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お嬢様は拳でドラゴンを倒したい  作者: 月城キナ


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10/12

010:ジン

 ツノウサギの狩りは問題なく行われた。


 途中でシエラが狙われるなんて事態も一度だけあったが、そこはケダマが水の精霊を使役してツノウサギを水球の中に閉じ込めて事なきを得た。


 なるほど。シエラの安全は万全であると確信できた出来事だった。


 そして収穫として合計4匹を狩ることができた。大収穫だ。狩りそのものより解体のほうが、時間がかかったぐらいだ。


 ちなみに解体した後の要らない部位。肉や骨や内臓は穴を掘って埋めるのだが、そこでシエラの魔法が役に立った。シエラ自身が使う魔法は生活ぐらいにしか使えないが、それでも便利だ。本人も役に立てたことが嬉しいようで積極的に関わってくれる。


 ちなみに精霊魔法と魔法は似ているようで違う。精霊魔法はシエラがケダマにお願いしてケダマが使う。魔法はシエラ自身が使っている。精霊魔法の方は威力がデカい分、魔力の燃費が悪いのだそうだ。なので普段の生活に寄り添った単純な事には魔法を使わせているだとケダマが言った。


 狩りが終わり、野営の準備をする。今日は狩りもそうだが、野営の訓練も兼ねているのだ。そこでもシエラの魔法が役に立った。


 ティナが火起こしに苦労していたら「火よ。灯火よ。我に温もりを与えたまえ」と呪文を唱えのだ。普段は若干舌っ足らずで喋るのに、こういう時は正確に喋る。きっと彼女の祖父の指導のたまものだろう。


 その後。お湯のための水もシエラが出した。もう彼女なしでは野営が出来ないまである。


 夕飯は携帯食だ。お湯に入れてふやかして食べるのだが美味しくない。ティナが微妙な顔をしているとシエラも眉間にシワを寄せて涙目だ。


「美味しくないね」


 そう話しかけるとシエラが「うえぇ~」という顔をして頷いた。


 とりあえず栄養とお腹が満たされるだけの食事をして寝ることに。ここは平原の中にわずかに生えている林と茂みがある場所だ。近くに森もある。


 夜の見張り番はティナが一人でやることになるだろう。一日ぐらい寝なくても大丈夫だろう。そう思っていた。


 深夜。薪がパチパチと燃え、時折り風が吹き抜けて、葉がサラサラと鳴る音を聞いていると……眠く、なって……。


「敵だ!」


 ビクッと目が覚める。


「やべ。寝てた!」


 ケダマの声にティナは立ち上がって、周囲を見回すと背後に居る魔物と目があった。


「……オーク」


 イノシシ頭で体には筋肉と脂肪がどっしりとのった二足歩行の魔物だ。身長はティナと同じぐらいの1メートルと60センチといったところか。魔物図鑑に載っていたオークの平均身長よりは小さな個体。それでも肉厚な分。圧力がある。


 拳を構えて戦闘準備は完了。でも……勝てるだろうか?


 オークは武器を持っていないが、掴まれたら押し倒されて凌辱の限りを尽くされるだろう。それは凄く嫌だ。


 ティナは拳を握って突貫!


 右の拳をフック気味に出っ張った腹へ「ずどん」とクリーンヒット。オークが「ぶも!」と後退り、しかしたいしてダメージを負っていないようにみえる。分厚い肉の壁にダメージが吸収されてしまったようだ。


 こうなると少々まずい。ティナの最大威力の攻撃は効かないらしい。


「ならば!」


 オークがノシノシと迫ってきた。ティナはそれを余裕を持って避けてから、オークの体重の乗った左の膝を横からローキックで打ち抜いた。するとミシミシと膝が鳴った。キックの衝撃を逃がす技術なんて魔物にあるはずないからクリーンヒットだ。


 オークが悲鳴を上げてうずくまる。が、ティナにはこれ以上の攻撃手段がない。


「オークが倒せないんだけど?」


 ちょっとこれは困った。いちおう拳をオークの体に叩き込みまくるが、何だか折檻している気分になってくる。そして倒せる気がしない。


 そこに男性の声で「あのぉ……手を貸そうか?」と聞かれた。


 顔を上げると、すぐそこにティナより少し背の高い男性がいた。


 いや青年というべきか? 年齢を言えば15、6歳ぐらいだろう。


 肌がこの辺の人には珍しい黄色味を帯びている。黒髪で黒の瞳。その懐かしさにちょっと見惚れてしまった。


 するとオークがこれ幸いにと飛び起きて逃げ出そうとした。ただ逃げ出した先が青年の居る方向だ。ティナが「危ない!」と、警告するのとほぼ同時。青年が剣を横に滑らせて薙ぐのがほぼ同時だった。


 オークがドサリと倒れ、首からは大量の血が流れ出ている。これは即死だろう。


「あぁ、すまない。つい……」


 獲物を横取りした形になったのを詫びているのだろう。


「いえ。正直、助かりました。攻撃力が不足していてトドメがさせなかったから……」


 すると青年は「そう? なら良かった」と言って視線をシエラへと向けた。そのシエラはティナの足元に来て服の裾を掴んで「大丈夫?」と聞いてきたので「大丈夫だよ」と答えたところだ。青年の視線がティナとシエラを交互に見ている。


「旅にしては街道から外れてるし、ここはキャンプ地でもないし……こんな人気のない場所に子供を連れて何を?」


 ティナは正直に答えた。


「野営ですけど?」

「もしかして冒険者?」

「はい。駆け出しですけどね」

「子供連れで冒険の旅は、ちょっと危なくないかな?」

「そうなんですけどね。でも街の宿に置いていくことも出来なくて……」

「なるほど」

「いちおう精霊の護衛も居るんですよ?」

「精霊って、そこの猫?」

「はい」


 青年が「へぇ、ならいいのかな?」と言って今度は視線をティナに向けた。


「まぁいっか。俺はジン。ジン・タチバナ。よろしく」

「タチバナ・ジン? って、え? 日本の人?」

「ニホン?」

「あれ? 違う?」

「ニホンは知らないけど、俺の両親というかルーツならシャポネっていう島国だよ。ここからずぅっと東に行った先の先だそうだ。俺自身はこの国で生まれ育った。この街から少し北に行った所の小さな村」


 なんか訳アリっぽい?


「へぇ、そうなんだ。あっ、私はティナ。冒険者になったばかりの新人です」

「おぉ。俺もだ。よろしく」

「えっと、お礼がしたいけど何にもなくて……」

「あはは。いいよ。いらない。それよりオークから魔石を取らなくていいの?」

「あっ、そっか忘れてた。えっと、いいのかな。私が貰っても?」

「あぁ。元々ボコボコに殴っていたのはティナさんの方だからね」

「そう。じゃあ遠慮なく」


 ティナはうつ伏せのオークをひっくり返そうとした。しかし重くて動かすことすら出来ない。するとその様子を見ていたジンが「手伝おうか?」と言ってくれた。ティナはオークをひっくり返してジンにお礼を言った。


 オークの胸にナイフを突きたてて切り開いていく。グロテスクな光景だが、やらないと魔石が取りだせないのだ。


 その様子を見ながらジンが「幼い子供を連れての冒険は大変だろう?」と聞いてきた。ちなみに話の対象になっているシエラはケダマへ、もたれ掛かるようにしてコクリコクリと船を漕ぎ始めている。


「どうだろう? まぁ死ねないって緊張感があるのは確かね」

「ふぅん。良かったらだけど手伝おうか?」

「何を?」

「野営での見張りとか、そっちの子の護衛とか」

「……」


 ティナは青年を見定めようとじぃっと観察する。悪い人間には見えないが、でも今すぐ信用もできない。だから率直に聞いてみた。


「そういえば、この場にはどうして現れたの?」

「うん?」

「魔物に襲われている現場に都合よく現れた理由を聞いてるの」

「あぁ。それは……その……」

「言えない理由でもあるの?」


 ティナが詰問すると、観念したように言った。


「実は森で迷ってたんだ。火の明かりが見えたから来てみたら、女の子がオークをボコってたというね」


 オークをボコってたという部分は無視をして更に質問だ。


「迷ったって……この程度の森で?」

「この程度でも森は森だよ」


 それはそうだけど……一日を休まず歩けば、たぶんどこかしらの外縁部に到達できる程度の広さしかない森だ。もしかしてと思ったので聞いてみた。


「方向音痴だったりする?」


 するとジンは恥ずかしそうに「うん」と頷いた。その様子は悪人には見えない。


 仲間が居た方が良いというのは事実なので、とりあえずパーティを組んでみて人となりを知ってから改めて考えれば良いと判断した。


「おかしな真似をしたらオークみたいにボコるからね?」


 ティナの言葉にジンは苦笑いを浮かべながら「わかった」と頷いたのだった。

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