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【鑑定しか使えない】と追放された俺、鑑定結果を書き換えられるので拾ったボロ剣を伝説の聖剣にしました  作者: カクナノゾム


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第13話 王都の枯れた井戸を、聖なる泉に書き換えた

 昨日、俺は騎士団長ラウルの前で、廃棄鎧を聖騎士の鎧に書き換えた。


 コハクはその鎧を着たまま寝て、朝も着ていた。


 俺のスキル『鑑定』は、ものの価値を書き換えられる。書き換えた通りに、現物が変わる。


「今日は下町へ行くわ」


 朝から、セシリアが馬車の前で腕を組んでいた。


 王女の格好ではない。灰色の外套を頭からかぶって、縦ロールを中に押し込んでいる。押し込みきれなかった一房が、頬に落ちていた。


「その格好、どうしたんですか」


「王女が来たと知れたら、みんな畏まってしまうもの。本当のことを言わなくなるわ」


「意外とちゃんとしてますね」


「意外とは何よ!」


 頬に落ちた一房ごと、耳まで赤くなっていた。


  § § §


 下町は、城下の坂を下りきったところにあった。


 路地が細い。洗濯物が頭の上を横切っている。


 その真ん中の広場に、石を積んだ井戸があった。


 人が二十人ばかり並んでいるが、桶を持っている者は一人もいない。


 列の先で、太った男が樽から水を汲んで売っていた。前歯が一本欠けていて、笑うたびにそこが見える。


「銅貨五枚だ、五枚。文句あるなら飲むな」


 並んでいた女が食い下がる。


「先月は二枚だったろう」


「先月は先月。井戸が枯れてんだから、俺の水しかねえんだよ」


 セシリアが外套の下で拳を握った。


「三年よ」


「三年?」


「あの井戸が枯れて三年。城から井戸掘りの職人を三度送ったわ。三度とも、水脈が死んでいると言って帰ってきた。魔法使いも呼んだ。無理だったわ」


「王女様が動いて、それでも駄目だったんですね」


「駄目だったのよ」


 セシリアの声が低くなった。


「わたくしがあなたをペテン師と決めつけたのは、こういうことが積み重なったからよ。できると言った人間が、みんなできなかったから」


「なるほど」


 俺は列を横切って、井戸の縁に手を置いた。


  § § §


 覗き込むと、底が見えた。


 湿った黒い土に、割れた桶が落ちているだけだ。


 枠が浮かんだ。


  [枯れ井戸]

  価値 銅貨0枚

  水脈 断絶・回復見込みなし


 水売りの男が、俺の肩を掴んだ。


「おい若造。何のつもりだ」


「水を出します」


「出るわけねえだろ。三年枯れてんだ」


「じゃあ、書き換えるか」


 男の手を外して、俺は価値の数字に指を伸ばした。名前のほうは、触っても光らない。


  [枯れ井戸]

  価値 銅貨0枚

     ↓

  価値 銅貨30000000枚


 銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。数字が勝手に繰り上がる。


  価値 金貨3000枚


 枠が消えて、また浮かんだ。


  [黄金の古井戸ミネルヴァ遺構]

  価値 金貨3000枚

  由緒 王家の始祖が掘ったと伝わる

  水脈 断絶・回復見込みなし


 誰も、動かなかった。


 井戸の縁が黄金色に変わっただけだった。底は相変わらず黒く乾いている。


「……水は」


 水売りの男が覗き込んで、鼻で笑った。


「見た目だけ立派になって、水は出ねえのか」


「いや、待ってください」


 俺はもう一度、枠の価値に指を伸ばした。


 光らない。


 何度触っても、井戸の枠はもう浮かんでこなかった。


「触れない……」


「どうしたの」


 セシリアが眉を寄せる。


「一度書き換えた物は、もう二度と書き換えられないみたいです」


 初めて知った。今まで、同じ物に二度触れる場面がなかっただけだな、多分。


「今、それが分かったの?」


「はい、今」


「呑気ね」


 水売りの男が、樽を叩いて笑い出した。


「ペテン師の化けの皮が剥がれたな!」


 コハクが俺の袖を握った。耳が、ぺたんと寝ている。琥珀色の目が、不安そうに揺れていた。


「ご主人様……」


「大丈夫だ。井戸が駄目でも、水を出す方法は他にもある」


 俺は井戸の底を覗き込んだ。


 湿った黒い土に、割れた桶が一つ、転がっている。


「あれだ」


 水売りの男が、まだ笑っていた。


 セシリアは何も言わず、俺の隣に立っていた。


 石畳は乾いたままだ。当たり前だけど、水は一滴も出ていない。


 三年、誰も直せなかった井戸を、黄金色にしただけで終わらせるのは、さすがに格好悪い。

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