↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【鑑定しか使えない】と追放された俺、鑑定結果を書き換えられるので拾ったボロ剣を伝説の聖剣にしました  作者: カクナノゾム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/98

第70話 落ちぶれた元リーダーに、鍬を一本渡して終わりにした

 昨日、俺を追放した男が、刃のない剣で襲ってきた。


 馬蹄一枚で足を止めて、明日村に来いと言って別れた。


 俺のスキル『鑑定』は、ものの価値を書き換えられる。ただし、書き換えないで読むだけでもいい。


 朝、門は開けておいた。


  § § §


 昼を過ぎて、坂の下に人影が出た。


 背は高い。だが、遠くから見ると、そうでもなかった。


 肩が落ちているせいだ。


 ニナが門の柱によじ登って、目の上に手をかざした。


「りょうしゅさま。大きい人が来たよ」


「大きいか」


「うーん。ふつう」


  § § §


 ガイは、門の手前で止まった。


 畑には、三十人が並んで鍬を入れている。


 粉ひき小屋から白い粉が舞って、炊事場から湯気が上がっていた。


  § § §


 ネロが、鍬を持ったまま顔を上げた。


 目が合って、ガイが一歩下がる。


「……頭」


「その呼び方はやめてくれ」


 ネロが、鍬の柄を握り直した。


「俺ら、あんたに殴られた。三月ぶんな」


「そうだな」


「殴り返してえけど、飯の時間だから、あとにする」


  § § §


 ガイは何も言い返さなかった。あの声で怒鳴り返すと思っていたが、怒鳴らなかった。


 布はもう巻いていない。武勇伝みたいに見せていた頬の傷が、今日はただの古い傷だった。


  § § §


 ダレンが、杖をついて広場に出てきた。


「杖を折られたのは、俺だったな」


「……ダレンか」


「その節はどうも。おかげで新しいのが手に入った」


 杖の先を軽く鳴らして、それだけで下がっていく。言いたいことは済んだらしい。


  § § §


 ルミナが、井戸のほうから走ってきて、途中で止まった。


 両手を胸の前で握って、しばらく黙っている。


「……お腹、空いていますか」


 最初の一言が、それだった。


 ガイの喉が動いた。


「相変わらずだな、お前は」


「はい。相変わらずです」


  § § §


 グレタの鍋から、椀が一つ運ばれてきた。


 ガイは受け取らずに、俺のほうを見た。


「先に、話がある」


「どうぞ」


  § § §


 ガイが、帯から刃のない剣を抜いて、地面に置いた。


 磨いた折れ口が、昼の光を返している。


 枠が浮かんだ。


  [鋼の長剣『竜牙』(破損)]

  価値 銅貨0枚

  刀身の三分の二を欠損

  柄の赤石=染めた硝子(三つとも欠け)

  銘『竜牙』=あとから彫られたもの

  現在の売値 なし


  § § §


「書き換えろ」


「……」


「貴様の力なら、こいつを聖剣にできるのだろう」


「できるよ」


「なら、やれ」


  § § §


 俺は、剣に触らなかった。


「やらない」


「なぜだ! 俺を笑うためか!」


「違う。これを書き換えたら、あんたの剣じゃなくなるからだよ」


「意味が分からん」


  § § §


「名前も、性能も、俺には選べない。聖剣が出るかもしれないし、鍋敷きが出るかもしれない」


「……」


「出たものは二度と直せないんだ。あんたが四年、毎晩磨いてたものを、俺の運で潰すのは違うだろ」


  § § §


 ガイが、しばらく地面を見ていた。


 それから、震える声で言った。


「なら、俺を書き換えろ」


 俺は首を横に振った。


「生き物は無理なんだ。人も、魔物も。ずっと前から、そこだけはできない」


「……そうか」


「あんたを変えられるのは、あんただけだよ。ずるいこと言ってるのは分かってる」


  § § §


 コハクが、俺の後ろから出てきた。


 尻尾は振っていない。垂れ耳が、片方だけ持ち上がっている。俺の袖を握る手だけが、あたたかい。


「あなたが、ご主人様を捨てた人ですか」


「……そうだ」


「コハクは、あなたが嫌いです」


「だろうな」


「でも、ご主人様が飯を出すなら、コハクも出します」


  § § §


 俺は、厩の壁に立てかけてあった鍬を一本取って、ガイに渡した。


 新しいやつだ。ハーグが替えたときに、余った一本。


「これ、持っていけよ」


「施しはいらん」


「施しじゃない。畑を起こしたぶんは、麦で払う。ここの賃金は、そういう決まりだ」


  § § §


 ガイが、鍬を受け取った。


 受け取った両手が、剣を握るときの持ち方をしている。持ち替えるのに、ずいぶん時間がかかっていた。


「……三十人ぶんの飯を、貴様が出しているのか」


「村が出してる。俺は粉が増える石臼を置いただけだよ」


「鑑定が、飯を出すのか」


「出すよ。前にも言っただろ。鑑定は、役に立つ」


  § § §


 ガイは椀を一つだけ受け取って、門の外の石に座って食べた。中には入らなかった。


 食べ終わると、椀を洗って、炊事場の縁にきちんと伏せて置いた。四年前は、やらなかったことだ。


  § § §


 折れた竜牙は、置いていった。鍬だけを担いで、坂を下りていく。


 北の畑は、まだ半分しか起きていない。あっちで一日いくらか稼ぐんだろう。


 背中は、俺の記憶より一回り小さかった。


  § § §


「追いかけないんですか」


 ルミナが、俺の横で坂の下を見ていた。


「追いかけて、どうします」


「……村に、いてもらうとか」


「あの人、ここじゃ飯が喉を通らないですよ」


「はい」


「腹が減ったら、また来ますって」


  § § §


 その晩、村の広場で鍋を囲んだ。


 三十人ぶんの椀が並んで、それでも鍋の底は減らない。


 ハーグが、新しい鍬を膝に立てて座っていた。


「お領主様。村を焼こうとした男に、うちの鍬をやってしまわれた」


「一本くらい、いいだろ。うちは鍬が余ってる」


  § § §


 セシリアが、扇を閉じて隣に座った。煙と麦の匂いの中に、白薔薇がひとつ混ざる。


「あなた、あの男に一言も嫌味を言わなかったわね」


「前にも同じこと言われましたよ」


「二度目だから言うのよ。効きすぎるもの、あなたのそれ」


 言ってから、扇を開いて顔の半分を隠した。隠れていないほうの耳が、火より赤い。


  § § §


 置いていかれた折れた剣は、村の粉ひき小屋の壁に掛けた。


 書き換えない。売らない。ただ掛けておく。


 畑が二十町ぶん起きて、街道が三本つながって、粉の袋が七十を超えた。


 俺を道端に捨てた男に、飯を一杯と鍬を一本。


 貸し借りは、これで終わりでいいや。悪くないよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。