第3話 ゴミ捨て場で国宝を10個作った
昨日、俺は道端の石を金塊に書き換えて、その金で奴隷の少女コハクを買った。
首輪も書き換えて外してやった。今コハクは俺の隣で、朝からパンを四個食べている。
俺のスキル『鑑定』は、モノの価値を書き換えられる。書き換えた通りに、現物が変わる。
「ご主人様、今日は何をしますか」
「まあ、稼ぐか」
「わふっ」
コハクの尻尾が振れた。
金貨50枚は、もう手元にない。全部、コハクの代金として奴隷商人に渡したからだ。残っているのは、宿代のおつりの銀貨が何枚か。
だから今日は、金の話をする。
§ § §
街の東の外れに、ゴミ捨て場があった。
割れた皿。欠けた壺。曲がった燭台。誰も拾わない物が山になっている。
匂いもひどい。コハクが鼻を押さえた。
「ご主人様、ここ、くさいです」
「そうだな。でも宝の山だ」
「宝?」
俺は山から皿を一枚抜き取った。ふちが欠けて、模様も剥げている。
枠が浮かぶ。
[欠けた皿]
価値 銅貨0枚
「じゃあ、書き換えるか」
数字だけに、指で触れる。名前には触れない。触っても光らないからだ。
単位までは選べない。数字を、大きくするだけだ。
「じゃ、盛るか」
[欠けた皿]
価値 銅貨0枚
↓
価値 金貨80枚
枠が消えて、また浮かぶ。今度は名前が、勝手に書き換わっていた。
[古代王朝の白磁皿]
価値 金貨80枚
現存三枚のうちの一枚
「名前は毎回、向こうが決めるんだよな」
手の中の皿が、白くなめらかに変わった。ふちの欠けは埋まり、底には見たこともない紋様が浮かんでいる。
コハクの耳がぴんと立った。
「ご主人様、それ、光ってます!」
「光ってはいないけどな。まあ、きれいにはなったよ」
「きれいです! さっきまでゴミでした!」
琥珀色の目が、皿より丸くなっている。
「ゴミも国宝も、書き換えれば同じだ」
俺はもう一枚、壺を拾った。
これも書き換える。次は燭台。次は錆びた燭台の相方。次は取っ手の取れた水差し。
全部で十個。
書き換えるたびに、コハクが数えた。
「三つ。四つ。……ご主人様、五つ目です!」
「まだいくぞ」
「六つ。七つ。八つ。九つ」
コハクの声が、だんだん大きくなっていく。
「十個! ご主人様、十個できました!」
コハクは両手を上げていた。
俺は麻袋に十個を詰めた。ずっしり重い。
「我ながら、大したもんだな」
ゴミ捨て場から、国宝が十個出た。悪くないよね。
§ § §
通りに戻る途中、冒険者らしい男二人が話しているのが聞こえた。
「暁の剣、迷宮の三層で足止め食らってるらしいぞ」
「あのSランクが? 嘘だろ」
俺は聞こえないふりをして歩いた。歩くのが少し速くなったのは、まあ、気にしないでほしい。
コハクが俺を見上げる。
「ご主人様、知ってる人ですか」
「昔いた職場だ。もう関係ないさ」
言ってから、ちょっとだけ笑えてきた。ざまあみろ、とまでは言わないでおく。
§ § §
街で一番大きな古美術商は、看板に太った男の顔が描いてあった。
中に入ると、その顔がそのまま出てきた。
「いらっしゃい。おや、坊やと犬っころか」
脂の浮いた丸い顔で、指には金の輪を五つはめていた。
「私はドルグ。この街の目利きで、私に見えない価値はない」
「これ、買ってくれますか」
俺は麻袋を台に置いた。中身を並べる。
ドルグの手が止まった。
皿を持ち上げ、底を見て、また置いた。もう一度持ち上げた。
「……坊や。これをどこで」
「拾いました」
「拾った」
「ゴミ捨て場です」
ドルグは笑い出した。腹が揺れている。
「面白い坊やだ! いいだろう、その冗談に免じて銀貨十枚出そう」
「銀貨十枚」
「十個まとめてだ。ありがたく思え」
俺はコハクを見た。垂れた耳を片方だけ持ち上げて、首をかしげている。
俺は皿を一枚持ち上げて、窓の光にかざした。
「これ、現存三枚のうちの一枚らしいですよ」
「……なぜそれを」
「鑑定士なんで」
ドルグの顔から笑いが消えた。
汗が一筋、こめかみを落ちていく。
「い、いや、待て。銀貨十枚は言葉のあやだ。金貨十枚、いや五十枚」
「ドルグさん」
「百枚! 百枚出す!」
「五百枚」
店の中が静かになった。
「ご、五百……」
「一個で金貨八十枚のものが十個。八百枚が相場です。五百枚なら、あなたが三百枚儲かる」
ドルグの目が、皿と俺の間を何度も往復した。
そして、奥の金庫へ走った。
§ § §
金貨五百枚は、麻袋二つになった。
コハクが片方を抱えて、よろけている。
「ご主人様、重いです。すごく重いです」
「無理すんな、持てなきゃ置いてけ」
「持ちます!」
外に出ると、日はまだ高かった。
ゴミ捨て場で拾った十個が、金貨五百枚になった。庶民の生活費でいえば、四十年分を超える。
「ご主人様」
「なんだ」
「コハク、今日、宿の一番いい部屋で寝られますか」
「宿ごと買えるぞ」
コハクが袋を落とした。金貨が地面に散らばって、通りの人が全員こちらを見た。
「わふっ、ご、ごめんなさい!」
耳が一気にぺたんと寝て、頬まで赤くなった。
「拾えばいい。まだいくらでもある」
俺は膝をついて、一枚ずつ拾い集めた。
コハクの尻尾が、俺の腕にずっと当たっていた。




