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【鑑定しか使えない】と追放された俺、鑑定結果を書き換えられるので拾ったボロ剣を伝説の聖剣にしました  作者: カクナノゾム


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53/55

第53話 麦を買い占めに来た隣国の商隊を、麦袋ひとつで追い返した

 昨日、井戸に投げ込まれた毒の壺を、水を清める霊壺に書き換えた。


 村人は、水を飲むたびに元気になっている。


 俺のスキル『鑑定』は、ものの価値を書き換えられる。書き換えた通りに、現物が変わる。


 その次に来たのは、毒でも兵でもなく、金だった。


  § § §


 朝、街道に荷馬車が十台並んだ。


 どれも空の荷台で、御者が金の首飾りをじゃらつかせている。


 先頭の男が、革袋を放って寄越した。中で金貨が鳴った。


「ヴァルガの穀物商だ。この村の麦、全部買う」


  § § §


「全部」


「全部だ。市の三倍で買う。今日刈った分も、明日実る分もな」


 男が、指を三本立てて笑った。


 村人が、ざわついた。三倍は、大きい。


  § § §


 ハーグが、俺の袖を引いて小声になった。


 新しい鍬を、体を支えるように握っている。


「お領主様。悪い話ではありませんぞ」


「今日はな」


「今日は、とは」


「明日、村に食う物がなくなる」


  § § §


 セシリアが、扇を閉じて商人の前に出た。


 顎を引かない立ち姿で、荷馬車を上から下まで見る。


「十台で足りるの。この村の収穫、王都の直轄領と同じ量よ」


「足りなければ、また来る。毎日でも来る」


「毎日、三倍で。どこにそんな金があるのかしら」


  § § §


 商人は答えなかった。


 答えなくても、荷馬車の車輪を見れば分かる。


 どれも同じ鍛冶の刻印で、揃いすぎている。軍の荷馬車だ。


 ダレンが、隈の濃い目でそれを見ていた。


「商隊じゃないな。輜重隊だ」


「輜重って」


「軍に飯を運ぶ部隊だよ。買った麦は、そのまま兵の腹に入る」


  § § §


 つまり、こういうことらしい。


 この村の麦で、この村を攻める軍を養う。


 しかも代金は、市の三倍。断りにくいように作ってある。


 コハクが、俺の前に立ちはだかるように腕を広げた。垂れ耳が、後ろに倒れている。


 小さい背中から、お日様みたいな匂いがした。守られているのは、たぶん俺のほうだ。


「ご主人様。売っちゃだめです」


「売らないよ」


「わふっ。でも、村の人が困ります」


  § § §


 そこが問題だった。


 三倍で売れる話を断れば、村人は損をする。


 断って恨まれる領主は、たぶん長くもたない。


 なら、三倍より旨い話をこっちで作ればいい。


  § § §


 俺は、足元に置かれていた麦袋をひとつ持ち上げた。


 昨日の収穫の、売り物にならない屑麦の袋だ。


 枠が浮かぶ。


  [屑麦の袋]

  価値 銅貨2枚

  効果 なし


「じゃあ、書き換えるか」


  § § §


 触れるのは価値の数字だけだ。名前は向こうが決める。


  [屑麦の袋]

  価値 銅貨2枚

     ↓

  価値 銅貨300000000枚


 銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。数字が勝手に繰り上がる。


  価値 金貨30000枚


 枠が消えて、また浮かんだ。


  [万倉の種袋]

  価値 金貨30000枚

  効果 中身が尽きない・撒いた土地が一晩で実る


  § § §


 袋の口を開けて、傾けた。


 黄金色の麦が、地面にざあっと流れ出す。


 流しても流しても、袋は軽くならなかった。


 村人が、袋のまわりに集まってきた。


  § § §


「ハーグ。この麦、村の蔵に入れてくれ」


「入りきりませんぞ」


「じゃあ、蔵を増やそう。麦のほうは尽きないから、急がなくていい」


 ハーグが、口を開けたまま袋を見ていた。


 それから、腰の曲がった背中で、思い切り頭を下げた。


  § § §


 商人のほうを向いた。


「悪いけど、麦は売らない」


「三倍だぞ。四倍出してもいい」


「うちの袋、値がつかないんだ。尽きないから」


「尽きない、だと」


「見ての通り。いくらでも出るものに、四倍の値なんてつけられないだろ」


  § § §


 商人の首飾りが、揺れて止まった。


 空の荷馬車を十台連れてきて、積むものが一粒もない。


「……この話、将軍に上げる」


「将軍がいるのか、商隊に」


 商人が、口を閉じた。閉じるのが遅かった。


 セシリアが、扇の陰で笑っている。切れ上がった青い目が、細くなっていた。


  § § §


 荷馬車が、来た道を空のまま帰っていった。


 村の広場に、麦の山が残る。


 ニナが、山のてっぺんに座って足をぶらぶらさせていた。


「りょうしゅさま。これ、食べていい?」


「炊いてからにしろ」


「じゃあ、おかあさん呼んでくる」


  § § §


 ルミナが、麦の山を眺めて手を合わせた。細い肩が、上下している。


「これで、冬も大丈夫ですね」


「冬どころか、来年もですね」


「じゃあ、わたし、パンの焼き方を覚えます」


 言いながら、麦をひとつかみ手に取って匂いを嗅いだ。細い指が、粉で白くなっている。


「聖女様が」


「今日は、村の人ですから」


  § § §


 夕方、蔵の壁が一枚立った。


 村の男が三人がかりで運んだ板を、コハクが一人で担いで運んでいる。


「ご主人様! コハク、力持ちになりました!」


「水のおかげじゃないか、それ」


「じゃあ、もっと飲みます」


 板を担いだまま、尻尾が得意げに大きく振れた。褒めてほしいのが、耳の角度で丸わかりだった。


 村を飢えさせるための金が、麦袋ひとつで無駄になった。悪くないよね。

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