表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【鑑定しか使えない】と追放された俺、鑑定結果を書き換えられるので拾ったボロ剣を伝説の聖剣にしました  作者: カクナノゾム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/57

第14話 街の井戸の書き換えに失敗したけど頑張ってみた

 昨日、俺は下町の枯れ井戸を書き換えた。


 出てきたのは、見た目だけ立派な、水の出ない井戸だった。


 一度触れた物は、もう二度と書き換えられない。それを、その場で初めて知った。


 俺のスキル『鑑定』は、ものの価値を書き換えられる。書き換えた通りに、現物が変わる。


 だが、今回はもう使えない。


「ご主人様」


 コハクが俺の裾を引いた。


「もう一回、書き換えないんですか」


「できないんだ。もう」


 水売りの男は、まだ樽の横で笑っていた。


 セシリアは、何も言わずに井戸の縁を見ていた。


「悪いが、少し時間をくれ」


 俺は井戸の縁にしゃがんで、地面に手をついた。


  § § §


 枠は、まだ浮かぶ。書き換えられないだけで、見ることはできる。


  [下町一帯の地脈]

  水量 枯渇

  断絶地点 井戸の真下


 水売りの男が鼻で笑った。


「今度は土を鑑定か。金にもならんことを」


「金にはなりませんね」


 俺は地面に沿って歩いた。


 枠を、少しずつ確かめる。三歩進むごとに、数字が変わる。


  [地脈・広場東側]

  水量 枯渇


  [地脈・路地の奥]

  水量 枯渇


  [地脈・裏の空き地]

  水量 わずかに残る


 空き地の前で足を止めた。


 崩れかけた壁と壁の間、誰も気に留めない場所だ。


「ここだ」


 セシリアが追いついてきた。


「本当なの」


「本当かどうかは、掘ってみないと分かりません」


「掘るって、あなたが?」


「俺が、みんなで」


  § § §


 スコップは市場で買った。三本しかなかった。


 一本を手に取って、枠を見た。


  [木製スコップ]

  価値 銅貨5枚


 少しだけ、頑丈にしてやろうか。そう思って、それからやめた。


 値を盛りすぎたら、また外れが来る。今度は美術品みたいなスコップが出て、土に刺さらないかもしれない。


「これくらいで、いいか」


 ほんの少しだけ、数字を上げた。刃こぼれしない程度。それだけだ。


  [木製スコップ]

  価値 銅貨5枚

     ↓

  価値 銅貨80枚


 枠が消えて、また浮かんだ。


  [頑丈な鋼のスコップ]

  価値 銅貨80枚

  刃こぼれしない


「……地味だな」


 柄はそのまま、刃先だけが鈍い銀色に変わっていた。見た目はほとんど木製のスコップと変わらない。

 だが、これなら途中で壊れることもないだろう。


 あとは手だった。


 俺とコハクと、水を並んでいた住人たちが、代わる代わる土を掘った。


 セシリアも外套の袖をまくって、スコップを握った。白い腕に、土が跳ねている。


「王女様、それ、危ないですよ」


「危なくないわよ! わたくしだって、掘れば掘れるの」


 外套から金髪の一房がこぼれて、汗で頬に貼りついていた。


 王女のスコップは、三回に一回、空振りしていた。


 半日、掘った。


 誰も文句を言わなかった。


 コハクが泥だらけの手で、額の汗を拭った。汗で貼りついた髪の間から、耳が半分だけ倒れて出ている。


「ご主人様。腕が、痛いです」


「俺もだ」


「でも、楽しいです」


「そうか」


 夕方近く、スコップの先が、湿った音を立てた。


  § § §


 穴の底が、じわりと黒く滲んだ。


 誰かが息を止めた。


 水が、下から染み出してくる。


 最初は一滴。次は糸のように。


 やがて、穴の底に小さな水たまりができた。


「……出た」


 水売りの男が、穴を覗き込んで固まっていた。


 コハクが両手で水をすくって、口に運んだ。


「わふっ、冷たいです! 出てます!」


 泥のついた頬の上で、琥珀色の目が濡れて光っていた。


「無限ってわけじゃない。細い水脈だ。井戸みたいに溢れはしない」


 それでも、澄んだ水は止まらずに湧き続けていた。


 列に並んでいた老人が、桶を持って走ってきた。手が震えて、桶の縁が水面を叩く。


「三年ぶりだ……三年ぶりに、自分の街の水を飲む」


 老人が桶に口をつけて、そのまま黙った。飲んだのか、飲めなかったのか、しばらく分からなかった。


 後ろに並んでいた子どもが、母親の袖を引いた。


「かれない井戸って、ほんとにあるの」


「あったみたいね、今日から」


  § § §


 夜、空き地に急ごしらえの木枠が組まれた。新しい井戸になる。


 セシリアが、泥だらけの手を見つめていた。


「あなた、鑑定は書き換えるだけの力だと思っていたわ」


「俺もそう思ってましたよ、少し前までは」


「今のは、書き換えてないのよね」


「見ただけです。あとは掘っただけで」


 セシリアがしゃがんだまま、俺を見上げた。


「スキルがなくても、あなたはこの街を助けられたということ?」


「時間はかかったでしょうけどね」


「……そう」


 セシリアが立ち上がって、外套の泥を払った。


「悔しいわ」


「また悔しいんですか」


「今度は、いい意味でよ」


 セシリアがそう言って、俺の泥だらけの手を見た。


「べ、別に見直したわけじゃないんだから」


「はい」


「本当よ」


「聞いてます」


 コハクが泥だらけのまま、俺とセシリアの間に割り込んできた。


「ご主人様。コハクも、今日は掘りました」


「頑張ったな」


「わふっ!」


 水売りの男は、いつの間にか姿を消していた。


 樽だけが、広場に置き去りになっていた。


 新しい井戸から、細い水の音が、夜通し聞こえていた。


 派手な書き換えは使わずに、人の手だけで水を出した。


 悪くないよね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ