表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【鑑定しか使えない】と追放された俺、鑑定結果を書き換えられるので拾ったボロ剣を伝説の聖剣にしました  作者: カクナノゾム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/52

第19話 ゴミから作った国宝を、王様に献上した

 昨夜、俺の献上品はガイに叩き割られた。


 そして俺は破片を書き換えて、割れる前よりすごい杯にした。名前は星霜の杯。注いだ水が万病を癒し、水は決して尽きない。


 俺のスキル『鑑定』は、ものの価値を書き換えられる。壊れていようが関係ない。


 建国祭の献上式は、王城の大広間で行われた。


 赤い絨毯の左右に、貴族が並んでいる。奥の段の上に、玉座がある。


 白い髭を胸まで垂らした男が、そこに座っていた。リーゼル王国の国王だ。目だけが、若い者のようによく動く。


 コハクは俺の後ろで、聖騎士の鎧のまま直立していた。


 兜の穴から出た耳が、さっきから左右に忙しく動いている。


「ご主人様。足がふるえます」


「鎧が重いだけだ」


「そうかもしれません」


  § § §


 献上は、家格の順に進んだ。


 金の彫像。宝石をはめ込んだ盾。竜の鱗で編んだ外套。


 どれも立派で、どれも国王は「うむ」としか言わなかった。


 俺の前が、ヴェスト男爵だった。


 男爵は真珠の箱を抱えて出てきて、段の下でしばらく黙っている。


 箱を開けない。


「男爵。献上の品を」


 侍従に促されて、男爵がやっと蓋を開けた。


 中身は、糸に結んだ白いガラス玉が三十粒。


 広間がざわついた。


 男爵は箱を持ったまま、ひたいの汗を拭いている。撫でつけた髪が、汗で額に貼りついていた。


 俺は前に出て、その箱を横から覗き込んだ。


「陛下。この方の品、俺が見てもいいですか」


「よい」


 枠が浮かぶ。


  [硝子玉の首飾り]

  価値 銅貨30枚

  真珠を模した安物


「じゃあ、書き換えるか」


 なぞるのは価値の数字だけだ。名前は向こうが決める。


  [硝子玉の首飾り]

  価値 銅貨30枚

     ↓

  価値 銅貨8000000枚


 銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。数字が勝手に繰り上がる。


  価値 金貨800枚


 枠が消えて、また浮かんだ。


  [海淵の真珠 三十粒]

  価値 金貨800枚

  海の底でしか採れない・身につけた者は溺れない


「おっ、真珠が出た。都合がいいな」


 白が濁りを抜けて、内側から光が回った。


 男爵が箱を落としかけて、慌てて抱え直した。


「な、なぜ、私に」


「あんた、俺を笑ったでしょう」


「……笑いました」


「船を二隻沈めたって話は、本当ですか」


「本当です。沈めて、掴まされて、丸損しました」


「じゃあ、その分です」


 男爵が箱を掲げたまま、段の下で頭を下げた。


 顔を上げたあとは、もう何も言わなかった。


  § § §


 俺の番が来た。


 布を開いて、杯を段の上に差し出す。


 金の継ぎ目が八本走った、白い杯。


 国王が身を乗り出した。


「これは、なんだ」


「ゴミ捨て場で拾った杯です」


 広間がどよめいた。


「昨夜、人に叩き割られました。そのあと、こうなりました」


「割られて、そうなったのか」


「はい」


 俺は侍従に水差しを頼んで、杯に水を満たした。


 縁のところで水が止まって、それ以上は増えない。傾けても減らない。


 国王が階段を降りてきた。


 王が玉座を離れると、広間がいっせいに膝をつく。


「ボルグを連れてまいれ」


  § § §


 運ばれてきたのは、椅子に乗せられた老人だった。


 痩せて、白い髭だけが長い。肩まで毛布をかけている。その下で、手がずっと震えていた。


 国王が、その肩に手を置く。


「余の傅役だ。三年、床にいる。医者はもう匙を投げた」


「飲ませていいですか」


「頼む」


 コハクが杯を両手で支えて、老人の口元に運んだ。


 老人が一口だけ含む。


 喉が動いた。


 毛布の下の手から、震えが消えた。


 二口目で、老人が自分の手で杯を持つ。


 三口目で、椅子から立ち上がった。


 どこかで、小さい悲鳴。


 ボルグ卿はまっすぐに立って、自分の膝を二度叩いた。


「陛下。足が、ございます」


「ボルグ」


「三年ぶりに、床を踏んでおります。……鑑定卿と申されましたか。この老いぼれに、返せるものが何もない」


「立ってるところを見せてもらったよ。それで十分だ」


 国王が杯を両手で受け取って、高く掲げた。


「本日をもってこの杯を国宝と定める。名を、星霜の杯」


 広間が割れるような音になった。


  § § §


 拍手が収まってから、国王が俺のほうを向いた。


「レインよ。そなたに男爵位を与える。加えて、王国鑑定卿の位を正式なものとする」


「爵位、いりますか」


「要る。位のない者の言葉は、この国では届かぬ」


 それは、なるほどと思った。


 俺は膝をついて、受けた。


 立ち上がると、後ろでセシリアが扇を口元に当てている。


「よかったわね。これでわたくしと同じ広間に立てるわ」


「今も立ってますけど」


「そういう意味じゃないの」


 セシリアがこほんと咳をした。


「べ、別にあなたと並びたかったわけじゃないわ。国の格式の問題よ」


「はい」


「なんで笑うの」


 扇の先が、胸元をとんとん叩いている。


 コハクが俺の袖を引いて、鎧を鳴らした。


「ご主人様、すごいです! ゴミが国宝になりました!」


「ゴミも国宝も、書き換えれば同じだ」


 ボルグ卿が、自分の足で広間を一周して回っている。


 行く先々で、貴族が立ち上がって道を空けていた。


 その老人が俺の前まで来て、手を握った。骨ばった手に、力があった。


「男爵殿。祭が終わったら、庭を歩きませんか。三年ぶんの庭が、ございます」


「歩きましょう」


 窓の外で、建国祭の鐘が鳴り始めた。


 拾ってきた銅貨一枚が、国宝になって、老人を歩かせている。


 悪くない一日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ