第64話 村を襲いに来た賊に、飯を食わせて畑を耕させた
昨日、賊に奪われた荷を、破れた麻袋ひとつで全部呼び戻した。
塩も鍋も毛布も、村じゅうの家に戻っている。
俺のスキル『鑑定』は、ものの価値を書き換えられる。書き換えた通りに、現物が変わる。
その次の晩、賊が村に来た。
§ § §
といっても、中には一歩も入れていない。
村の柵は、魔物が近寄れない壁に書き換えてある。
賊は魔物ではないので、壁は素通しだ。ただ、素通しの門の前で、六人が並んで座り込んでいた。
デンが槍を杖にして、そこを見張っていた。
「お領主様。動きません」
「動かないって、どういうことだ」
「動けんのだと思われます」
§ § §
松明を近づけた。
六人とも、頬がこけている。
得物は持っている。持っているが、握る手のほうが震えていた。
真ん中の若いのが、俺を見上げて口を開いた。
「……麦を」
「三割か」
「一袋でいい。一袋でいいんです」
§ § §
コハクが俺の袖を引いた。垂れ耳が、ぺたんと寝ている。
「ご主人様。この人たち、においが薄いです」
「におい?」
「腹が減ってる人は、においが薄くなります」
コハクが奴隷市にいた頃の話だ。俺は、それ以上聞かなかった。
§ § §
「グレタの飯を出してやってくれ」
村の炊事場から、湯気の立った鍋が運ばれてきた。
賊が六人、得物を放り出して椀に飛びつく。
二杯目を注ぎ足したところで、若いのが手を止めて泣き出した。
「なんで、食わせるんだ」
「腹が減った奴に食わせない理由が、思いつかないんだよ」
§ § §
食い終わったところで、俺は村の粉ひき小屋へ全員を連れていった。
石臼が、真ん中から割れて転がっている。去年から誰も直せていないやつだ。
枠が浮かぶ。
[割れた石臼]
価値 銅貨3枚
中央から二分・使用不可
「じゃあ、書き換えるか」
§ § §
触れるのは価値の数字だけだ。名前は向こうが決める。
[割れた石臼]
価値 銅貨3枚
↓
価値 銅貨1200000枚
銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。数字が勝手に繰り上がる。
価値 金貨120枚
枠が消えて、また浮かんだ。
[不休の石臼]
価値 金貨120枚
効果 挽いた麦が二倍の粉になる・回す者が疲れない
§ § §
割れ目がつながって、白い石が一枚岩に戻った。
賊の一人が、恐る恐る取っ手を押した。
ごろん、と重い音がして、そのあとは驚くほど軽く回る。
「軽い。軽いぞ、これ」
「疲れないらしい。ずっと回せるってことだな」
「……ずっと?」
「回した分だけ粉になる。粉になった分だけ、パンになる」
§ § §
六人が、順番に取っ手を握った。
誰も、放そうとしない。
コハクが小屋の入り口で、尻尾を振りながら数えている。粉の匂いに包まれて、鼻の頭まで白い。
「一、二、たくさん! ご主人様、みんな回してます!」
「数えなくていいよ」
§ § §
朝になって、粉の袋が七つできていた。
俺は六人に鍬を渡した。厩の裏に、去年から起こしていない畑がある。
若いのが、鍬を持ったまま突っ立っていた。
「俺たちを、罰しないのか」
「畑を起こしてもらう。それが罰でいいだろ」
「盗んだんだぞ、俺たちは」
「盗んだ荷はもう戻った。減ってるのは、あんたらの体だけだ」
§ § §
鍬が畑に入る音が、朝じゅう続いた。
昼の休みに、若いのが俺の隣に座った。
「頭のところには、戻れねえ」
「怒られるからか」
「殴られる。仕損じると、必ず殴る」
「どんな奴だ」
「知らねえ。誰も顔を見てねえよ。ただ」
§ § §
若いのが、粉のついた手で自分の膝を掴んだ。
「毎晩、折れた剣を磨いてる。刃がねえのに、ずっと磨いてるんだ」
「折れた剣」
「柄に赤い石がついてる。あれだけは、誰にも触らせねえ」
俺は、懐に入れたままの鉄の欠片を思い出した。
まだ、布を開けていない。
§ § §
夕方、畑が半分起きた。
賊が六人、粉まみれで畝の上に転がっている。
ハーグが、その横に麦の袋を置いていった。腰は曲がったままだが、足取りが速い。
「明日の朝も、飯は出しますでな」
「怖くないのか。昨日まで襲いに来てた連中だぞ」
「三月もてば長いほうだと言うとった村が、こうなっとりますでな。人も、そんなもんでしょう」
デンが、槍を担いだまま鼻から息を吐いた。
「守備隊としては、門の外に六人増えたことになります」
「隊員か、それ」
「粉を挽けるぶん、私より役に立ちます」
石臼が一つと、鍬が六本。
村を襲いに来た連中が、村の畑を起こして寝ている。悪くないよね。




