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リディア―世界の中で―  作者: 知佳
第十四章:紫
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106/159

一

「よし、これで必要なものはあらかた揃ったわね」

「うん、そうだね。最後に魔装加工のお店に行けば今日の目的はかんりょーっと」

 シエラとラミーナはナールの首都イルミカの街で買い物袋を抱えて歩いていた。

 ダリアミを出発してから数日、シエラ達はここで暫しの休養を取っていた。以前サルバナが提案していた、旅の身支度を改めて整えるためだ。ナールは流行の国と言われるだけあって本当に様々な店が軒を連ねている。シエラ達はこの街に来てからまず、サルバナのオススメだという洋服店に向かい、さらにそこからその服を魔力耐性のあるものに加工してくれるという店に向かった。今日はその加工が仕上がる日で、シエラ達はそれぞれ分担して必要品の買出しをしてから、その店に向かう予定である。

「それにしても、何日かここに滞在していて思ったんだけど、この街はすごい活気よね」

 ラミーナはすれ違う人々を視線で追う。

「確かに、みんな凄いオシャレとかに気を使っているというか……」

 目立つというか、奇抜というか。シエラも呟きながら、周りの人々を見回した。

「さすがサルバナの出身地よねー」

 ラミーナが漏らした苦笑に、思わずシエラも首肯してしまう。

 そうこうしているうちに、シエラ達は魔装加工店に着いた。店の中にはクラウド達もすでにいた。

「そちらも買い物終わったようだな」

「ユファもお疲れ様。で、遺跡の方はどうだった?」

「特に収穫はなかったよ」

「そっか」

 実はユファは今朝早くからこの街の外れにある遺跡に足を運んでいたのだ。もちろん、情報収集の為に。

「それで、服の方はどうしたの?」

「あぁ、今はウエーバーが調整をしてもらっているよ。クラウドとバイソンは先に済ませてもらった」

「クラウドとバイソン、どうだった?」

「おう、よかったぜ。俺は脚と手に魔力を集中させるからよ、そこらへんの魔力伝導とかもよくしてもらったぜ!」

「……バイソンから魔力伝導なんて単語が聞けるなんてッ!!」

 ラミーナは感激しているのか口元を手で覆い隠した。

「感動するとこそこかよっ!!」

「……ユファ、どうしよう私ついに一人お馬鹿として取り残されたかも」

「シエラ、大丈夫だ。バイソンの言葉は店員の受け売りだからな」

「あっ、ユファそんな簡単にバラすなよな!!」

「なによ感激して損したじゃない」

「あーっ、良かった」

「おいシエラもラミーナもひどくねぇか!」

「……はぁ」

 黙って話を聞いていたクラウドも思わず溜め息を吐いた。

「で、そんなクラウドはどうだったの?」

「……ん、あぁ。俺は特には。魔力耐性と防具の調整をしてもらったぐらいだな」

「ふーん。剣とかは良かったの?」

 シエラが、クラウドの肩にかけられた剣にちらりと視線を移すと、彼は「剣は国に馴染みの店があるからな。手入れも自分でしているから大丈夫だ」とそっと剣の柄を撫でる。

「てかよー、肝心のサルバナがまだ着てねぇぞ?」

 辺りをきょろきょろと見回し、バイソンが「おっかしいなー」と首をかしげる。すると、店の扉が開いて「いやー、ごめんごめん」と間の抜けた声が聞こえてきた。

「あ、サルバナ」

 シエラが声のするほうを振り返ってみると、そこにはいつもどおり艶やかな金髪を靡かせたサルバナの姿があった。

「お待たせ。俺が最後みたいだね」

 颯爽と歩いてくる姿は、やはりこの街の人々と同じだ。

 シエラがそう思っていると、店の奥からウエーバーが出てきた。彼はシエラ達に気づくと「シエラ達、買い物終わったんですね」と微笑を浮かべた。

「うん、さっき来たところ」

 シエラが答えると、タイミングよく奥から店主の中年女性も現れた。

「お、サルバナちゃんも着たんだね。これで全員だったかい?」

「あぁ。いつも悪いね。それに今回は急だったし」

「いいのよー、サルバナちゃん。さ、じゃ次は眼帯のお嬢ちゃん、こっちにきて頂戴」

「はい」

 手招きされてユファが奥に消えていく。

「サルバナって、ここのお店よく使ってたの?」

「まぁね。昔からお世話になっているんだ。ここは使用者にあわせて魔装の微調整もしてくれる、結構珍しい店だからさ」

「ほんっとそれ凄いわよね。あたしも最初聞いたときびっくりしちゃったわ」

「しかもこのお店、服の加工だけじゃないんでしょ?」

 店内を改めて見回すと、加工済みのアクセサリーや魔道具なども売っている。そのどれもが、あまり普通の魔道具店では見かけないものばかりだ。

「あれ……?」

 ふと、シエラ達がいるカウンターの反対側にある戸棚に目がいく。縦に少し長い水滴のような形の水色のイヤリング。近寄って見てみれば、それはサルバナのイヤリングの色違いだった。

「これってサルバナのと色違いだよね?」

 シエラが指差すと「あぁ、それかい。そうだよ」とサルバナは笑った。

「でも、迂闊に触ったらダメだよシエラ。この店の加工品は少し特殊だから、シエラの魔力に敏感になってしまうかもしれない」

「は、早く言ってよ! うっかり触るところだった!」

 シエラは勢いよく戸棚から遠ざかる。クラウドは「最初に店に着たときに言われてただろ」と呆れた様子で頭を抑える。

「そういえば、シエラ。髪を結ぶゴムはどうしたんですか?」

「ん? あぁ、あれはコトノにやってもらってるの。コトノ今、一度国に帰ってるでしょ? 実は私の魔力制御の術をやってるからなんだよね」

「おぉ、あれってそういう事だったのか!」

 シエラ達をダリアミからナールに移動させた後、コトノはシエラの魔力制御の術を新しくするため、一度ルダロッタに戻ってしまっている。前の髪ゴムはもうダメになってしまっているので、この街で新しく購入したものを、コトノには渡してある。

「けどよ、今はその髪ゴム無しで平気なのかよ?」

 シエラの魔力は膨大だ。本人は無自覚だが、その影響力は凄まじい。クラウド達適合者は平気だが、一般人には少々厳しい面もある。

「この街に着てから、私自身に術をかけてもらったの。日記を回収するまでは特に魔法を使うこともないだろうし」

「ったく、万が一があったらどうするのよ」

「そのときはよろしくお願いします!!」

「もう!」

 呆れ口調ではあるが、ラミーナの表情は満更でもなさそうだ。元々姉御肌なせいか、頼られるのは嫌いではないのだろう。

「……待たせたな」

 するとユファが出てきた。

「シエラとサルバナは後回しだそうだ。……ラミーナ」

「あら、あたし? って、この二人後回しじゃ残ってるのはあたしだけだものね」

 そう言ってユファと入れ替わりでラミーナが奥へと消えていく。

「あれ、ユファ。きみ、もしかして眼帯も加工してもらったのかい?」

 サルバナの言葉にユファは目を丸くする。

「あぁ、よく分かったな」

「まぁね。魔力漏れを抑えてもらった、ってところかな?」

 ユファは頷いた。シエラ達四人は二人の会話に置いていかれている。ウエーバーが口を挟むと、ユファは「私の右目は常に魔力を消費しているんだ」と言いながら、ゆっくりと眼帯に指を滑らせた。

「とても微量ではあるがな。常に魔法を発動している状態だと言ってもいい。それと同時に目から魔力が少しずつ逃げていってしまっているんだ」

「だから眼帯を加工して、その無駄な魔力を抑えようってわけだよ」

「なるほどー。……その加工ってやっぱり凄いものなの?」

「あぁ。前の眼帯にも多少の加工はしてもらっていたんだが、ここまでフィットした感覚はなかった」

 心なしか、ユファの瞳がうっとりしている。それほどまでに今回の加工で魔力との折り合いがうまくいっているということなのか。

 ――恐るべし、魔装加工……!!

 シエラが衝撃を受けていると「おいお前顔が面白いことになってるぞ」とクラウドがツッコみを入れた。

「ちょっとクラウドそれどーゆー意味!?」

「そのまんまだよ」

「むっかつく!!」

「ふ、二人とも店内で喧嘩はダメですよ!」

「喧嘩じゃないし!」

「まー、喧嘩するほど仲が良いっていうからなぁ」

「バイソン、今それを言うと逆効果な気がするぞ」

「ユファさんもそんな冷静に突っ込むのはそこじゃなくて……」

「ははっ、相変わらず賑やかだねぇ」

 シエラは思い切りクラウドを睨み付けるが、クラウドには全く効かない。むしろ眼力でクラウドに勝てるのはジル=セイスタンぐらいなものだろう。普段のクラウドからは感じないが、結構目つきが悪いのだ。

 ――悪いというか、鋭いというか。戦いになると余計に鋭くなるし……。って、論点がズレた!!

 クラウドの言葉に腹を立てていたはずが、いつの間にか目つきのことに思考がいってしまった。シエラは頭をぶんぶんと左右に振る。

「お前、ちょっと挙動不審じゃないか?」

「はっ!?」

 どこが!?

 シエラは思わず大声で叫びそうになったが、寸でのところで飲み込む。いけない、ここは店内だ。今はシエラ達だけだが、もし他の客が来たら迷惑になってしまう。理性でなんとか怒りを押しとどめ、クラウドを睨む。

「クラウドさっきから喧嘩売ってるの?」

「ちょ、ちょっとシエラ! クラウドさんも、ほら、謝って!!」

「あー、悪かった悪かった」

「それ、謝ってない。誠意がない!」

 ウエーバーが仲裁するものの、シエラには全く謝罪に聞こえない。多分、クラウド自身も謝罪の意思などないだろう。

 ――なんか最近、私にさらに遠慮がなくなったような……。

「あー、もううっさいわねぇ。またシエラとクラウドは喧嘩してたわけぇ?」

「ラミーナぁ~……」

 終わったらしいラミーナが奥から出てきて、シエラは思わず力のない声を出してしまう。

「ほら、さっさとシエラは奥に入る。ったく、毎度毎度なにをそんなに言い争えるのかしらね」

「クラウドが突っかかってくるんだよー」

「あら、前は逆だったのにね。クラウド、あんたこの子に感化されたんじゃない?」

「え、ちょ、ラミーナそれどういう意味!?」

「ほらほら、あんたはさっさと行く!!」

「うべっ!?」

 ラミーナに店の奥に押し込まれ、シエラは段差に思い切りつまづいた。こけることはなかったが、踏ん張った右足がつらい。

「あはははは、本当にあんたら賑やかだねぇ」

「ど、どーも……」

 ケラケラと女性に笑われ、シエラは照れくささを感じた。今までのやり取りも丸聞こえだったのかと思うと、顔から火が出そうだ。

「さて、それじゃ早速だけど、まず服を着てもらおうかな」

 シエラは先日預けた服を手渡され、仕切りの中に入る。服を着替え、ブーツを履き替え、最後にグローブをはめる。すると、ひしひしと肌を通して魔力の流れを感じた。

「着替え終わりましたー」

 カーテンの仕切りから顔を覗かせると、彼女は待ってましたと言わんばかりの顔で「じゃぁ、調整しようか」と鼻息荒く言った。

 シエラは椅子に座らされ、まず手をとられた。

「手のひらからゆっくりと魔力を出してごらん」

「えっと……こう?」

 魔力操作が一番苦手なシエラには難しい注文だ。ゆっくりと手のひらに意識を集中させ、そこから魔力が出ていくイメージを浮かべる。

「そう、その調子だよ。……ストップ!!」

「え!?」

 シエラは慌てて魔力の流れを断ち切る。

「今のであんたの魔力がこのグローブに馴染んだから、よっぽどの事がなきゃグローグが魔法でぶっ壊れちまうって事はないね」

「え、ウソ!?」

「ウソじゃないよ。魔道具のような魔力耐性がつくように加工してんだから。お嬢ちゃんは特に魔力が大きいだろう? だから、加工も人一倍強くしてあるのさ」

 へぇー、とシエラは感心しながらまじまじとグローブを見つめる。

「魔力耐性を強くする薬に服を二、三日浸らせておくんだ。それから魔力漏洩を防ぐ薬とかね、色々あるんだよ」

「そうなんだ、知らなかった……」

 魔道具には、それを作る際の材料で魔力耐性の高い素材を使用しているのは知っていたけれど、服にはそんな加工法が使われていたとは初耳だ。

 女店主はケラケラと笑いながら、シエラの両手首に黄色の数珠のようなものをはめさせていく。

「この玉はあんたみたいな魔力操作が苦手な人にはうってつけのものでね。特にお嬢ちゃんみたいな、魔力を多く放出してしまう人はぴったりだ」

「?」

 シエラが首を傾げると「もう一度手のひらから魔力を出してごらん」と店主は顎でしゃくった。

 シエラは言われた通りに、先ほどと同じように魔力を流す。すると、手のひらから出ていく魔力が、これまで感じたことがないほど、"安定"していた。

「え、なにこれ!?」

「それは魔力を調節して、一定の放出量にしてくれるんだ。中々珍しい石からできているからレアものなんだけど、サルバナちゃんの友達だからおまけしてあげちゃうわよ」

「……ありがとうございます」

「いいえー。今後も何かあればご贔屓によろしく頼むよ」

 そう言って女店主はまたケラケラと笑った。

「あ、でもその玉はちゃんと手入れすること。手入れ用の液体も渡しとくから、これを布につけて、玉を磨くんだ。二、三日に一回は必ず手入れしないと、すぐにダメになってしまうから気をつけるんだよ」

「はい」

「あとお嬢ちゃんは魔力が大きいからね。加工で外からの耐性にも中からの耐性にも強くしているけど、とにかく中からの、お嬢ちゃん側からの魔力放出は気をつけるんだよ?」

「が、頑張りマス……」

「それにしても、お嬢ちゃん達の前の服もある程度加工してあったけど、もう効力をなくす寸前だったわよ。サルバナちゃんにも小まめに加工の継ぎ足しをしなさいって言ってあるんだけどねぇ」

「そうだったんだ……」

 あの服に気を使っていそうなサルバナも、そこまでは手が回らないのか。いや、そもそもこの旅にそんな事をしている暇はなかった。

 ――"そんな事"なんて言ったら、この人に怒られそうだけど……。

 目の前にいる女店主の横顔を見て、シエラは思わず苦笑を浮かべる。

「んー、まぁお嬢ちゃんはこれぐらいかねぇ……。あとはお嬢ちゃんの頑張り次第だよ」

 いくら加工を施しても、それは補助に過ぎない。シエラは店主に礼を言い、サルバナを呼ぶためにクラウド達の所へと戻る。

「サルバナー?」

 奥から顔を覗かせれば、サルバナはすぐにこちらにやってきた。

「なかなかいい感じだろう、シエラ?」

「うん、そうかも。それに色々びっくりしちゃった」

「ははっ、いい刺激になったみたいで良かったよ」

 そう言ってサルバナは入れ違いで奥に入っていった。

「お疲れ様。どうだった?」

 カウンター近くでイヴを撫でながらラミーナが問いかけてきた。シエラもイヴを撫でながら「なんか凄いのもらっちゃった」とラミーナに両手首に巻かれた数珠を見せる。

「これは?」

「魔力を調節して、一定の放出量にしてくれるツワモノなんだって。すごい珍しいらしいんだけど、サルバナの友達だからサービスって」

「へぇー、こんなものもあるのね。得しちゃったじゃない」

「きゅーん!!」

 イヴも嬉しそうにシエラの手に擦り寄ってくる。シエラはイヴの頭を撫でながら「あとはコトノから髪ゴムをもらえば完璧かなー」と呟いた。


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