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【鑑定しか使えない】と追放された俺、鑑定結果を書き換えられるので拾ったボロ剣を伝説の聖剣にしました  作者: カクナノゾム


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第7話 元パーティ、俺なしで迷宮に入って全滅しかけた

 昨日、俺は雑草を万能薬に書き換えて、モーレ村の病人三十人を全員治した。


 村中に拝まれた。芋も山ほどもらった。


 俺のスキル『鑑定』は、ものの価値を書き換えられる。書き換えた通りに、現物が変わる。


 その芋をグレタに渡してから、俺は冒険者ギルドに向かった。


 冒険者証を作り直すためだ。追放されたとき、前の証はパーティに置いてきた。


「新規登録ですね。ランクはFからになります」


 受付のリサという女性が、栗色の髪を後ろでまとめたまま、書類を出しながら言った。


「はい、それで」


「スキルは」


「鑑定です」


 リサの手が止まった。ほんの一瞬だ。


「……失礼ですが、あなた、暁の剣にいた方では」


「元、ですけどね」


 ギルドの中が、急に静かになった気がした。


  § § §


「聞いてないんですか」


 リサが声を落とした。


「何をですか」


「暁の剣が、迷宮の五層で動けなくなってます。三日前からです」


 俺は書類にペンを走らせる手を止めなかった。


「へえ」


「五層は罠の層です。床の罠、天井の罠、宝箱の罠。見抜けないと、一歩ごとに死にます」


「そうですね」


「あそこは、優秀なシーフか鑑定士、どっちかがいないパーティは入るなという層なんです。罠が主体の階層で、それを見抜けないと……」


「暁の剣に、シーフは」


「いません。剣士と魔法使いと聖女さんだけです」


 俺は少し笑った。そりゃそうなるよなぁ。鑑定士は追い出して、シーフは最初からいないんだから。


 リサが言葉を切った。


 言いにくそうにしている。俺は書類を書き終えて、顔を上げた。


「続けてください」


「昨日、ガイさんのパーティから伝令の鳥が来ました。剣士のガイさんが右腕をやられて、魔法使いは魔力切れ。動けるのは聖女のルミナさんだけだそうです」


「ルミナが」


「はい。三日間、一睡もせずに回復魔法を回し続けているとか」


 俺はペンを置いた。


 ルミナの顔が浮かんだ。俺が追放されたあの日、一人だけ「待ってください」と言った人だ。


 結局、誰も聞かなかったが。


「ふーん」


 それだけ言った。


 リサが俺の顔を見ている。


「あの、腹は立たないんですか」


「立ちますよ。今も。四年荷物を持って、最後が『戦えねえ奴はいらねえ』だ。腹くらい立つだろ?」


「そう、ですか」


「でも、俺はもうあそこの人間じゃない。助けに行く義理もない」


 俺は書類を押し返した。


「Fランクの新人が、五層に潜れるとも思えませんし」


 リサが小さく吹き出した。


「……そうですね。規則ではそうなります」


  § § §


 掲示板の前に、冒険者が七、八人集まっていた。


 救援依頼の紙が貼られている。報酬は金貨三十枚。


「五層だぞ。誰が行くんだ」


「行っても、こっちが罠にかかって終わりだ」


「ロープが足りてねえんだよ。落とし穴だらけだって話だし」


 救援隊のまとめ役らしい大男が、麻のロープを抱えて日焼けした頭をかいていた。


 俺はそのロープを見た。


 枠が浮かぶ。


  [古い麻縄]

  価値 銅貨5枚

  人が二人でぶら下がると切れる


「じゃあ、書き換えるか」


 名前には触れない。光るのは価値の数字だけだ。


  [古い麻縄]

  価値 銅貨5枚

     ↓

  価値 銅貨1000000枚


 銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。数字が勝手に繰り上がる。


  価値 金貨100枚


 枠が消えて、また浮かんだ。


  [絶対に切れない命綱]

  価値 金貨100枚

  強度 測定不能

  どんな重さでも切れない


「おっ、ちょうどいいのが出た」


 薄汚れた麻縄が、白銀色の細い綱に変わった。手に取ると、重さがほとんどない。


 大男が飛び上がった。


「うおっ! なんだ今の!」


「その縄、切れませんよ。使ってください」


「切れないって、兄ちゃん、そんな話が」


 男は綱の両端を掴んで、思い切り引いた。顔が赤くなるまで引いた。


 びくともしない。


 周りの冒険者が集まってきた。四人がかりで引っ張っても、綱は伸びも切れもしなかった。


「なんだこりゃあ!」


「持っていっていいです。落とし穴に落ちても、それなら誰も死なない」


「兄ちゃん、あんた何者だ」


「Fランクです。今日登録しました」


 男が口を開けたまま固まった。


 俺は背を向けた。


「ご主人様」


 外で待っていたコハクが、耳を立てて駆けてくる。


「助けに行かないんですか」


「行かない」


「悪い人たちですか」


「まあ、そうだな」


 コハクは少し考えて、それから俺の袖を握った。


「でも、縄はあげました」


「行く奴が死ぬのは、後味が悪いからな」


「ご主人様は、優しいです」


 琥珀色の目が、まっすぐ俺を見上げていた。


「優しくはないよ。縄が一本、余っただけだろ?」


 俺は歩き出した。


  § § §


 三日後、救援隊は暁の剣を連れ戻した。


 全員生きていた。落とし穴に三度落ちて、三度とも綱で引き上げられたそうだ。


 ガイは担架で運ばれ、右腕を吊ったまま、ギルドの床で怒鳴っていたという。


「なぜ五層で罠が見抜けん! 誰か鑑定できる奴はいないのか!」


 その話をリサから聞いて、俺はスープを飲んでいた手を止めた。


 それから、また飲んだ。


「うまいな、これ」


「ご主人様、いま何か思いましたか」


「思ったな」


「なんですか」


「言わないでおく」


 コハクが首をかしげた。白い先端の耳が、片方だけ倒れている。


 鑑定は役に立たない。そう言った男が、鑑定できる奴を探して床で怒鳴ってるらしい。いや、それはさすがに笑うだろ。


 スープをもう一口飲んだ。


 今日のスープは、この六日で一番うまかった。

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