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お嬢様は拳でドラゴンを倒したい  作者: 月城キナ


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009:初めての魔物との戦闘

 ティナは生活費を少しでも稼げるように冒険者として積極的に活動を始めた。昼間は冒険者見習いとして働いた。そんな生活が夏の間中続けられた。ちなみに冒険者見習いとして色々とやった。シエラも手伝えるような仕事をだ。


 シエラをただの5歳児だと思っていたティナだったが試しにトイレ掃除を手伝わせてみたところ、彼女は即座にケダマへお願いしたのだ。するとケダマは水の精霊に働きかけて小さな渦を作り出した。それはこびり付いた汚れを根こそぎ洗い落としていき、あっという間にピカピカにしてしまった。


 それを知った冒険者ギルドの職員がシエラも冒険者にならないかと誘ってきた。なんと特別に入会金を免除するという。デメリットを感じなかったティナはこれを了承。そしてトイレ掃除をして回った。報酬は二人分なので、かなり美味しい稼ぎになった。


 とはいえ、生活は最低限できる程度だ。それにティナとしてはドラゴンをぶっ飛ばしてみたいという夢がある。その第一歩として、街の外出るという決断をしなくてはいけない。


「平原に出ないといけない訳だが……」


 街の外は危険だ。でもシエラを置いてはいけない。というか彼女は置いて行かれるのを怖がる。ティナは頬をパチンパチンと叩いて気合いを入れ直す。


「守るって決めたじゃないか!」


 というわけだが、いちおう彼女の意思も確認する。


「シエラ。街の外に行くけど一緒に行く?」


 するとシエラはコクリと頷いた。


「魔物退治だから危険だけど、それでも行く?」


 すると、やはりコクリと頷いた。


 ティナは解体用ナイフや各種サバイバル用品を道具屋の店員に見繕ってもらって狩りへ出かけることにした。


 ちなみに平原に出るというツノウサギの大きさは中型犬ほどで、普段は地面に穴を掘って生活しており、人間の足音に気がつくと向こうから襲いかかってくるという危険な魔物だ。


 別名を初心者キラー。


 高速で移動して額に生えた一本のツノで人間の胴体を一突きにする。あたりどころによってはそれだけで死ぬというね。ちなみに夏のこの時期は単体で活動しているというようなことを聞いている。


 秋は、つがいでいる場合が多く冬は子供が居るので気が立っている場合がほとんど。という感じになっている。狩るならこの時期が良いだろう。


「よし。じゃあ行きますか!」


 ティナが気合を入れる為に頬をパチンと叩くと、彼女の後ろでもペチペチという音が聞こえた。振り返るとシエラも同じ仕草をしていた。真似っ子だ。


 シエラが将来、脳筋エルフになったらどうしようかと今から少々不安だ。


 街の外へ出てきた。空はまだ明けたばかりで白から青へと移り変わるグラデーションはティナをワクワクとさせてくれる。


「くぅう。気持ちのいい朝だね!」


 ティナがそう言って振り返ると、後ろではケダマとシエラが大きなあくび。つられてティナもあくび。それを見たシエラがケタケタと笑うので一緒になって笑っしまった。


「まったくもう! ここからは外で危険がいっぱいなんだから緊張感を持ってよね!」


 そうシエラに注意をしたら少しだけ真剣な表情で「うん!」と言って、今度はクスクスと笑った。その様子を彼女の足元にいるケダマが見上げている。


 その光景は平和そのもの。だがさっきも言ったがここは街の外なので危険なのだ。


「それじゃ気を引き締めて行っくぞぉ」


 言葉とは裏腹に何だか気の抜けた掛け声になってしまったが、そんな事はどうでもいいのだ。いいかげん出発しないと。


「ティナ姉たん。今日はどこに行くの?」


 シエラに尋ねられたが、正直ティナにもアテはない。


「街のお外を歩くだけだよ」


 正確には平原を、だ。魔物にエンカウントするまでブラブラと歩くだけ。まぁシエラの体力作りにはなるだろう。街の外には街道沿いに行商人や馬車がトコトコ、ガタゴトと歩いているのが見える。


 そんな街道を離れて道なき平原をただ歩く。遠くには森が見えたり大きな山脈があったり。そんな土地だ。シエラの足の速度に合わせて歩く。歩く。歩く。


「魔物さん出ないねぇ」


 普通は出ないほうがいいのだが、今日は別だ。できれば三匹ぐらいは狩りたい。ちなみに獲物の捌き方はすでに履修済み。酒場で調理の補助の際に習った。とは言ってもツノウサギではなく普通のウサギだ。でも酒場に来ていた冒険者から聞いた話では同じらしい。ただ魔物には胸の中央に魔石があるだけの違いだとか。


 空が白から水色へと変わり始めた。地球なら六時ぐらいの明るさだろう。そんな平原を歩いているとケダマが言った。


「目的の魔物だ」

「どこ?」

「そこの小さな茂みの中」


 そう言ってケダマの視線の先に目を向ければ、こっちをじぃっと見ているツノウサギが。ティナが拳を構えると同時に、噛みつきツノウサギが突進してきた。距離は15メートル強と言ったところ。十分な距離がある。


「ケダマ!」

「分かってる。シエラは守る」


 間合いが一気に縮まる。ティナはただただまっすぐ突進してくる魔物に向かって腰を落として拳を構える。そしてそれはティナのお腹に向かって飛び掛かってきた。やっぱりそう来たか。見え見えのコースだ。


「デッドボールってのはね、来ると分かってれば打ち返せるのよ!」


 身を半歩引いてからツノウサギの横っ腹を思いっきり殴った。すると魔物は飛んだ。ぴゅ~っと空を。シエラからは「おぉ~」と感嘆の声が。


 そして10メートルぐらい飛んでドサッと地面に落ちて転がった。


「ホームランには程遠いな。センター返しでツーべースヒットってところかな。足の早い人なら三塁まで行けたかも」


 こっちの世界の人と野球を知らない人にはナンノコッチャか分からないであろう感想。


 そしてティナもそんなに詳しくないので、そんなのがあるのかは知らない。だが、まぁいいさと開きなった。それぐらい強烈な当たりだったということだ。


 吹っ飛んだツノウサギがよろよろと起き上がった。


「やっぱり生きてたか」


 だが拳には骨の砕ける感触が確かにあった。


 実際にツノウサギは起き上がったまま震えているだけだ。可愛そうだが人間と魔物は分かり合えないと言われている。苦しませずに逝かせるのが優しさだろう。


「ごめんね」


 ティナはナイフを手にツノウサギへ近づき、そして止めを刺したのだった。

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