11話 愛と信頼は別物
王城の中、見事に手入れされた花が咲き乱れる庭園。
目の前に並べられたティーセットは、今のキラリの心とは正反対に鮮やかだった。
今日は、恒例になりつつあるリトとキラリのお茶会の日である。
リトと向かい合って座りながら、居心地の悪さをごまかすように、キラリは紅茶を口に含んだ。
今、目の前にいる第二王子から聞いた言葉が、キラリの指をかすかに震わせている。
「えーっと……ごめんなさい。もう一度聞いてもいいですか?」
テーブルの下で、キラリは手を開いたり握ったりしていた。
その様子を、キラリの後ろに立っているレイが心配そうに見つめている。
「最近、ミナトの周りで不思議なことが起こるんだよ。ものがおかしいくらいに綺麗になったり、庭の植物が異様に元気になったり。この前、聖女様が変なことが起こってないか気にしてたでしょ? だから、報告しようと思ったんだけど……」
リトはキラリの顔を覗き込んだ。
「大丈夫? 顔色悪いよ?」
キラリは慌てて作り笑いを浮かべた。
「あ、そうですか? ちょっと最近疲れてて。……えっと……その……」
机の上に視線を彷徨わせてから、意を決したようにリトを見た。
「以前、ミナトくんに危険な力があるかもしれないって言ったこと、覚えてますか? 最近、夢を見るんです……嫌な、夢で。もしかしたら、最近起きてることも、その前兆なのかもしれません」
リトは話を聞きながら紅茶を一口飲み、ソーサーにカップを置いた。
不安そうでも心配そうでもなく、リトはいつもの笑顔を浮かべている。
「覚えてるよ。それでなんだけど……」
キラリはそんなリトの表情を見て、眉を顰めた。
「あの! そんなに私の言うことが信じられませんか?」
急に声を荒げたキラリに、リトとレイは目を見開いた。
自分でもここまでの声量を出すつもりはなかったのか、キラリは耳を赤くして口元を押さえている。
「すみません、急に大きな声出して」
「大丈夫だよ。聖女様のこと、信じていないわけじゃないんだけど……。普段のミナトを見てるとさ、全然危険だと思えなくて」
キラリは肩を落とし、テーブルの上の紅茶の水面を見つめた。
「そう、ですか。そっか、ミナトくんはリトさんのところで生活してるんですよね」
何か考え込んでいる様子を見て、リトはキラリの考えがまとまるのを待った。
しばらくの沈黙の後、キラリは口を開いた。
「今度、ミナトくんと、リトさんと、街へ出かけてもいいですか? ちょうど、今の勉強が一区切りついて、実際に学ぶためにも外出するのはどうかと先生に言われたんです。なので、良かったらリトさんと一緒に行きたくて。ミナトくんも元気にしてるか気になりますし。」
心配そうに視線を落としたあと、キラリは斜め後ろにいるレイを見上げ、微笑んだ。
「もちろん、レイさんも一緒ですよ?」
二人は一緒に過ごす時間が多いからか、キラリはレイのことをかなり信頼しているように見える。
レイはキラリの視線を受けて頷いた。
リトも、レイが頷いた以上、断る理由はなかった。
「もちろん。ミナトにも聞いてみるね」
「本当ですか! ありがとうございます。楽しみです」
キラリの先ほどの取り乱した様子は、もうない。
外出のことについてはまた連絡すると約束し、その日のお茶会は終了した。
「昨日、裏の森に出掛けていたそうだが、何をしていたんだ?」
リトとアルの二人が広い食堂に二人で座っている。
以前は毎日家族で食事をしていたものの、最近はアルが忙しく、リトが兄と顔を合わせるのは三日ぶりだった。
「んー、ちょっと散歩に行ってきた。兄さん、忙しいのによくそんなこと知ってるね」
アルは眉間の皺を深くしながら答えた。
「たまたま聞いただけだ。…聖女様やミナトの様子はどうだ? お前から見て」
「レイからも聞いてると思うけど…」
そう前置きしてから、リトはスープを飲んでいた匙を置き、頬杖をついた。
最近のキラリとの会話や、ミナトの周りで起こっていることについて、リトはアルに話した。
すでに誰かから聞いている話なのだろう。それでも、アルはリトの話を黙って聞いていた。
「兄さんは? 最近忙しいでしょ。父さんの体調も良くならないし」
「問題はない。父さんがやり方を残してくれているし、城には優秀な人も多い」
「ふーん、そっか」
アルの、姿勢よく食事をする所作はとても綺麗だった。
その様子をじっと見ていたリトは、唇を尖らせる。
「ねえ、兄さん。やっぱり僕も手伝うよ。一人だと大変でしょ?」
リトがこの提案をするのは、これが初めてではない。
そして兄がいつも断ることも、分かっている。
「いや、いい」
短いアルの答えに、リトはさらに不服そうな顔をする。
「そんなに僕のことが信用できない? 僕は兄さんほど優秀なわけじゃないけど、仕事の手伝いぐらい…」
表情一つ変えず、アルはリトを一瞥した。
「昔から城を抜け出してばかりで、よくそんなことが言えるな。お前に手伝ってもらう必要はない」
「いつもそうだよね。兄さんは何でもできるから」
アルは何も言い返さなかった。リトと目を合わせようとしない。
その様子に、リトは食い下がる。
「……分かったよ。兄さんがそう言うなら」
食事を終えたアルは立ち上がり、そのまま食堂を後にした。
リトもしばらくしてからため息をつき、自分の部屋へ戻っていった。
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