第6話 雑草を万能薬にして、村の病気を全部治した
昨日、俺は宿屋「三日月亭」のまずい飯を、材料ごと書き換えた。
店の外には夜まで行列ができていた。
俺のスキル『鑑定』は、ものの価値を書き換えられる。書き換えた通りに、現物が変わる。
その朝、食堂に駆け込んできたのは、泥だらけの若い男だった。
「薬を、薬を売ってくれ! 金なら払う!」
グレタが柄杓を置いた。
「あんた、モーレ村の子じゃないか。どうしたんだい」
「村で病が出ました。三十人が寝込んでます。もう六日も熱が下がらない」
男は膝に手をついて、息を切らしていた。額に張りついた前髪から、泥が落ちる。
「街の薬屋は、一本金貨二枚だと。村中の金を集めても、五本しか買えません」
「三十人に、五本かい」
グレタが唇を噛んだ。
俺は立ち上がった。
「コハク、行くぞ」
「わふっ!」
§ § §
モーレ村は、街から歩いて二時間の場所にあった。
家は二十軒ほど。畑が広がっている。
入ってすぐに分かった。人がいない。
畑に誰も立っていない。井戸端にも誰もいない。
どの家からも、咳の音がしていた。
村長の家に通された。白髪の老人が、痩せた腕をついて布団の上で体を起こす。
「よく来てくださった。だが、うちには払える金が」
「いりません」
「え」
「病人を、全員見せてください」
村長は俺を見上げたまま、しばらく口を開けていた。
§ § §
俺は村の道端にしゃがんだ。
どこにでも生えている雑草だ。細い葉が三枚、地面から出ている。名前も知らない。
引き抜くと、枠が浮かんだ。
[名もなき雑草]
価値 銅貨0枚
食べても腹をこわすだけ
「ご主人様、それ、草です」
「そうだな」
「病気の人がいます」
「そうだな」
俺はコハクを見て、それから枠に指を伸ばした。
「じゃあ、書き換えるか」
触るのは価値の数字だけだ。名前も、効果も、俺には選べない。あとはもう、祈るしかないんだよなぁ。
[名もなき雑草]
価値 銅貨0枚
↓
価値 銅貨5000000枚
銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。数字が勝手に繰り上がっていく。
価値 金貨500枚
枠が消えて、また浮かんだ。
[万能霊薬エリクシア]
価値 金貨500枚
効果 あらゆる病と傷を治す
一枚の葉で一人分
「よし、当たりだ!」
思わず声が出た。
手の中の草が、変わった。
葉は厚く、淡い緑の光を帯びている。茎からは、甘い匂いが立っていた。
コハクの耳がぴんと立つ。
「ご主人様! 草が、光ってます!」
琥珀色の目に、その淡い緑が映り込んでいた。
「今度は本当に光ってるな」
葉を数えた。三枚。三人分だ。
俺は道端の雑草を、片っ端から引き抜いた。一本ずつ、価値の数字を同じだけ盛っていく。
出てくる名前は毎回違った。[聖女の霊草]。[癒しの七葉]。名前が違っても、効くほうに転んでくれる。
「今日は、ついてるな」
§ § §
最初に飲ませたのは、いちばん重い子どもだった。
六日熱が下がらず、目も開かないと村長が言っていた子だ。
母親が震える手で、葉を口に含ませる。
三つ数えるほどの間だった。
子どもの頬に色が戻った。目が開いた。
「……おかあさん、おなかすいた」
母親が声を上げて泣いた。
部屋の外で見ていた村人たちが、どっと押し寄せてきた。
「俺にも!」
「うちの婆さんに!」
「押すな、順番だ!」
俺は葉を配り続けた。
飲んだ者から順に、自分の足で立ち上がっていく。
三十人。全員に行き渡って、まだ余った。
咳の音が、村から一軒ずつ消えていった。
§ § §
一時間後、村の広場に三十人が立っていた。
六日ぶりに布団から出た人間ばかりだ。誰も咳をしていない。
村長が、俺の前で膝をついた。
そして、地面に額をつけた。
「やめてください」
「いいや。これは、そうするべきことだ」
老人は顔を上げなかった。
その隣で、母親が子どもを抱いたまま同じようにする。
次の一人が。その次の一人が。
気づけば、三十人が全員、地面に額をつけていた。
「ご主人様……」
コハクが俺の袖を掴んだ。耳が寝ている。
「これ、なんですか」
「拝まれてるんだ」
「拝む?」
「ありがとうの、一番強いやつだ」
コハクの尻尾が、ゆっくり振れ始めた。
「じゃあ、いいことです」
「そうだな」
俺は村長の腕を取って、立たせた。
「草を薬にしただけです。そこに生えていた草を、です。金も取ってません」
「草を、薬に」
「はい。ただそれだけです」
「それだけと言える者を、わしは初めて見た」
「凄いのは俺じゃなくて、そこの草かもね」
村長は俺の手を両手で握った。骨ばった、畑仕事の手だった。
§ § §
帰り道、コハクが両手いっぱいに芋を抱えていた。
村の人が持たせた礼だ。断りきれなかった。
金貨五百枚を持っている俺たちが、芋をもらって帰る。
「ご主人様、芋、重いです」
「置いてくか」
「持ちます! もらったやつなので!」
夕日で、茶色いくせ毛の先まで赤く染まっていた。
夕日が畑を赤くしていた。
名もない雑草が、三十人の命になった。悪くないよね。
「ご主人様、すごいです」
「今日は俺もそう思う」
「わふっ」
コハクが芋を抱え直して、鼻を鳴らした。
街に戻ったら、この芋でグレタにスープを作ってもらおう。
§ § §
ちょっといいな、と思われましたら評価して頂けると嬉しいです!
お話の続きが少しでも気になる方は是非ブックマークを!
レビュー、コメントも大歓迎です!
どうかお気軽にコメントしてくださいね!




