最悪のペア
超常災害の等級は1級から6級まで。
3級なら、お世辞にも低いとは言えない等級だ。
「あの、僕たち、超常災害に入るのはこれが初めてなんですけど……? 普通こういうときって、安全なところから始めるんじゃないんですか?」
「あ~。まあ、そういう班もあるね。でも、そんなやり方じゃ実力つかないでしょ?」
「え!? でも……」
「この災害に入るのを先延ばしにしたって、どうせ近いうちにもっと上の等級の災害に入ることになるんだよ? それに、知ってるでしょ? ここはいつも人手不足なんだから」
「……」
「そのときはこんな3級じゃなくて、2級や1級かもしれない。実戦経験ゼロでそこに放り込まれるより、今ここで何かしら経験値を稼いで帰るほうがよくない?」
反論する言葉はなかった。
天道凛に対する評価を修正する。
……ただ何も考えずに能天気なだけの人間ではなかった。
そしてもう一つ、予想外だったことがある。
「……僕が馬鹿でした。副班長のおっしゃる通りです……!」
「……???」
その言葉を聞いた結城が、まるで大きな悟りでも得たかのように、ぐっと拳を握りしめたのだ。
なんだこいつ。どうした。
「やっぱり楽な道ばかり選んでたら成長できませんよね……! 僕、恥ずかしいこと言いました。迷惑をかけないように全力で頑張ります!!」
(……今の話のいったいどこに感動ポイントが……?)
とにかく結城は天道の言葉に深く感銘を受けたらしく、さっきとは打って変わって闘志を燃やしていた。
……いったいどういう仕組みなのか、一生理解できそうにないな。
「先ほども言った通り、私たちの役割は安全に神器を回収することです。戦闘はうちの管轄ではないので、危険な状況になった場合は無理をせず脱出してください」
「では、私たちが先に内部を把握して、そのあと戦闘班が入ってくるんですか? どのチームが割り当てられるのかも、伺っておきたいのですが」
「3級の災害に戦闘班が事前に割り当てられることはありません。万が一中で戦闘が発生した場合は、支援要請後すぐに出動可能なチームが割り当てられます」
「……わかりました」
あちこちに逸れていた話は、柳が進入開始を告げたことでようやく終わった。
班員たちが一斉に青い光を放つ穴の前に並び、先頭に立った柳がタイマーを押した。
「現在時刻、2020年4月3日午前11時37分。神器回収3班。分類コードI-604、3級超常災害への進入開始」
彼の合図とともに、俺たちは災害の中へ足を踏み入れた。
そして次の瞬間。
――ドンッ!
「……ぐっ……!?」
ダンジョンものではおなじみの光が全身を包み、俺は見知らぬ空間に倒れ込んだ。
まともに目を開けるより先に、四方から焼けつくような熱気を感じた。
「うえっ、げほっ……。あ、柏葉さん……! こ、ここ、なんでこんなに暑いんですか? いったいどんな神話なんだ、これ……?」
(ここは……)
顔をしかめた結城が手でぱたぱたと扇ぎながら、息を切らして周囲を見回した。
そして目の前に広がる光景は、この息苦しい熱気の理由が一目で察せるほど、わかりやすいものだった。
(四方に煮えたぎる溶岩。炎。熱気……。……典型的な地獄だな)
果てが見えないほど広大な空間。
俺と結城が立つ道の周囲では、真っ赤な溶岩がぐつぐつと煮えたぎっていた。
「……待ってください。ほかの二人は? 柳班長と天道副班長はどこですか?」
「え? ……あ、あれ!?」
「……」
そこでようやく人数が半分に減っていることに気づいた結城が、ぽかんと口を開けた。
状況を把握した俺は、静かに額を押さえた。
……勤務1日目。
同じ立場の同期と二人きりで、地獄に落ちた。
◇
「はぁっ……! ど、どうしましょう、これ!? 先輩たちと離れちゃったみたいです!!」
「わかってます。少し考えたいので待ってください」
くそ。運が悪いにもほどがあるだろ。
(天道と柳はどこに行った? 別の区域に分断されたのか?)
「あ、あの、出口が……」
「……?」
「出口が消えてるんですけど? どうしましょう? まさか本当に遭難したんじゃ……」
「……」
事が順調に運ばないだろうとは予想していた。
だが、まさかこんな形で分断されるとは。
「……まずはお二人を探して合流するのが先だと思います。周りにも特に何も見当たりませんし」
唯一外部と連絡できる通信機は、班長の柳が持っている。
どのみちこのままではほかに手もないため、俺たちはひとまず目の前の道に沿って歩き始めた。
(まるで大海原のど真ん中に放り出された気分だな)
見えるものといえば、道のところどころにそびえる高い岩柱くらい。
しばらく歩いていると、俺の後ろをついてきていた結城が人懐っこく話しかけてきた。
「あ、僕、23歳です! 柏葉さんは?」
「ごひゃ……いや、27です」
「あ! やっぱり僕より年上だったんですね」
彼が何の疑いもなく笑っている間に、俺は周囲を見回すふりをして同期状態を確認した。
【同期中……(8%)】
(……待て、かなり進んでないか?)
一晩で5%も増えたのか?
「……? 柏葉さん?」
「……ちょっと待ってください。急に少し頭がくらっとして」
「え!? だ、大丈夫ですか? 暑すぎるせいかな?」
「一、二分休めば大丈夫だと思います。少しだけ」
「あ……! はい、そうしましょう。実は僕もちょっときつくなってきたところで……」
そう言う結城も気丈に笑ってはいたが、さっきより明らかに体力が落ちていた。
(おそらく、先の展開まで確認している暇はないだろう。だが、今はまだシナリオの最序盤だ)
結城が道端にどさっと腰を下ろすのを確認して、俺は顔を背けた。
どうせ短期間で終わるとは思っていなかった。
ただ、この場合、今望みをかけるべきなのは別のほう。
(少しとはいえ、同期の進行率が上がった。……だとすれば……)
わずかな可能性に期待して、もう一度試してみる。
【〈救済黙示録〉
現在のメイン■ナリオ進行度:2%
エ#ソード分類:EP1―救■者の■■□
進行期間:2020.04.01~2020.04.03(※派生□宙内部時間基準)……】
「……!」
――ブツッ!
そしてほんの一瞬、現時点のエピソード情報が表示されて消えた。
(ロードできる情報が、さっきより増えている)
ということは……。
(同期が進んだ分だけ、リアルタイムで権限が復旧していく仕組みか)
本部との通信がいつ復旧するかはわからないが、今はこれだけでも十分な朗報だった。
そして何より重要なのは――。
(この派生宇宙の1周目に派遣されていた、前任管理者の記録……!)
新たな派生宇宙が誕生すると、最初に投入された現場要員たちは、シナリオを進めながら、その後の管理に必要なデータを蓄積していく。
これが『ライブ進行』。いわば、『1周目』。
そして、そのとき管理者が残した記録は、後に何らかの理由で現場班が再進入することになった際、彼らが円滑に活動するための手引きとなる。
(動け。頼む)
そこになら、きっと何か使える情報があるはずだ。
やがて目の前に現れたのは、簡素なローディング画面。
ひどくゆっくりと、画面のゲージが埋まっていく。
そして……。
【保存された〈管理者■録〉のデータ検索が完了しました。】
【データ破損を確認。ログを復旧します。】
(……!)
まだエラーでところどころ文字化けしていたが、それでも十分だった。
すぐに確認ボタンをクリック。
【〈管理者記録〉を閲◆します。】
画面が切り替わり、次の瞬間……。
【〈管理_記■〉
#1
今日は久々の新規派生宇宙! 現場派遣初日~~~ヽ(゜∀゜)ノ
俺めっちゃ楽しみなんだけど~~なんで他の係員みんな顔死んでんのかわからんwww
まあせっかく現代来たしスマホで自撮りいっぱい撮っとこww俺様のイケてる姿をwwww(≧▽≦)vイエーイ!
あ、そういや昨日の夜激辛カップ麺食ったんだけどあれが悪かったのかさっきからなんか腹がゴロゴロ――】
「……あ?」
……ついに、前任管理者の記録が……浮かび上がった。




