六
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あれは俺がまだ普通学校に通っていた頃の事だ。ナールでは普通学校の最高学年試験の一つに、ゼログランの適性検査があってね。俺もそれを受けたんだ。
その頃の俺は親友のティノといつも授業をサボってて、教師からは問題児扱いされていたよ。そんなときに受けた検査だったから、教師達は俺たちにまさか適性があるなんて思っていなかったろうね。
けど、俺とティノはゼログランの適性検査に、トップ成績で受かってしまったんだ。ん? 検査の内容はね、フランが残した魔導書に魔力を注ぐだけだけだよ。大したことじゃない。
ま、なんだかんだで俺たち二人はその検査で、ゼログラン候補生として魔法学校への進学が決まったんだ。ナールには三つの名門と呼ばれる魔法学校があってね。それぞれにゼログランの候補生を集めた特別な授業が行われるんだ。それで俺たちもそのうちの一つに進学することになってね。
俺もティノも、その時は他人と違うってことに喜んでた大馬鹿だったよ。
魔法学校では色々な訓練を受けたよ。対人、対魔物の戦闘訓練は勿論、魔法の技術向上の座学に実習。親元を離れての寮生活だったから、やりたい放題だったね。
ちなみに、ルチアーノと出会ったのはその魔法学校でなんだ。
入学して半年が経とうとしてた時期だった。学期末になると試験が行われるんだけど、そこで俺とティノは初期段階テストを、これまたトップで通過したんだ。そうはいってもゼログランは特殊だからね、あまり使いすぎると人体に異常をきたすんだ。だから初期テストは全員魔力制限をかけられた状態で、僅かでも魔法が発動すれば合格なんだけどさ。俺とティノはばっちりだったってわけだよ。自慢じゃないよ、そういう事実として話しているし、みんなにもそういう事実として受け取めてほしい。
それで、成績トップだった俺たちは、いきなり三つ上のランクのクラスに移動になったんだ。そこにいたのがルチアーノでね。最初はそりが合わなくてね。何せ俺とティノはまだ十二、三のガキだったし。仲良くなってからは、ルチアーノは兄のような存在だったよ。
けどクラスアップしてからは、訓練は地獄だったよ。毎日毎日、ゼログランとの親和性を高めるための魔力調整に、実習。半年もすれば、慣れたけどね。
なんだかんだ、俺たちが魔法学校に入ってから一年が経っていた。冬だったんだけど、学年の入れ替わりの関係で寮生全員、親元に一度帰って次年度に備えての休暇になったんだ。俺とティノ、ルチアーノは同郷ってことで一緒に帰ることになったんだ。それで帰り道の途中、馬車の乗り換えをしたら、あろうことかその馬車が闇商人の馬車だったんだよね。しかもどうやら、俺たちがゼログラン候補生ってことを分かった上での犯行だったみたいで。
もちろん、俺たちも隙を見て逃げだそうとしたよ。ただ魔力制御の手錠とかされちゃったし、相手は大人数だし、ルチアーノでさえその時まだ十七とかだったから、正直怖くてたまらなかったね。どこか知らない場所に連れていかれてるってことだけはなんとなく分かってさ。最悪、ナールの外に出られちゃうから、俺たちはなるべく早く逃げようってことにして、とにかく隙を窺ってた。
幸い、とはいえなかったけど、少しだけ運が良かったのは、ティノが学校から術式を一つ無断で持ってきていたことでさ。魔法陣の写しが彼のポケットに入っていたんだ。あとは魔力の問題さなんとかなればよかった。まぁ、ゼログランはその特殊さ故に、使えば使うほど魔力が普通の人間のものとは違ってしまうんだ。俺たちよりも先に訓練を受けていたルチアーノは、魔力制御を僅かだけど無効化できた。
準備ができた俺たちは、敵が馬を休ませるために泉に寄っている間に、こっそりと縄や手錠を外した。それで見張りの数人はちょっと眠ってもらったりなんかして。これでうまく逃げられる、と思った矢先に敵の大将らしき人たち登場で、五十人ぐらいの大人に囲まれたよ。それも全員むさ苦しいオジサンばっか。これで素敵なお姉さんの一人や二人いたらまた気持ちも違ったかもしれないけどさ。
相手は武器なんか持ってるし、俺たちは訓練こそしているけど、本当の殺し合いなんかしたこと無かった。とりあえず威嚇のつもりで魔法を使ったけど、そんな魔法は効くわけもなくて、むしろ相手の神経を逆なでしてしまった。
本格的に、武器を持った相手との戦闘になった。戦わなければ殺される。いや、殺されることもそうだったけれど、知らない土地にどんな扱いをされるかも分からず連れていかれることの方が恐ろしかった。なんとか捕まらないように走って、魔法を放って、ひたすら敵から逃げた。けど、捕まるのは時間の問題だった。ルチアーノは足に大怪我を負わされていたし、俺は情けないことに、もう魔法が使えるような精神状態じゃなかった。唯一、ティノだけがまだ気を確かに持っていた。
俺はあの時のことは鮮明に覚えているよ。
ティノがポケットから術式を取り出すのと、相手に向かって叫んだのはほぼ同時だった。彼の怒りみたいなものが爆発したのかもしれない。魔力は全部術式に吸い込まれて、地面には巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。敵も抵抗されたことで頭に血が上って、容赦なくティノに斬りかかってきた。
けれど、目の前で敵は絶命していたよ。心臓を一突きだったんだろう。魔法陣から現れた無数の黒い触手みたいなものが、次々に敵を殺していった。いや、あれは殺すというよりも、食われているといった感じだった。気が付けばティノを中心に次々に死体の山が出来ていた。
――止めることさえ、出来なかったよ。
ティノ自身もいつの間にか、魔法陣の触手に飲み込まれていた。彼の右手を中心に赤いアザが浮かび上がって、すぐにそれは全身に回っていた。敵を全員殺し尽くしたっていうのに、触手はまだ物足りなさそうにしていた。ティノの魔力だってとっくに限界だったはずなのに、あいつは消えることなくのたうち回っていたよ。
そして、術者の魔力を――術者本人を食い尽くして、ようやく消えた。




