第16話 建国祭の献上品を、ゴミ捨て場の材料で作ることにした
昨日、俺は贋作商人の店にある物を全部読み上げて、その男を牢に送った。
ついでに建国祭の献上品を出すことになった。国じゅうの貴族が、王家に宝を献じる場らしい。
俺のスキル『鑑定』は、ものの価値を書き換えられる。書き換えた通りに、現物が変わる。
だから朝いちばんで、王都の外れのゴミ捨て場に来た。
コハクが鼻を押さえて、それでも耳をぴんと立てている。
「ご主人様。ここが、宝のあるところですか」
「ここが宝のあるところだ」
§ § §
セシリアは馬車から降りてこなかった。
窓から扇だけ出して、こちらを指している。
「レイン。わたくし、あなたに出場枠をねじ込んだのよ。三日かけて、財務卿に頭まで下げて」
「助かります」
「なのに、なぜゴミ山にいるの。わたくしの立場をどうしてくれるの」
「材料を拾いに来たと言ったでしょう」
扇が窓枠を叩いた。
俺は割れた瓶と折れた車輪を踏み越えて、山の中腹まで登った。
鑑定は、見えるものを片っ端から読み上げてくれる。
欠けた木椀。銅貨にもならない。
穴のあいた鍋。銅貨にもならない。
折れた匙が三本。まとめて銅貨一枚。
どれも書き換えれば宝になる。だが献上する物は、手に持ったときの形が要る。王の前で差し出すのに、穴のあいた鍋では格好がつかない。
コハクが山の裏側から声を上げた。
「ご主人様、こっちに壺があります」
「割れてるか」
「まっぷたつです」
「なら別のを探す」
その下に、白いものが埋まっていた。
引き抜くと、杯だった。
陶器の杯で、縁が三日月の形に欠けている。持ち手のところに、古いひびが一本。
[欠けた陶の杯]
価値 銅貨1枚
縁に欠け・持ち手にひび
「これにする」
コハクが覗き込んで、耳を左右に振った。
「書き換えないんですか」
「祭の当日にやる。書き換えた瞬間から光るからな。先に見せたら面白くない」
「ご主人様、意地悪です」
「褒め言葉として受け取っておく」
§ § §
城に戻ると、広間に人が集まっていた。
献上品の下見だという。貴族たちが自分の宝を卓に並べて、互いに値段を言い合っている。
金の彫像。宝石をはめ込んだ盾。輸入品の香油。どれも数を聞くと金貨が三桁飛ぶ。
その真ん中で、赤い上着の男が声を張っていた。細身で、油で撫でつけた髪。薄い口髭が、喋るたびに動く。
「わがヴェスト家は、東の海の真珠を三十粒。船を二隻沈めて集めた品でございます」
男が振り返って、俺の手元を見た。
それから、笑い出した。
「これはこれは、噂の鑑定卿。その手にお持ちなのは、なんですかな」
「杯です」
「杯」
「ゴミ捨て場で拾いました」
広間が、どっと沸いた。
誰かが手を叩いて笑っている。誰かが隣の耳元で何か言って、また笑いが起きた。
ヴェスト男爵が真珠の箱を閉じて、俺の肩を軽く叩く。
「王家に、ゴミを。いや、面白い趣向だ。祭の余興としては上等ですな」
コハクが俺の前に出た。耳が寝ている。
「ご主人様がやるなら、それは国宝です」
「お嬢さん、犬は主人を疑わないから可愛いのだよ」
コハクの尻尾が止まった。琥珀色の目が伏せられて、耳の白い先まで力が抜ける。
俺はコハクの頭に手を置いて、下がらせた。
「男爵。うちの子を犬と呼ぶ人には、ひとつ見せたいものがあります」
§ § §
袋から、割れた鏡を出した。
ゴミ山で杯と一緒に埋まっていた。手のひらほどの大きさで、面がまだらに曇っている。
[割れた手鏡]
価値 銅貨1枚
曇り・欠け多数
「じゃあ、書き換えるか」
名前には触れない。指でなぞるのは価値の数字だけだ。
[割れた手鏡]
価値 銅貨1枚
↓
価値 銅貨10000000枚
銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。数字が勝手に繰り上がっていく。
価値 金貨1000枚
枠が消えて、また浮かんだ。
[真実を映す鏡ヴェリタス]
価値 金貨1000枚
映した物の、本当の値をそのまま映す
「へえ。今日のは、いい仕事してくれそうだな」
ひびが消えて、面が水のように澄んだ。
俺はその鏡を、男爵の真珠の箱に向けた。
鏡の中に、真珠が映る。
映ったそれは、白く濁って、ひとつひとつが糸に結んだガラス玉になっていた。
「――なにを」
「男爵。この鏡は嘘をつきません」
男爵が箱を引ったくって、鏡を覗き込んだ。
覗いて、顔から色が引いた。
「ガラス、だと。船を二隻、沈めて」
「売った相手を思い出したほうがいいですよ。丸眼鏡の、痩せた男じゃなかったですか」
男爵の口が半分開いたまま止まった。
周りの貴族が、いっせいに自分の宝から半歩離れた。
金の彫像の持ち主が、額を拭きながら鏡のほうをちらちら見ている。宝石の盾を抱えた若い男は、赤くなった首筋ごと盾を背中に隠した。
誰かが小声で、自分のも見てもらえないか、と手を挙げた。
「銅貨一枚で見ますよ」
「安すぎませんかな」
「拾い賃です」
俺は鏡をセシリアに渡した。
「これ、あげます。城の鑑定官に持たせてください。贋作を掴まされる貴族が減る」
「これだけで金貨千枚よ。あなた、価値というものを」
「分かってますよ。分かってるから、拾ってきたんです」
セシリアが鏡を胸に抱えて、こほんと咳をした。頬が、鏡の縁より赤い。
「べ、別にあなたに感謝しているわけじゃないわ。国の損失の問題よ」
広間を出るとき、コハクの尻尾がまた振れていた。
「ご主人様、すごいです! ゴミが千枚になりました」
「ゴミも国宝も、書き換えれば同じだ」
欠けた杯を袖で拭いて、懐にしまう。
これはまだ、銅貨一枚のままでいい。当日のお楽しみってことで。
§ § §
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