第41話 誰も欲しがらない辺境の領地を、押し付けられた
昨日、四人で正式にパーティを組んだ。名前は書き換え旅団になった。
俺のスキル『鑑定』は、ものの価値を書き換えられる。書き換えた通りに、現物が変わる。
朝いちばんで、王城から使者が来た。
§ § §
「王国鑑定卿レイン殿。陛下より、辺境ラズ領の管理を任せたいとのことです」
「領地、ですか」
「はい。正式な拝領です」
宿の食堂で、コハクの垂れ耳が真上に立った。
「ご主人様が、領主様に!」
§ § §
使者が帰ったあと、ダレンが杯を置いた。目の下の隈が、いつもより濃い。
「ラズ領って、あの北の荒地か」
「知ってるのか」
「五年で三人、領主が逃げてる。畑が実らん、井戸が涸れる、街道は崩れてる」
「押し付けられたな、これ」
§ § §
ルミナが、銀の髪の毛先を指で挟んだ。
「でも、困っている人がいるなら」
「行くしかないよな」
セシリアが、扇を閉じて机を叩いた。
「わたくしも同行するわ。父の名代としてよ」
「王女様が辺境に来ていいんですか」
「べ、別にあなたのためじゃないわ。視察よ、視察」
§ § §
馬車で三日。
着いた先は、話に聞いた通りだった。
土は白っぽく乾いて、割れている。畑らしき場所に、枯れた茎が突っ立っているだけ。
コハクが鼻をひくひくさせて、しょんぼりと耳を伏せた。
「ご主人様。ここ、水の匂いがしません」
村の入口の柵は、半分倒れていた。
§ § §
村人が集まってきた。誰も痩せていて、目だけがこっちを見ている。
先頭に立ったのは、腰の曲がった老人だった。日に焼けた顔に、皺が深く刻まれている。杖の代わりに、折れた鍬を突いていた。
「わしがこの村の村長で、ハーグと申します。……また、新しいお領主様ですかな」
「レインだ。よろしく」
「三月もてば、長いほうです」
§ § §
「ずいぶんな言い方だな」
「本当のことですから。ここには何もない。水も、土も、金も」
ハーグの後ろから、小さい女の子が顔を出した。
髪をぼさぼさにした、十歳くらいの子だ。裸足だった。
「ねえ、りょうしゅさま。パンくれるの?」
§ § §
「ニナ! 失礼だろう」
ハーグが慌てて頭を下げた。
俺は膝を折って、女の子と目線を合わせた。
「パンはないな。今は」
「なんだ」
「でも、なんとかする」
「みんな、そう言って、いなくなるよ」
§ § §
こういうのは、口で言っても始まらない。
俺は、村の真ん中を見た。
崩れかけた石の井戸がある。中を覗くと、底に泥が乾いてこびりついていた。
枠が浮かぶ。
[涸れた石の井戸]
価値 銅貨3枚
状態 水脈断絶・崩落寸前
「じゃあ、書き換えるか」
§ § §
触れるのは価値の数字だけだ。名前は向こうが決める。
[涸れた石の井戸]
価値 銅貨3枚
↓
価値 銅貨500000枚
銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。数字が勝手に繰り上がる。
価値 金貨50枚
枠が消えて、また浮かんだ。
[尽きぬ湧水の井戸]
価値 金貨50枚
効果 水量無限・水質浄化・周囲の土を潤す
§ § §
地面の底で、ごぼ、と音がした。
次の瞬間、井戸の縁から水が溢れた。
澄んだ水が石を伝って、乾いた地面に染みていく。
ニナが、悲鳴みたいな声を上げた。
「水だ! 水、出てる!」
§ § §
村人が、我先にと井戸に群がった。
手ですくって飲む者、桶を取りに走る者。誰かが泣き出した。
ハーグが、折れた鍬を落として、その場に座り込んだ。
「三年、涸れておったんです。三年」
「もう涸れないってさ。効果欄にそう書いてある」
「……そう、ですか」
§ § §
コハクが水面に鼻を寄せて、尻尾を千切れそうに振った。
「ご主人様、いい匂いです! 村の人、全員笑ってます!」
「まだ井戸ひとつだけどな」
セシリアが、腕を組んで水を眺めている。縦ロールの一房が、頬に落ちていた。
「三人の領主が逃げた土地よ。それを半日で、ね」
「凄いのは俺じゃなくてスキルなのかもね」
「そういうところが、腹立たしいのよ」
§ § §
ニナが、両手いっぱいの水をこぼしながら走ってきた。
「りょうしゅさま、飲んで!」
「ありがとな」
冷たかった。ちょっと甘い気さえする。
水を飲みながら、俺は畑のほうを見た。
土はまだ、白く乾いたままだ。やることは、いくらでもある。
押し付けられた荒地の、まず井戸ひとつ。悪くないよね。
§ § §
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