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お嬢様は拳でドラゴンを倒したい  作者: 月城キナ


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008:エルフの幼女

 しばらくシエラを胸に抱いていたが、さて。いつまでも悲しんでいられないのが現実というものだ。


「この子。どうしよう……」


 普通に考えれば孤児院だろう。でも……シエラはティナを掴んで放さない。放そうとしない。黒猫が言った。


「爺さんの遺産がある。それでシエラの面倒を頼めないか?」

「……」


 ティナは困ってしまった。自分は冒険者だ。その日暮らしで自分の面倒だけで精一杯なのだ。小さな子の面倒を見ながら生活なんて、もってのほかだ。でも、同時に自分を掴んで放そうとしない子の手を引き剥がす事ができないでいる。


「孤児院に預けたほうが良いと思うの」

「孤児院という場所はシエラにとって良い場所なのか?」

「わからない。けど他に行く所が……」

「お前じゃ駄目なのか?」

「私は冒険者なのよ。危険な場所にも行くし、そんな所に子供を連れては行けない」

「危険からは俺が守る。だから頼む」

「どうして私なの?」

「シエラがそれを望んでいるからだ」


 ティナはシエラの頭を撫でる。とても温かい。それに鼓動も聞こえる。どうすればいい。シエラにとって一番良い選択は何がある。ティナが答えられずに悩んでいるとシエラが言った。


「シエラね。お姉たんと一緒がいい」

「どうして私なの。今日たまたま知り合っただけの……」


 そこまで言いかけてシエラと目が合う。目に涙を溜めて「一緒がいいの」と言った。駄目だ。この手を振りほどけない。このお願いを断れない。同情とか愛おしいとか、そういう感情がぐちゃぐちゃで……どうしたら良いのか分からない。


 シエラに視線を向けると不安そうにしていた彼女と目が合う。


「確認だけど、私と来るってことは危険なこともあるかもしれない。もちろん全力で守るつもりだけど……それでも良い?」


 するとシエラが笑った。


「うん。一緒が良い!」


 ティナはぷにぷにのほっぺたを軽くつまむ。なんて愛らしい生き物だろう。この子の笑顔を守るのが私の最初の仕事でもあったのだ。乗り掛かった船だ。全力でやってやろうじゃない!


 そんな意気込みで挑むことにした。


「ティナよ。私の名前はティナ」

「ティナ姉たん」


 ティナは黒猫に視線を向ける。


「ケダマだ」

「はい?」

「ケダマ。それが俺の名前だ」

「毛玉?」

「ケダマ」


 私はシエラを見る。


「本当はね『冷え冷えの真っ黒クロスケ』って名前なんだぁ。でも長いからケダマって呼んでうの」


 するとケダマが焦ったように言った。


「おい! シエラ。真名は人に教えちゃだめだって言っただろう!」

「あぅ。ごめんたい」


 ティナは思わず苦笑い。いきなり秘密を打ち明けられてしまった。ケダマが言う。


「まったくよぉ。ティナと言ったか? 真名を口にしたら殺すからな!」

「……口にしない。約束する。シエラにも言い聞かせるわ」

「頼むぜ。まったく」


 こうしてティナはシエラとケダマの面倒を見ることになったのだった。


 次にティナは、お爺さんの遺産を漁らせてもらった。現在シエラはベッドの上でお昼寝タイムだ。なのでケダマが案内してくれている。


「爺さんな。シエラを養うために色んな物を売ったんだ」

「そう……」

「でも、魔法のカバンとか魔法のポシェットとかはあるはずだ。結構いい物だって言ってたぞ」


 魔法のカバンは有り難い。魔法のポシェットもだ。どちらも普通のカバンやポシェットより色々な物が大量に入れられる。


「本がいっぱいあるね」

「売るのか?」

「薬草図鑑や昆虫図鑑かぁ……魔導書がある! すっごーい!」


 この世界の魔法は一部の人間に秘匿されていて、魔導書はそのもの。魔法が使えるように導くための本でとても貴重な技術書だ。


「これって全部シエラの将来に必要かもだから取っておこう」

「そうか」


 他には小さなスティックがあるな。ローブもある。


「これは?」

「あぁ爺さんが最後まで手放さなかった品だ」

「遺品かぁ。このローブでシエラ用の装備を作れないかな?」

「それは……いいのか? お前の取り分が何も無いぞ?」

「私の取り分は、そこにあるよ」


 そう言ってベッドの上で眠っているシエラを指す。するとケダマが目を優しく細めて「そうか」と呟いた。


「さてと。明日から仕事、頑張んなきゃ」

「俺も手伝うよ」

「シエラの護衛をお願いね」

「あぁ。その点に関しては任せておけ」


 こうしてティナ達は家を出て、寝泊まりする宿へと帰ったのだった。


 夕飯を食べ終わったら二階へあがった。


 暇なのでティナは部屋で魔導書を開いてみる。魔力を知覚する訓練方法が書かれている。ちょっと興味があったのでやってみることにした。深呼吸して意識を内へ内へと向けていく。


 しかし何も感じられない。目を開けるとシエラがコクリコクリと船を漕いでいるのが目に入った。昼寝はしていたが何だかんだで疲れているのだろう。感情の振れ幅が大きかったからな。時刻は夕刻で日が沈み始めている。ロウソク代も勿体ないし、何だかんだでティナも疲れたので今日は寝ようと思った。


「シエラ」

「……」

「今日はもう寝よっか」

「ん」


 というわけで、シエラと一緒にベッドで寝ることに。幸いにと言うかここのベッドは少し大きめだ。シエラも体が小さいので結構広々と使える。


「おやすみ」

「おやしゅみなたい」


 こうして私達の今日は終わったのだった。

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