを立てた。
「この旅が終わったら、国を創ろう」
「誰にも支配されず、何者にも迫害されない。どんな人間だろうと、自由に生きていける。――俺たちになら、創れるはずだ」
「そうだな。ブラドワールよ、お前なら、きっと良き王になれるだろう」
これは、丘の上の誓い。澄み渡る蒼空の下、二人の騎士が誓った、遠い日の、誓いだ。そして、その二人の、否、目の前にいる深緑の男の顔がだんだんと白い光の中に歪んでいく。霞がかかり遠くに意識が消えて行く。そして今までの記憶が、走馬灯のように駆け抜けていく。戻れない思い出が、色を取り戻しながら離れていく。
そして、時は動き出す。
「――お前より生きることを、絶対に許すな」
吐き出されたのは呪詛だった。全てを縛る、悔恨の呪詛。曇天の中、死臭が辺りを満たしていた。深緑の髪の毛は、返り血で染まっていた。無骨な腕に握られた剣は、小刻みに揺れていた。安らかな男の死に顔は、まるで全てを許しているようで、それが逆に咎のようであった。それが自らの犯した罪を鮮明にし、何よりも恐ろしかった。
気づけば、亡骸に縋りついて泣いている仲間たちがいた。男の穴の開いた心に滑り込むように入ってきたのは、仲間たちの嗚咽に他ならなかった。
金色に輝く、カナリヤのような髪の毛は、今ではもうその色を濁らせていた。男は、友であったその男の亡骸に、最早縋る事すら出来ないでいた。心が痺れて動かない。けれど、それでも胸の奥からせり上がってくる熱だけはどうしようもなく、ただただ瞼を閉じる。
仲間たちのむせび泣く声が、愛しい人の悲しい声が、男の胸を千々に切り裂いていく。取り戻すことは、叶わない。許されるのは、ただ前に歩き続けることだけ。
そしてカナリヤの光は、溶けぬ氷の中に閉じ込められた。
これは、残酷な決断だった。
二日後、戦場の真ん中で、死んだ男の体から美しく輝く宝玉が取り出された。
英雄の証は、かくして消え去った。二千年にも及ぶ深い溝とともに、歴史に刻まれて。




