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時間の止まる国  作者: めしあん


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10/12

10話 条件反射

 午前の日差しが木漏れ日を作り、小道に柔らかな影を落としている。

 木々の隙間からは、時折空と王城が垣間見えた。


 王城から少し歩いたところ、街の裏手にある森へ二人はやってきていた。ミナトにとっては久しぶりの外出である。


「僕、城の外に出るの、すごく久しぶりです」


 最初に城の外へ出たのは、金だけ渡されて追い出された時だった。

 あの時は一人だったが、今はもう一人ではない。隣にはリトがいる。


「そう? 僕も最近は出かけてないな。思いの外、調べ物が進まなくて」


「調べ物、ですか?」


「そう。ミナトのためになるかなってね」


 たしかに、ミナトが城にやってきた頃から、リトは自室で読書することが増えていた。

 ミナトは、初めのうちは何を読んでいるのか分からなかったものの、最近では本のタイトルも読めるようになってきた。


『異界からの訪問者』

『聖者ゴエモンの軌跡』

『破壊と再生の召喚記録』

 どれも聖女や聖者にまつわるものばかりである。


 ミナトになにか能力が備わっているのなら、それはリトにとって都合のいいことだった。


 歩きながら、リトはこれまでに調べたことを説明した。


 様々な記述を漁る中で、古い文献からリトはいくつか興味深い発見をしていた。

 聖者や聖女が使える魔法は、破壊と再生。

 これは広く知られている。

 そして、異世界から召喚された者には、力の強さに大小はあれど、魔力が備わっているという記述もあった。


 最近、ミナトの周りで起きる不思議な現象の正体が、ミナトの魔力によるものだとしたら。

 リトはそう仮定した。

 初めは魔力がなかったとしても、後から発現する可能性だってある。


 そんなわけで、今日はその予想を確かめるためにここへ来たのである。


「ここなら城の人はなかなか来ないし、街の人も入ってこない。いきなりやってみてって言っても難しいかもしれないけど…」


 森の中には平坦な道があり、多少の整備はされているものの、歩きやすいほど踏み固められてはいない。


 リトは近くの木の幹を指差した。


「魔法は大体、イメージで発動する。多分、ミナトが掃除をしたり、水やりをした時も、『綺麗になるように』『元気に育つように』って思ってたんじゃないかな。それと同じように、この木にイメージしてみて」


「イメージ、ですか。聖者の魔力は、破壊と再生…」


 普段の生活の様子から、ミナトが魔法を使えることはほぼ確実だとリトは考えていた。

 腕を組み、観察するようにミナトを見つめる。


 ミナトはそっと木の幹に手を添えた。

 目を瞑って、イメージする。

 破壊というと、幹に穴が開くようなイメージだろうか。

 ふう、と一息ついてから、力を込めるようなイメージをした。


 その瞬間。

 ズドン!

 大きな音と共に、ミナトの手元の幹に大きな穴が開いた。


 幹を貫通し、向こう側の青々とした緑が穴から見える。


「あ…」


「え…?」


 目を開けたミナトは、目の前の光景を飲み込めずにいた。

 リトも珍しく、素の顔で驚いている。


 しかし、驚きに浸る余裕はなかった。

 ギギギ、と木が軋む音がして、穴の開いた木のバランスが崩れ始める。


「え、ちょ、この向きやばくない!?」


 リトが叫ぶのと同時に、木は穴の空いた部分をくの字の折れ目にするようにして、手前へ倒れ込み始めた。

 ちょうど、ミナトの方へ向かって。


「あ、えっ……!」


 呆然としていたミナトは、迫りくる木を見上げる。

 ミナトの顔に、幹の影が落ちた。


 驚いて固まるミナトを、リトは咄嗟に突き飛ばした。


「……っ!!」


 ミナトは地面に尻餅をついた。

 突き飛ばした姿勢のまま、リトはミナトがいた位置、つまり幹の真下にいる。


「リトさん! 危ない!!」


 この位置からでは間に合わない。


「お願い、お願い、お願い、お願い!!」


 ミナトは前のめりになりながら、幹に向かって手を伸ばした。

 さっき幹に穴を開けた力なら、なんとかなるかもしれない。

 そう必死に念じる。


 木がリトに落ちる直前、不自然なほど大きな音を立てて砕けた。

 リトに当たりそうだった部分が、粉々になる。

 木片が風に飛ばされる。

 木の上の方に残っていた枝や葉が、少し離れたところへ大きな音を立てて落ちた。

 残った細かな木片がリトの上に降り積もり、背中に小さな山を作っている。


 リトとミナトは目を見合わせた。

 そして、お互いが無事であることを確認すると、ほっと顔を緩ませた。


「……ありがとう。ミナト」


 背中の木屑を振り払いながら、リトが立ち上がる。

 冷や汗をかいていた。


 肩で息をしているミナトに、リトは手を差し伸べる。


「い、いえ。リトさんこそ、ありがとうございます」


 リトの手を取って、ミナトが立ち上がる。

 ミナトはまだ現実感がないのか、何度も瞬きをしていた。手も少し震えている。


「大丈夫? 怪我してない?」


「リトさんこそ! なんで庇ったんですか? 怪我は?」


 ミナトが一歩前に出る。

 リトは一歩下がりかけたが、それを悟られないように踏みとどまった。


 ミナトはリトの腕を持ち上げたり、肩を揺すったりしながら、無事を確認している。


 その様子を、リトはおかしそうに見ていた。

 先ほど、とんでもないことをしていた少年には全く見えないな。

 そんなことを思う。


「大丈夫だよ。ミナトのおかげでね。ふふ、すごいじゃん。木が一本なくなったよ?」


 リトは怖がる様子もなく笑っている。

 ミナトはそんなリトの顔を、呆れたように見つめた。


「いや、下手したら大怪我するところだったんですよ?」


 そう言いながら、ミナトは自分が倒した木の方を見る。

 幹の下半分には抉られたような跡がつき、上半分は不自然な倒れ方をしている。


「これ、どうしましょうか? 変、ですよね? こんな倒れ方してるの」


 リトは顎に手を当てながら、ちらりと木の幹を見る。


「うーん、まあいいんじゃない? 誰も気がつかないでしょ。一本ぐらい」


 ふと見ると、リトの頭にはまだ木屑がついている。


「あ、リトさん、髪にまだついてます」


 ミナトが背伸びをして、リトの髪についた木屑を振り払った。


「ありがとう」


 ミナトは首を振る。


「いいえ、これくらいでお礼なんていいですよ。その……」


 倒れた木の幹を見る。

 上半分がなくなっている。


「これ、僕が元に戻してみてもいいですか? 自分でやっておいてあれなんですけど、なんか……できそうな気がして」


 リトは目を丸くしてミナトを見た。

 それから折れた木を見る。

 元に戻るイメージが湧かない、とでも言うように首を傾げた。


「元に戻す……? うん、まあ、やってみてもいいんじゃない? ものは試しって言うし」


 ミナトは木があった場所の前に立ち、目を瞑った。

 元に戻るイメージをする。


 すると、倒れた先にあった木の上半分が、元の場所へ戻ろうとするように浮き上がった。

 どこかへ飛んでいっていた木屑が、木の周りを回るようにしながら集まってくる。

 まるでパズルのピースがはまっていくかのように、木が元の形を取り戻していく。


「わあ、これはすごいね」


 まるで逆再生されていくかのような光景を、リトは目の当たりにしていた。


 ミナトは目を開けた。

 目の前には、元通りになった木がある。

 成功した。


 リトを振り返ったミナトの顔が、ぱっと輝く。


「り、リトさん! 見てましたか? 僕、できました!」


「うん、見てたよ。…正直、驚いた」


 ここまでの結果は、リトも予想していなかった。

 この状況をどう持っていくか。

 リトの頭が素早く回転していた。


「あの、リトさん。この力があれば、僕もリトさんのお役に立てますか?」


 顎に手を当てて考え込んでいたリトを、ミナトが見上げている。


「もちろん。でも、まずは練習しないとね。今回みたいに危ないことになるといけないし。しばらくは、他の人にもこのことは内緒にしててね」


 リトはミナトの頭に、ぽん、と手を乗せた。

 ミナトは大きく頷いた。


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