第39話 四人で初めて、依頼をこなした
昨日、ガイがSランクを剥奪された。バルドから礼状と金貨をもらった。
今夜は奢りだと約束したので、王都の宿へ向かった。
俺のスキル『鑑定』は、ものの価値を書き換えられる。書き換えた通りに、現物が変わる。
グレタは、建国祭のあとも王都に残って、この宿の女将業を手伝っている。元の街の三日月亭は、しばらく休業中らしい。
店に入ると、グレタが目を丸くした。
§ § §
「あんた、また増えたのかい」
「増えました」
「賑やかになったねえ」
グレタが、四人分の椅子を並べてくれる。
ダレンが、物珍しそうに店を見回した。
「ここが、噂の宿か」
「噂?」
「王都でも有名だぞ。飯が絶品だって」
「食べれば分かります」
ルミナが、銀の髪を耳にかけてメニューを覗き込んだ。細い指が、上から順に品書きをなぞっていく。
「暁の剣にいた頃は、外食なんてほとんど。ゆっくり食べるのも久しぶりです」
「今日は好きなだけ頼め」
「いいんですか」
「奢りだからな、俺じゃなくてバルドさんの」
§ § §
料理が運ばれてくる途中、店の扉が乱暴に開いた。
「大変だ! 水路が氾濫しそうだ!」
泥まみれの若い男だった。長靴のまま店に踏み込んで、裏返った声で叫んでいる。
「下町の方が、水浸しになりかけてる!」
店内が、ざわついた。
§ § §
「行くぞ」
俺が言うと、三人が同時に立ち上がった。
「わふっ!」
「はい!」
「仕方ないな」
グレタが、料理を包みながら手を振った。
「終わったら戻っといで! 温め直しといてやる!」
§ § §
下町の水路は、濁流になっていた。
水嵩がどんどん増して、家々の入り口まで迫っている。
鑑定してみる。
枠が浮かぶ。
[老朽化した水門]
状態 老朽化により破損・開閉不能
「これが原因か」
§ § §
「ダレン、水を抑えられるか」
「一時的にならな。長くは持たない」
「その間に俺が門を直す。ルミナは避難の手伝いを」
「分かりました」
「コハクは、周りの人に声かけて回ってくれ」
「はい!」
四人が、同時に散った。
§ § §
ダレンが、杖を掲げる。余ったローブの袖が、腕の細さのまま風に鳴った。
「凍てつけ」
抑揚のない一言だった。
蒼穹の杖が輝いて、濁流の一部が薄い氷の壁になった。
水の勢いが、目に見えて弱まる。
「今のうちだ!」
俺は、水門に駆け寄って触れた。
枠が浮かぶ。
[老朽化した水門]
価値 銅貨0枚
状態 破損・開閉不能
「じゃあ、書き換えるか」
§ § §
状態の行には指が届かない。触れるのは価値の数字だけだ。
[老朽化した水門]
価値 銅貨0枚
↓
価値 銅貨20000000枚
銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。数字が勝手に繰り上がる。
価値 金貨2000枚
枠が消えて、また浮かんだ。
[自動制御の水門]
価値 金貨2000枚
効果 水位を感知して自動で開閉する・錆びない
半永久的に壊れない
「勝手に開け閉めしてくれるらしい。上等だ」
水門が、独りでに動き出した。
濁流が、正しい水路へと導かれていく。
水位が、みるみる下がっていった。
§ § §
ルミナが、避難していた住民たちを見て回っていた。
「怪我人は、いませんか」
「大丈夫だ、聖女様のおかげで間に合った」
コハクが、子どもたちに囲まれていた。
「お姉ちゃん、犬みたいな耳、本物?」
「本物です!」
白い先端まで、耳がぴんと立っている。
尻尾を振ると、子どもたちが歓声を上げた。
§ § §
水が引いた頃には、夕方になっていた。
住民たちが、口々に礼を言いながら家に戻っていく。
ダレンが、杖を下ろして息をついた。
「初仕事にしちゃ、上出来か」
「上出来だ」
「わふっ、みんなでやると早いです!」
「ルミナも、お疲れ様」
「はい。今日は、誰も謝らなくて良かったです」
言いながら、銀の毛先を指で撫でつけている。
§ § §
宿に戻ると、グレタが四人分のスープを温め直して待っていた。
「聞いたよ、下町の水門の話。あんたたち、大したもんだね」
「四人でやったんですよ。俺は門に触っただけ」
グレタが、赤らんだ顔をさらに赤くして笑った。声が厨房の奥まで抜けて、鍋が鳴る。
「それが大したもんなんだよ」
湯気の立つスープを、四人で囲んだ。
ダレンが、匂いを嗅いで目を丸くした。
「これは……噂通りだな」
「でしょう」
コハクが、得意げに胸を張った。
四人で行って、四人で帰ってきて、スープを囲んでる。悪くないよね。




