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応募者1,743人。噂の首席




「はい! 試験中って、広報部がずっと撮影してるじゃないですか? 幸い昨日は死者も出なかったから、すぐ動画が公開されたみたいで! 社宅に戻ってすぐ探しました!」

「……動画が、公開されたんですか?」

「え? はい! あれ、知らなかったんですか? 今、ポータルのトップにも出てますよ。コメントもめちゃくちゃついてて――……」

「……」


結城が嬉々として何か喋っているようだったが、正直、まるで耳に入ってこなかった。


何が公開されたって?

ポータル?

……コメント?


「……その動画、私にも少し見せてもらえますか?」

「え? もちろんです! たしかリンクが……」


素早くスマホを取り出した結城が画面を何度かタップし、すぐに一本の動画を再生した。


手のひらほどの画面には、めちゃくちゃになった昨日の試験会場が映っている。

上空から撮影され、会場全体を一望できるアングル。

そして散乱した建物の残骸の間で、かすかに動いているのは……。


「……」


動画の下に並ぶコメントが200件を超えているのを確認した瞬間、俺はすぐに画面から目を逸らした。

目の前のスマホをすっと結城のほうへ押し戻した。


「あれ、もう見ないんですか? ゆっくり見ていいですよ」

「……いえ。残りはあとで自分のスマホで確認します」


嘘だ。絶対に探さない。


「あ、自己紹介がまだでしたね。初めまして、結城玲央です!」

「柏葉霖也です」


――チン。


一拍遅れの自己紹介を終えたところで、エレベーターは目的地の17階に止まった。


「今回の試験で実際に採用された新人は30人くらいらしいです。やっぱり試験会場の件がかなり響いたみたいで……」

「無理もないでしょう。残念なことです」


どうせそこで辞退した受験者の中に、主要人物クラスはいなかったはずだ。

大して気にも留めずに頷き、エレベーターを降りた。


「あっちみたいですね」


[神器回収3班]


17階は、フロア全体を高いパーティションで区切り、各班ごとのオフィスに分けた造りだった。

それぞれの扉に書かれているのは、班の番号。

この階にあるのは、神器回収1班から5班までの計5班だ。


(どんな雰囲気なんだろうな。外からじゃ何もわからないが)


別に緊張しているわけじゃない。これから仕事をするうえで、邪魔にさえならなければいい。

結城と一緒に3班のブースへ入った、その瞬間だった。


「失礼しま――」


――パンッ!


「神器回収3班へようこそ、新人たち!!」

「……!?」


パンッという音とともに、目の前に紙吹雪が舞った。


モニターの前に座る疲れた印象の男を背に、パーティークラッカーを手にした女が豪快に笑っていた。


「班長! 見てくださいよ! 新人が二人も入ってきたんですよ! しかも一人は、昨日の試験会場で話題をさらった噂のあの人!」

「天道《てんどう》さん。わかったからもうその辺で」

「えー、そんなに堅いこと言わないでくださいよ~。こういうときでもなきゃ、いつこんな初々しい空気を味わえるんですか」


長い白い髪をローツインテールにした女が笑いながら肩をすくめた。

彼女は『班長』と呼んだ茶髪の男ににっと笑いかけ、すぐにこちらを振り返った。


「天道《てんどう》凛《りん》。副班長だよ。よろしくね、新人たち!」

「柏葉霖也です。よろしくお願いします、天道副班長」

「……! あ、結城玲央です! 頑張ります!」


気合いたっぷりに叫んだ結城が、勢いよく腰を直角に折った。

予想通り、人当たりのいい性格らしい。


「神器回収3班の班長、柳《やなぎ》紫雲《しくも》です。よろしくお願いします」


最後に挨拶した3班の班長、柳紫雲は濃い茶色の髪に落ち着いた印象の男だった。

簡単な挨拶を終え、俺はさっと周囲を見回した。

全体の雰囲気が、なんというか。ものすごく……。


「班長! うちもこれで4人だから、あそこ入れますね! 先週出た、あの新宿の件ですよ!」

「……はい。そうですね」

「うわ、初派遣……!! 何でも頑張ります! どんどん振ってください!」

「それより、私たち、名前の響き似てるね! 霖也、凛~。いいね! なんか合わせたみたいで。はは!」

「……ああ、はい」


気のせいだろうか。

なぜここの班長がひどく疲れて見えるのか、なんとなくわかった気がする。


「そういえば、これまではずっとお二人だけだったんですか?」

「ん? はは、いやいや。さすがにそんなわけないでしょ」


3班のオフィスには四つのデスクが並んでいたが、実際に使われている席は二つだけだった。

明るく笑った天道が、屈託のない顔で答えた。


「もちろん、あと何人かいたよ! みんな死んだか、その前に辞めちゃって、今は私と班長だけ!」

「……ご回答ありがとうございます」

「まあ、大丈夫! 霖也くんは優秀そうだし! 今回の採用試験、歴代でもかなりヤバかったでしょ? それをくぐり抜けて生き残ったんだから、実力は十分! はは!」

「……」


天道が豪快に笑いながら、俺の背中をばんばんと叩いた。

……励ましのつもりらしいが、もちろんまったく励みにはならなかった。


「え、つまり、みんな死……。うーん……」


そしてその話を聞いた結城の視線も、あてもなく泳いでいた。


「楽しみだなあ。どこから入ろっか? 今日すぐ入れる災害、何があったっけ?」

「え、ええっ!?」

(……まさか今日すぐ?)


俺が何か言うより先に、慌てた顔の結城が尋ねた。


「あの、何か教育とか……そういうのはないんですか? 新人研修とか……」

「んー、まあ強いて言えば、今が研修期間ではあるんだけど」


……『あるんだけど』?


「ここにはそういうのないよ~。見ての通り、いつも人手不足だから」

「あ、はい……」

「それに、表向きは会社っぽくしてるけど、中身は昔のファンタジー小説によく出てくる探索者協会みたいなものなんだよね。まあ、まさかそれが本当に現実になるなんて、誰も思ってなかっただろうけど~」

「それでも、ひと通りの説明くらいはします。天道さん、必要以上に怖がらせないでください」

「えー、冗談ですよ。ほんと、うちの班長は堅いんだから」


幸い柳がちょうどいいところで口を挟んでくれたおかげで、何の説明もないまま災害に放り込まれる惨事は避けられた。


続く説明を簡単にまとめると、こういうことだ。


神話や伝説、説話を基にした一種のダンジョン――『超常災害』。


1級から6級までに分類されるこの災害の内部には、必ず一つ以上の神器が存在し、神器が回収されれば災害は自動的に消滅する。

もちろん、その逆も同じだ。


「で、災害を長く放置すると昨日みたいにスタンピードが起きるから、私たちはその前に災害の中に入って神器を持って出る!」

「はい」

「そうすれば災害は自動で消滅。で、万が一中で戦闘が必要になったときだけ超常戦闘班が入るってわけ。あっちは協会の看板だからね」

(看板、か)


昨日の試験会場に戦闘班が現れたときのインパクトを思い出した。

まあ、それだけでも十分わかるか。


その後は、現場での行動要領と簡単な理論説明が続いた。

そうして短い研修が終わり、数時間後。


「じゃーん! これ、うちに回ってきてからもう何日か経ってるんだけど、見ての通り二人しかいなかったから、人数が足りなくて入れなかったんだよね。鉄は熱いうちに打てっていうし、初めての現場に慣れるのも兼ねて、さっさと片づけちゃえばいいでしょ?」

(……人手不足だって聞いた時点で察してはいたが、まさか初出勤の新人をそのまま災害に放り込むとはな)


結局、初めての現場派遣が決まり、俺たちはさっき彼女が言っていた新宿の超常災害の前まで来ていた。


「班長はかなり面倒くさがってたけど、これ以上放っておいてスタンピードでも起きたら困るし、そろそろ片づけないとね。もう発生してから何日も経ってるし」

「うわあ……! でも、僕たちの初派遣に決まったってことは、そんなに危険な災害じゃないんでしょうね……! どんな災害なのか楽しみです!」


結城がぱっと顔を輝かせ、ぐっと拳を握った。


(そうだな。まあ、何事もないだろう)


初めての現場派遣なのだから、彼の言う通り、実質的にはチュートリアルに近いものになる可能性が高かった。


だが次の瞬間、天道が笑顔のままぱちりと目を瞬かせた。


「ん? 違うよ?」

「え? はい?」

「え~。超常災害に安全なものなんてある? 中で何が起きるかわからないのに。それに、これだって別に安全な災害ってわけじゃないと思うよ? 観測班の判定も3級だし」

「……はい?」


その言葉に、俺も思わず動きを止めた。


「……3級とおっしゃいましたか?」



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