一
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夢を、見ている。
当たり前のことのように、シエラはそう認識した。ここは夢の中で、私はただの傍観者なのだと、シエラは抵抗もなく受け入れた。それは、もう何度目になるか分からない"夢"のうちの一つなのだと、冷静に理解できているからだろう。
穏やかな青空のもと、花が咲いている草原の、少し遠くの方で、女性が微笑んでいるのが見えた。穏やかな笑みの先には、一人の男性がいた。男性の深緑の髪が風に揺らめく。その深緑に、シエラは視線が釘づけになった。男性は女性に近づくと、腰にさげていた剣を地面に置いた。愛おしそうに、男性はゆっくりと女性を抱きしめる。女性は幸福を噛み締めるような笑みを浮かべながら、男性の背中に腕を回した。
女性の長い茶髪が風にさらわれていく。
あぁ、なんて幸せそうなんだろう。
シエラはぼんやりとそんな風に思った。普段なら、男女のこのような場面に遭遇したら赤面して騒いでいるところだが、なぜか心は波立たない。
風が吹いた。シエラは思わず目を瞑る。そして目を開くと景色が変わっていた。
あたりからは煙が立ち上り、灰色の空の下で、何人もの人が傷つき倒れていた。地面に突き刺さった幾千もの刃と、立ち上る煙がその場の凄惨な出来事を物語っていた。
シエラは視線を動かし、この戦場の状況を探る。少し離れたところで、二人の騎兵が相対していた。何か言葉を交わしているらしい。言葉は風に流されて届かない。彼らは互いに眉をひそめ、唇を噛み、その表情からはただやりきれない思いが溢れている。
今なら、走ってあの二人を止められるだろう。
ふいに浮かんだ思いのままに、シエラは走り出した。けれど足は鉛のように重く、それでいて羽のように軽い。地面に足をつけている感覚はなく、一向に彼らとの距離は縮まらない。
二人の騎兵はいつの間にか馬から降り、何かを決心したように目を閉じて佇んでいた。
戦ってはいけない。あの二人は、戦うべきではない……。
シエラのものではないような、そんな強い確信が体を突き動かす。
白刃が煌めいた。剣と剣が激しくぶつかりあっている。容赦のない、一切の感情を殺したような斬撃の応酬。一人は二刀流。舞手のような、軽業師のような、軽快でいて華がある剣さばき。もう一人は、風のように早く、雷のような苛烈さを感じさせる剣の動き。
よく似ている。
ふいにそう思い、シエラは記憶の混濁を感じた。一体誰が誰に似ているというのだろう。知っているようで知らない二人の剣士。お互いのことを誰よりも理解しながら、誰よりもお互いを認め合いながらも、いつしか二人の道は別れてしまった。同じものを見つめながら、どこで間違ってしまったのかも分からないまま、二人は突き進んでいく。
「ダメ……だよ……」
絞り出してようやくそれだけを音にすることができた。シエラは一歩、前に進む。
「やめて……やめてよ……」
白刃が煌めく。火花が散り、命を削りあっている。
――二人の男の願いは、同じだった。紛れもなく、同じ夢を掲げ、同じものを目指していた。同じものを夢見ていたからこそ、二人は相対しているのかもしれない。
ぽろぽろと涙が溢れて来た。自分のものではない、けれど自分のものによく似た涙だった。熱い瞼から零れていく涙を拭うこともせず、ぼけやけてしまった視界を見つめる。
――誰が、誰がこんな未来を予想できたのだろう。
誰よりも互いを理解しあっていた、唯一無二の友で殺しあう日がきてしまうなんて、一体誰が思い描けたのだろう。激しくぶつかり合う剣戟は、二人の命を削っていた。そしてついに、結末は訪れる。
「お前より生きることを、絶対に許すな」
噛み殺した声だけが、曇天の世界でシエラの心に木霊した。




