第40話 四人で、正式にパーティを組んだ
昨日、下町の水路氾濫を、四人で解決した。
誰も欠けずに、宿でスープを囲んだ。
俺のスキル『鑑定』は、ものの価値を書き換えられる。書き換えた通りに、現物が変わる。
朝、ギルドへ向かうと、バルドが待ち構えていた。
§ § §
「聞いたぞ、水路の件。四人で見事だったってな」
「たまたまですよ。四人いたから、たまたま間に合っただけで」
「たまたまで水門は直らんだろう」
バルドが、机の上に一枚の紙を広げた。
「パーティ登録、正式にしないか」
§ § §
「今まで、パーティって呼べるほどの体裁じゃなかったですけど」
「もう十分だろう。四人揃ってる」
コハクの耳が、真上を向いた。琥珀色の目が、机の紙と俺の顔を往復する。
「ご主人様、パーティ、正式になるんですか!」
「まあ、そうなるな」
ルミナが、そっと胸に手を当てた。
「正式な仲間、久しぶりです」
「暁の剣も、正式なパーティだっただろ」
「はい。でも、こんな気持ちで所属するのは、初めてです」
伏せがちな目が、めずらしくまっすぐ俺を見ていた。
「名前がつくと、いなくなっても許されない気がして、少し怖いんです。でも、今は怖くないです」
「なんだ、それ」
「うまく言えません。うれしいってことです、多分」
§ § §
「パーティ名は、決めてあるのか」
「決めてないです」
「じゃあ、今決めろ」
バルドが、ペンを差し出した。
四人で、顔を見合わせた。
§ § §
「書き換え、を入れたいな」
俺が言うと、ダレンが頷いた。
「悪くない。あの日、俺たちを助けたのはその力だ」
「わたしも、賛成です」
コハクが、ぴょんと跳ねた。
「じゃあ書き換え隊、はどうですか!」
「隊、じゃなくてもいいけど」
§ § §
結局、「書き換え旅団」という名前に落ち着いた。
バルドが、紙に書き込んで判を押す。
「これで正式に登録完了だ。おめでとう」
「ありがとうございます」
§ § §
ギルドを出ると、セシリアが馬車で待っていた。
「聞いたわよ、パーティ登録したんですって?」
「耳が早いですね」
「王城にも情報網があるのよ」
セシリアが、扇を開いて口元を隠した。隠れていない目が、いつもより柔らかい。金の縦ロールが、馬車の日除けの陰で揺れている。
「お祝いに、何か贈ろうかしら」
§ § §
「いえ、お気持ちだけで」
「遠慮しないで。わたくしが決めたことだもの」
扇の先で、胸元をとんとん叩いている。頬が赤い。
コハクが、こっそり耳打ちしてきた。
「ご主人様、王女様、また張り合ってます」
「相手はお前だと思うぞ、多分」
「わふっ、望むところです!」
§ § §
夕方、宿に集まった。
グレタが、特別に大皿の料理を並べてくれる。
「パーティ結成祝いだ。今日は全部わたしの奢りだよ」
「グレタさんが奢る方なのは、初めて見ました」
「たまにはね。宿代、散々払ってもらった分の礼だよ」
§ § §
テーブルを、四人で囲んだ。
コハクが、真っ先にスープを一口飲んで、尻尾を振った。
「わふっ、美味しいです!」
ルミナが、静かにその隣で微笑んでいる。胸の前で手を合わせる癖は、もう出ていない。
「賑やかで、いいですね」
「昔は、こんなに騒がしくなかったのか」
「はい。とても、静かでした」
ダレンが、杯を軽く掲げた。目の下の隈は相変わらずだが、口の端が上がっている。
「乾杯でもするか。パーティ結成に」
「いいですね」
「わふっ、乾杯です!」
四つの杯が、軽い音を立ててぶつかった。
§ § §
「これから、どうする」
ダレンが聞いた。
「決めてない。依頼が来たら受けるし、来なくても、なんとかなる」
「相変わらず適当だな」
「適当でここまで来たからな」
コハクが、笑いながら割り込んだ。
「ご主人様、次はどこの物を書き換えるんですか?」
「さあな。まだ何も拾ってないよ。拾ってからのお楽しみだろ?」
§ § §
窓の外は、もう夜だった。
王都の灯りが、遠くまで続いている。
四人の笑い声が、宿の中に響いていた。
書き換え旅団の一日目が、こうして終わった。
拾うべき物は、まだその辺にいくらでも転がってるんだろうな。悪くないよね。




