四
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「ぁぁああぁ……ッ!!」
暗闇の中、シエラは一人嗚咽を漏らしていた。
胸の深い部分に、痛みがはしる。どうしようもなく悲しくて、どうしようもないもどかさが全身を襲った。
「……うぅっあぁああぁぁあ!!」
こんなにも痛むのは、かつての自分に重なるからだろうか。ユファの痛みが、自分にも近しいものだからだろうか。ユファの経験そのものが、まるで自分のものであるかのように、頭の中に響く。罵倒が、視線が、自分の体を切り刻む痛み。
――嫌ッ!!
深く深く、シエラの心まで切り裂かれそうで。やっと治ったキズが、もう一度血を流そうとしている。かさぶたを押しやって、ドロドロと表に出てこようとしている。
すると、ふいに目の前に光が現れた。ぼんやりと、輪郭があやふやなそれは、次第にはっきりとした“意識”となった。
「ロベルティーナ」
優しく、甘く。包まれるような声に、シエラは思わず光に手を伸ばした。光はシエラに抱きしめられると、優しく彼女の周りを照らし始める。
「何も、悲しむことはない。何も、ない。そなたを傷つけるものは、何もないんだ」
甘美な言葉だと、思う。傷つくこともなく、悲しむこともなく、ただ穏やかであれたならば。
――それは一体、どれほど素晴らしいことなんだろう。
「そなたが望むなら、私はいつだって……」
包み込まれているような光の温もりは、シエラに母を思い出させた。幼子のように、この腕に守られていたい。ずっと縋っていたい。ずっと、このまま。
「――バカ野郎!! お前、何してんだ!!」
瞬間、どこからともなくクラウドの声が飛んできた。
シエラは我に返る。
――私……いま、何を考えてた?
痛みのない世界? 悲しみのない世界? 母の温もりに守られたい? 優しさに縋っていたい?
是としたそれらを、シエラは心の中で反芻した。確かに、どれもこれも素晴らしいもののように思う。けれど、本当にそれでいいのだろうか。
「クラウド……ッ!!」
――答えは、否だ。
ユファも、ウエーバーも、ラミーナも、自分も、そして誰しも。痛みのない世界で生きていない。痛みのない世界だったら、今の自分に出会えていない。それに何よりいつだって、シエラの心を揺さぶる人は、その痛みに立ち向かっていく人だ。だから自分も、こんなところで止まれない。
「クラウド!!」
「こっちだ!!」
闇の中で手を伸ばせば、力強い手に引っ張られた。鏡の割れるような音とともに、景色が変わっていく。真っ暗な空間は終わり、目の前には大きな河が広がっている。
「お前、ほんと何してたんだよ……ッ!!」
クラウドに向き直ると、彼は眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいた。シエラは思わず「え」と間抜けな声を出してしまった。クラウドの皺が深くなる。
「あと一歩で死にそうだったじゃねぇか!」
「……え? 死にそうだった?」
シエラはきょとんと首を傾げた。自分は確か声のする光に包まれていただけのはずだが、それが一体どうしたらそう見えるのだろう。
「お前、真っ白な腕に首を絞められてたんだぞ!?」
「えぇぇええ!?」
「自分の事だろうが!!」
「ちょ、ちょっと待って!! 私はただ声のする光に……」
「はぁ!? 何言ってんだお前。あれはどう見たって――」
クラウドが続きを言おうとした瞬間、二人は強い力に体を引きずられた。自然と、河の中へと引き寄せられていく。
「チッ。今は言い争ってる場合じゃねぇか」
「うっ!?」
ズキン、と宝玉が鋭い痛みを放った。
「どうした?」
クラウドはしっかりとシエラの手を握り締め、足に力を入れて踏ん張っている。シエラはズキズキと痛む宝玉の鼓動に耐えるように、クラウドの手をぎゅっと握り返した。
「……おい、しっかりしろ」
「分かって、るけど……」
「この空間を出るまでの辛抱だ。……我慢、できるよな?」
挑発的に笑うクラウドがなんだかやけに頼もしくて、シエラはニッと口角を上げてみせる。
「当たり前、じゃん……!」
シエラも負けじと足に力を入れた。このまま河の中に飲み込まれるわけにはいかない。
「……おい、アレ」
「え?」
クラウドが上を見て、口をあんぐりと開けた。シエラもそれにつられて、“空”を見上げた。
「なに……アレ」
夥しい数の星が、赤銅の空に散りばめられていた。普段見慣れた濃紺の空ではなく、残り火のような、滲んだ血の色のような――不吉な色に、星が瞬いている。
「なんつー光景だよ。気色悪いな」
「ねぇクラウド。別に私たちの頭がおかしいとか目が壊れたとかじゃない……よね?」
目の前の光景の不気味さに、シエラは笑みさえ浮かんでしまった。クラウドは吐き捨てるように「ふざけんなっ」と呟く。
「……って、上に気をとられてる場合じゃなかったな」
「そうだね……って、うわぁぁあ!? え、もう河がこっちまできちゃってんじゃん!!」
シエラは思わず身を縮こまらせた。気がつけばシエラ達と河まで、あと一メートルもない。
「逃げる、つっても体が引っ張られてるんじゃ仕方ねぇしな」
「うぅう、もういっそ河に飛び込んでみる?」
「はっ、もうここまで来たらそれもアリかもな」
「よし、じゃぁいざ――」
「ってちょっと待て正気か!?」
「えぇぇ!? 今クラウドも同意したじゃん!!」
「……悪い、俺が血迷ってた。そうだな、こういう時のお前の意見はアテにならねぇんだった」
「ちょっと待てやゴラァア!!」
シエラは繋いでいる手に思い切り力を込めた。が、クラウドの表情は全く変わらない。
「チクショウ役に立てよ私の握力……!!」
腹立たしくて地団太を踏むと、クラウドが溜め息を吐いた。
「お前の悔しがるツボが分からん」
「えぇぇい、もうごちゃごちゃうるさいっ!! どうするの!?」
「……はぁ。仕方ねぇ。いっちょ試してみる……か?」
「よし! ま、いざとなったらクラウドよろしく!」
「結局俺まかせかよ!!」
あはは、とシエラは笑った。
本人には言わないけれど、クラウドと一緒にいるとなんだって出来てしまうような気がするのだ。だから、こうして手まで繋いで、一蓮托生で困難にさえ飛び込もうと思えてくる。
――うん、一人だったら絶対やろうと思わないね。
これは――胸を張って言えることではないけれど――自信をもって言える。絶対に、一人じゃやらない。やれない。できない。
「……クラウドって、ほんと頼もしい」
ぽつり、と聞こえるか聞こえないかの声で呟く。
「あ? なんか言ったか?」
「ううん、なにも!!」
シエラはぎゅっと手を握り締め、クラウドの顔を見やった。呆れたような、それでも仕方ないと受け入れてくれた顔をしているように見える。
「じゃ、行くぞ!」
「よしきたっ!!」
クラウドに身を任せ、あとはただ謎の引っ張られる力に乗っかるだけだ。あっという間に、シエラ達は大河の中に飲み込まれた。不思議と、怖さはない。
――ていうか、あれ?
「……もしかして息できる感じじゃなーい?」
「……そうみたいだな」
どうやらこの河は、実際に水でできているものではないらしい。深い青色の中に沈んでいきながら、シエラは辺りを見回した。
「特に何かあるってワケじゃないみたいだけど……」
「……いや、アレを見てみろ」
クラウドが指差す先は、川底だった。光もかすかしか差していないせいで、よく見えない。けれど、なんとなくそれらが人のカタチをしているような気はする。
よく目を凝らしてみると、いきなり川底のそれらが赤く光りだした。点々とつき始めた赤の光に、シエラは鳥肌が立つ。
「どういうことだ?」
クラウドも目を細めているが、その正体を掴みきれていないらしい。シエラは赤い光に、ユファの右目を連想した。
「いたっ!?」
するとまた宝玉が痛み始めた。シエラの体から、翡翠色の光が溢れ始める。それに呼応するように、クラウドの体からも蒼い光が溢れ出てきた。
「これは……」
クラウドは目を見開いて自分の胸の辺りを凝視した。そして、シエラの光も同じように凝視した。
「……ぺったん――」
「おいお前いま何て言った」
「……いや、なんでもない」
「そんなワケないよね。今言いかけたよね? “ぺったんこ”って言ったよね? 思春期の人の胸見てあろうことか騎士が“ぺったんこ”って言ったよねぇえ!!」
「……イッテナイ」
「人の目を見て言えやぁあぁああ!!!!」
思わずシエラは空いている方の手を拳にして、クラウドに殴りかかった。それはもう、クラウドでさえ避けきれない速さで。
「くっそこの男、人がさりげなく気にしてる事を……ッ!!」
シエラは思いっきりクラウドの事を睨み付けた。クラウドは顔を含めた様々な箇所を殴られた痛みで、背中を丸めている。
「ったく、いつもの真剣さはどこにやったのよ……!!」
シエラはさらに蹴りの一発でも入れてやろうかと思ったが、なんだかそこまで怒るのも負けた気がしてきた。仕方なく鼻から思い切り息を吐き出し、気持ちを落ち着かせる。
「で、一体アレは何なんだろうね」
「……それよりこの光の方が問題じゃないか?」
人一倍、宝玉に関するこういった不思議現象を味わっているシエラからしたら、あまりもう気にならないのだが。クラウドは不慣れだからか、やたらと気にしている。
「……大丈夫、だよ。悪いことは起きない、はず!」
「なんだその頼りない自信は」
「うーん、ま、なるようになるよ。死んだりはしないし!!」
「……」
クラウドは納得していない様子だが、シエラは口を噤んだ。あまり迂闊に直観で言ってしまうと、また下手な心配だとかクラウドの怒りだとかを買ってしまう。そんな事を考えていると、ふいに声が聞こえてきた。いつも宝玉から聞こえてくる、あの声とはまた違った、低くて体に響くような声だ。
「なんだ、この声?」
シエラとクラウドは辺りを窺いながら、耳に意識を集中させる。
「――かつて人は、精霊たちの声から古代の知識を得ていた」
「!?」
声が、脳みそに直接響いた。突然のことに、二人はお互いの顔を見合わせた。声そのものもだが、何より今聞こえてきた内容の方が衝撃的だ。
「――精霊たちの声を“アンダルテール”と名づけ、それを解すものを“ロディアゼル”と呼んだ」
アンダルテール、ロディアゼル。聞きなれない単語が出てきた。けれどロディアゼルに至っては、先ほどエリーザの口から聞いたばかりだ。
「――ロディアゼルとしての力を手に入れた人間は、右目に“かの力”を宿し生まれてくる。かの力を……」
そこで、ノイズが混じって声は消えてしまった。かの力とは一体なんだったのだろう。わずかな言葉で分かったこともあるが、また謎が増えてしまった。
――あれ、でも……ちょっと待てよ。
『その力を持つ者は、瞳の色がそれぞれ異なって生まれてくる』
地下に入る前、ダリアミ国王のことを聞いたときのユファの言葉。
ふいにそれがシエラの中で思い出された。
もかしたら。そう思うと、色々なものが繋がり、ふいに過去の記憶がフラッシュバックしてきた。
『……ようするに、それを解こうとしてまで、何か得たい情報があるって事じゃない!』
『お、落ち着いて下さいラミーナさん。確かにそうですけど、でも本当に強力な術式が施してあるそうです。つい最近ではあの書物を読み解けたのは、ダリアミ国王ただ一人と聞きますし……!』
『ダリアミ国王!? なんでそこでダリアミ国王が……』
『あの御方は、“ロディアゼル”ですから』
ゼインで参加した大会の最中、ラミーナとウエーバーがしていた会話だ。フランズでアークによって奪われた書物の行方についての話だった。そこで確かに彼らは、ダリアミ国王、そしてロディアゼルと言っていた。
「おい、どうした?」
黙り込んだシエラの肩をクラウドが軽く揺する。シエラはクラウドの顔を見て安心するとともに、どうしようもない罪悪感を感じた。シエラの混乱が伝わったのか、クラウドは優しい手つきで肩を叩いてきた。
「大丈夫か? しっかりしろ。意識を保て」
「……う、ん。大丈夫。それよりクラウド。ねぇ、ユファは“ロディアゼル”なんだよね? ってことは、精霊の声が聞こえてるってこと?」
シエラは川底を見つめながら、確かめるように呟く。まるでうわ言のような、震えた声音に、クラウドはしっかりと彼女の手を握り返した。
「そういう事になるな。……だが、俺は本人の口から本当の事を聞きたい」
「……私も、聞きたい。ユファの過去見て、聞くのが怖い気もするけど。でも、聞きたい」
クラウドの真っ直ぐな言葉に、シエラも真っ直ぐ、力強く返す。川底で赤く光っている人影を見つめながら、シエラはユファの事を考えた。
――きっと、話してくれるよね。
たとえ彼女がロディアゼルであったからと言って、シエラには正直「どう」という思いはない。
しいていえば「精霊の声が聞こえるなんて凄すぎる!!」ぐらいだろう。そもそもシエラが知っている精霊についての知識は本当に僅かだ。
精霊はありとあらゆる自然の中にいる――とされており、現代にはその存在を確認できる人は少ない。一応、認識としては魔物とは別物扱いだ。
授業で僅かに習った、この程度のことしか知らない。確か授業で古代の精霊の姿形を取り扱った気もするが、魔法学校での記憶は今となっては――在学時以上に――本当に曖昧なものだ。
――あー、やっぱちゃんと授業って聞いとくべきだったなぁ。
後悔するのも、なんだか今更だけれど。
――ていうか、なんか思い出してイライラしてきたかも……。
ちょっと魔力が多いぐらいで、変なものでも見るかのような視線。この旅に出てから、何度も思ってきた。どうして少し違うぐらいで、あんなに刺々しい視線を浴びなければならないのだろう。ユファの過去の映像にしてもそうだ。確かに子供というのはそういった「違い」に敏感な生き物なのだろう。
――そりゃ私だって、できるなら“普通に”みんなと一緒が良かったよ。でも仕方ないじゃん。なのにあんな大げさに騒いで……!!
ユファの周りにいた人たちも、自分の周りにいた人たちも、一体全体なんだったんだ。
――十人十色とか、皆違ってみんな良い、とか。そりゃ個性って意味では良い事なのかもしれないけど。でも本当に“違った”ら変な目で見るくせに都合良くないか?
不貞腐れて、斜に構えた意見なのは分かっているつもりだ。それでも不平を言わずにはいられない。少しでも“皆”と違えば、まるで自分が悪いかのように扱うなんて、あんまりだ。
――別に好きで“違う”ワケでもないし。
段々自分がいじけ始めているのが分かったシエラは、ここらで思考を止めようと、視線を上げた。
すると隣にいるクラウドから鋭い視線を感じた。なんだろう、と思って横を向けば、案の定不機嫌そうなクラウドの顔が。
「お前、また下らないことでウジウジ悩んでんじゃねぇだろうな?」
一瞬ギクリとした。でもこの話だけは「下らない」と片付けるわけにはいかない。
「あのね……」
シエラは自分の今思ったことを掻い摘んで話した。クラウドはその間ただ黙ってシエラの話を聞いてくれた。時々打ってくれた相槌がなんだか嬉しい。シエラが話し終わると、クラウドは「そうか」と小さく頷いた。
「確かに、今回の話は下らないと一蹴はできないな」
「むっ。今ちょっとバカにした?」
そう言ってシエラが拗ねたように言えば、「バカにするかよ」と笑われる。
「難しい話だな。俺たちが社会っていう集団にいる限り、少なからずついて回る問題かもしれねぇ。特に、お前みたいな奴には」
クラウドが真剣に自分の話を聞いて、こうして考えてくれたと思うだけで、シエラは無性に嬉しくなった。前にルダロッタ行きの船の中でも、自分の話をクラウドにした。その時彼は、最終的に茶化したけれど、それでも話はきちんと聞いてくれていた。
「……けど、答えは今すぐ必要なのか?」
「え?」
思いがけない言葉に、シエラは目を丸くする。
「俺も正直、よく分からねぇ。……でも、これだけは言える。俺は、俺たちは、ちゃんとお前のこともユファのことも認めてる」
「……うん」
「その事実だけじゃ、ダメか?」
「……ううん、ダメじゃない」
恥ずかしい。たまらなく恥ずかしい。それなのに、たまらなく嬉しい。
こんな恥ずかしいことを真顔で言えるクラウドも凄いけれど、それを受け入れるようになった自分も大分成長しと思う。シエラは自分の顔に熱が集中するのを感じながらも、ぎゅっとクラウドの手を握った。
「……みんなが分かってくれてるから、私は、きっとここまで旅を続けられたの」
そうじゃなきゃ、とっくの昔に適合者なんて辞めていた。きっかけは家族やファウナだ。でも続けられたのは、間違いなくクラウド達が仲間だったからだ。
シエラが真剣な眼差しでそう告げれば、クラウドはこれでもかというぐらい目を見開いた。
シエラ自身、こんな素直に気持ちを言えたことに少し驚いている。クラウドは僅かに目線を逸らし、それから小さく笑った。
「それは、俺も同じだな」
瞬間、シエラとクラウドから発せられた光が直線となった。翡翠と蒼に色づいた光が混じりあい、川底へと伸びていく。視線をそちらに向ければ、赤に光っていた人型たちの中に緑青色に輝く何かがあった。
シエラは思わず「ユファ?」と呟いていた。
段々と見つめていくうちに、それがハッキリと「ユファ」というカタチを作っていく。シエラとクラウドは顔を見合わせると、勢いよくユファの元へと泳ぎだす。すると今まで流れも何もなかった川の中に、突然“流れ”が生まれた。シエラ達をユファの元へ辿りつかせまいとする、強い逆流だ。まるで強い向かい風のようなそれに、シエラはヒリヒリとした痛みさえ感じる。
「ユファ……ッ!!」
必死に前に進もうと手を伸ばす。しかし、流れが強いせいか中々前に進めない。クラウドでさえ、先ほどから全く進めていない。
「……こうなったら」
クラウドは剣を抜いた。シエラが彼が何をしようとしているのか察した瞬間、力強く引っ張られた。
「お前の魔力を貸してくれ」
「……うん!」
シエラも力強く頷き返す。クラウドは両手でしっかりと柄を握りしめ、シエラはクラウドの背中に手を当てる。
「水雲と楔、息吹の流れ、天への導き――」
クラウドが詠唱する。シエラも心の中でそれに続く。体中の魔力がシエラの両手からクラウドの剣へと集中していく。
「――ウィンドー・ポール!!」
クラウドが剣を振りかぶった。風が一本の直線となって巻き起こる。二つの大きな流れが激しくせめぎあう。
「いっけぇえぇぇえ!!」
シエラは更に魔力を上乗せする。クラウドは剣をもう一度振りかぶり、そのままシエラの腕を掴み気流に乗っかる。
「ユファ!!」
真っ直ぐに、彼女の元へ。
ユファはぐったりとしたまま目を閉じている。しかしその手には、ダリアミの日記と思われるものがしっかりと抱かれている。
あと少しで届く――すると、逆流が勢いを取り戻し始めた。
「くそっ!!」
クラウドは剣を抜こうとしたが、今からでは間に合わない。シエラは咄嗟に右手を突き出した。
「邪魔しないで!!」
瞬間、魔力の束が彼女の右手から発生した。純粋な“力”は確かな質量を持ち、流れを蹴散らしていく。
「おい、魔力出しすぎだ!!」
焦った表情のクラウドに右手を掴まれるが、シエラはきょとんとしている。
「え、全然大丈夫だよ?」
「なっ!? お前今物凄い量の魔力出したんだぞ!?」
そうは言われてもなぁ、とシエラは苦笑いをこぼす。
本当に、分からないのだ。他人からしたら相当な量の魔力を出したのかもしれないが、シエラは何も感じない。今ぐらいのを一度放った程度では、シエラは疲労も感じない。
クラウドは信じられないという顔をしたが、すぐにユファの方へと意識を向けた。シエラの魔力に逆流が消え去っている今なら、行ける。
「……行くぞ!!」
「もちろん!!」
二人は再びユファに向かって泳ぎだす。あとほんの数メートル。
「ユファ!!」
届いた。
――そう思った瞬間、シエラ達は光に包まれていた。




