四
シエラ達がひんやりとした堅い岩の感覚に目を覚ますと、そこは薄暗い場所だった。
堅い石畳が整えられ、視線を少し上にすれば祠らしきものが見える。どうやらここは神殿らしい。シエラは腕を動かそうとしたが、後ろ手に縄で縛られて動けない。足も拘束されており、芋虫のような恰好で寝ていることしか出来なかった。
「みなさん、大丈夫ですか?」
視線を少し右下に動かせば、同じように縛られ寝転がされたウエーバーがいた。その奥にはラミーナ、ユファ、バイソンがおり、シエラの左側にはイヴ、クラウド、サルバナがいた。誰も自由に動けるものはいない。
「グラベボ=ビーン……あいつが、なぜ……」
クラウドの低く呻く声にシエラははっとした。
馬車に乗り込んできたのは間違いなくグラベボ=ビーンだった。そしてグラベボが乗り込んできた瞬間、体が上から押さえつけれたように重く動かなくなり、気づけばここにいた。
「前もってあの馬車に罠をかけて待ってたってことかしら」
ラミーナが皮肉げに笑う。その眉間には青筋が見えていた。シエラがラミーナに声をかけようとしたとき、シエラ達の後ろ側から人の足音が聞こえてきた。言いようのない恐怖がじりじりと迫ってくる。
「ご苦労だったな、グラベボ」
背中越しに聞こえてきたのは、聞き覚えのある、平坦な声だった。足音は一人分。少女はシエラ達の目の前に立った。
「いいえ、これぐらいならいくらでも」
そしてどこから現れたのか、アン=ローゼンの隣にはグラベボが立っていた。そしてエリーザ、ジル、ショコラ、ビルダ、フォーワードも控えていた。
「全員集合ってやつか」
バイソンの頬を汗が伝う。シエラも喉が渇くのを感じた。背中も濡れてきた。
「ようこそ、適合者」
アンが感情のこもっていない瞳でシエラ達を見下ろす。彼女が一歩前に出る。するとシエラ達を囲むように地面に複雑な魔法陣が浮かび上がった。アンの額にある紋様と呼応するように青白く光を放っている。
そして横に控えていたエリーザがボロボロの冊子を差し出す。
「見ろ。これはブラドワールの日記だ。お前たちが求めていたものだ」
アンが高く掲げ、それに釣られるようにシエラ達も視線でそれを追う。上半身をわずかにのけぞらせ、アンが持つそれを食い入るように見た。
「なぜ、あんたらがそれを持っている」
ユファの落ち着き払った、険のある物言いにアンは動じることもなく、口を開く。
「我々がこれを有するにふさわしい人間だからだ。そして、これをもって全ての日記と、全ての宝玉がそろった」
アンが右手をかざした。シエラ達の荷物の中から、今まで集めて来た日記たちが飛び出してきた。そしてアンの頭上に浮かんでいる。そして奪われていたディアナとナールの日記も、その列に加わっている。
「――時は満ちた」
シエラ達を囲む魔法陣が強く明滅をくり返し始める。シエラ達の体が徐々に熱を帯び始める。シエラは最初にアンと遭遇し、宝玉を抜かれそうになったことを思い出した。
あのときは腕を体の中に突き立てられ、異物感と宝玉の熱で頭がおかしくなりそうだった。いまも、段々と熱くなる体と、加速する鼓動に心臓が痛い。シエラは歯を食いしばる。負けたくないという気持ちと、ここで宝玉を渡してはならないという使命感がシエラの身を奮い立たせる。
びりびりと体中に電流が迸った。激痛と、心臓のあたりに違和感を覚えた。自分の血の流れている部分が、どんどん外側に剥がされていくような鋭い痛みが全身を襲う。
――前よりもずっと、宝玉と体が馴染んだからかな。痛いけど、まだ出ていかない。
朦朧とし始めた頭の片隅でシエラがそう思った瞬間、強烈な痛みが走った。
「!?」
あまりに突然のことで、喉を奥から息が漏れるだけだった。しかし、その間隙を突くように、体から何かが離れていってしまう。
――ダメだダメだダメだ行くな行くな行くな……!!!!
シエラは心の中で強く念じる。掴めそうで掴めないものが、空を切ってどこか遠くに行ってしまう。
――嫌だ……!!!!
瞬間、シエラの体が宝玉の光に呑み込まれた。それは空間全てを覆いつくし、シエラ達の意識を奪い去るのだった。




