第38話 ガイが、Sランクを剥奪された
昨日、ダレンがパーティに加わった。杖も蒼穹の杖に書き換えた。
これで、コハク、ルミナ、ダレン。にわかに賑やかになった。
俺のスキル『鑑定』は、ものの価値を書き換えられる。書き換えた通りに、現物が変わる。
式典での一件を報告しに、ギルドへ向かった。
道中、露店の車輪が外れて立ち往生している老人を見かけた。
「大丈夫ですか」
腰の曲がった老人が、皺だらけの顔をくしゃりとさせた。
「ああ、すまんね。古い車輪でね、もう寿命だ」
枠が浮かぶ。
[外れた木の車輪]
価値 銅貨2枚
状態 摩耗・破損寸前
「じゃあ、書き換えるか」
触れるのは価値の数字だけだ。名前は向こうが決める。
[外れた木の車輪]
価値 銅貨2枚
↓
価値 銅貨8000枚
銅貨100枚で銀貨1枚。数字が勝手に繰り上がる。
価値 銀貨80枚
枠が消えて、また浮かんだ。
[不滅の車輪]
価値 銀貨80枚
効果 摩耗しない・外れない
「お、不滅だってさ。これで当分、平気ですよ」
老人が、何度も頭を下げて礼を言った。
§ § §
受付に着くと、掲示板の前に人だかりができていた。
ギルド長バルドが、壇上で紙を読み上げている。太い首から出る声が、人だかりの一番後ろまで届いていた。髭が、一言ごとに上下する。
「暁の剣、ガイ・オルド。度重なる依頼失敗、契約不履行、及び装備損壊による部下への損害。よって、本日をもってSランク認定を取り消す」
§ § §
人だかりの中に、ガイがいた。
一人で、壇の前に立っている。
「待ってくれ、バルド殿。俺は」
「言い訳は聞かん。お前のパーティは、もう誰もいないだろう」
「それは……」
あの太い声が、尻すぼみになった。肩幅は変わっていないのに、以前ほど大きく見えない。
§ § §
バルドが、書類を突き返した。
「Fランクからやり直せ。それが嫌なら、ギルドを去れ」
周りの冒険者たちが、遠巻きに見ていた。
誰も、庇う声を上げなかった。
§ § §
「レイン」
ガイが、こっちに気づいた。
目が合う。
以前のような、憎しみの色はもうなかった。
§ § §
「見に来たのか。俺の、ざまあを」
「報告に来ただけだ。ついでに見えただけで」
「そうか」
ガイが、壇を降りて、こっちに歩いてきた。
剣の柄に、手がかかる。
「まだ言うことがある。貴様のその杖も、その仲間も、元は」
「元は、お前が壊して、お前が手放したものだ」
ガイの手が、止まった。
§ § §
枠が浮かぶ。
[ガイの外套の襟章]
効果 Sランク認定の証(剥奪により無効化済み)
鑑定しただけで、書き換えはしなかった。
ガイが、その視線に気づいて、襟章を乱暴に引きちぎった。
「見るな」
「見てただけだ」
「うるさい!」
ガイが、襟章を床に叩きつけて、踵を返した。
§ § §
振り返らずに、ギルドの外へ出ていった。
その背中を、コハクが見送っていた。
「ご主人様、追いかけないんですか」
「今は、放っておく」
ルミナが、静かに言った。
「わたしも、それがいいと思います」
§ § §
バルドが、俺たちの方に来た。
「後始末は、ギルドでやる。お前たちは、今日はもう休め」
「式典の報告、まだですけど」
「聞いた。使者様から、直々に礼状が届いてる」
バルドが、分厚い封筒を差し出した。
§ § §
「暁の剣は、事実上の解散だ。ガイ一人になった」
「そうですか」
「複雑そうな顔だな」
「別に、ざまあ見ろとは思わないよ。思うほど、あいつに何も残ってない」
ダレンが、隣で小さく頷いた。隈の濃い目は、床のほうを向いたままだ。
「俺も、同じ気持ちだ」
バルドが、封筒を軽く振った。
「礼状の中身、金貨も入ってるらしいぞ。今夜は奢りだな」
「わふっ! 奢りです、ご主人様!」
尻尾が、封筒より先に喜んでいる。
ダレンが、封筒を覗き込んだ。
「気前がいいな、ギルドも」
「命の恩人には、それなりに払うということでしょう」
ルミナが、静かに微笑んだ。
「みんなで使えるお金って、いいですね」
淡い緑の目が、少しだけ細くなった。
ギルドの窓から、昼下がりの光が差し込んでいた。
道端の車輪を直して、礼状と奢りまでついてきた。悪くないよね。




