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お嬢様は拳でドラゴンを倒したい  作者: 月城キナ


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006:登録

 酔っぱらったおっさんの客がティナの腰に手を回す。


「よぉよぉ。リサちゃん。お前さん、まだ処女か?」

「そうよ。だから何?」

「俺が大銅貨3枚で買い取ってやろうか?」

「断る! ほか行けや!」


 そう言って酔っ払いを平手でぶん殴るティナ。するとぶべらとか言って客が吹っ飛んだ。それを見ていた他のおっさん客たちが大笑い。


「だっはっは。ダッセー!」


 そう言って、今度は大笑いした客がティナのお尻を撫でた上で交渉を始めた。


「よぉ。なら俺が、このお尻に大銅貨5枚だ。どうよ!」

「うっさい! 死ね!」


 やはりティナが平手で男を引っ叩く。すると、やはり皆が大声で笑う。


「お前ら、もう帰れ!」


 ティナが大声で怒鳴ると、やはり皆がケタケタと笑う。


 もう、そういう光景が日常茶飯事になっている。


 この品のない酒場兼宿屋で働くことおよそ一ヶ月。誰の誘いも受けないティナの処女は、どうやら価値があるようで、いつしか競売に掛けられていた。


「売りはしないっていってんだろ! 酔っ払い共!」


 何度となく、そう叫んでもいっかな誘いが無くなることはない。というかもう、そういうノリが楽しいみたいにまでなっている。


「くっそぉ。セクハラで訴えられたらどれほど楽か!」


 そんなティナに女将が呆れた様子を見せる。


「処女なんて、さっさと捨てて売りをやってくれたら私らの収入にもなるんだけどねぇ」


 ティナの顔と体は男どもにとっては相当に魅力的らしいと女将が言う。


「アンタの引き締まったメリハリのある体と、銀の髪と空色の瞳にどれだけの男が虜になっていることか……」


 女将がしみじみと口にするティナの長所だが、彼女にとっては何ら価値のないものばかりだ。


「やかましいわ! 売りはしないって言ってんでしょ! 誰がこんな汚らしいオッサン共に体を売るかってんだ!」


 まったくもう!


 そうプンスカ怒るティナの様子を見て女将が苦笑い。


 そこに救いの手がやってきた。


「ティナ。奥で野菜を切るのを手伝ってくれ」


 店のオーナーであり女将の旦那が、そう言って奥での仕事を振ってくれた。ティナは「喜んで!」と叫んで奥へと入り、そこで野菜の皮むきをするのだった。


 酒場を兼任する宿屋で客のセクハラに耐えつつ働くこと更に10日が経過した。ティナはこの品のない酒場で庶民として生きるための様々な知恵を手に入れていった。貴族生活では手に入らなかった知識だ。


「それにしても、さすが酒場。働いているだけで色んな情報が入ってくる……」


 ちなみに鍛錬は毎日続けている。型の練習ばかりだけど。地道な訓練がきっとこの先へと繋がると信じて。


 押忍!


 こうしてティナは冒険者ギルドの登録料を稼いでいったのだった。


 それからさらに20日。春がもうすぐ終わろうかという季節。


「さってと。今日で酒場の仕事は終わりだな」


 時刻は夜明け前。酒場がいちおう閉まる時間帯。


 事前に今日が最後のお仕事だと女将には伝えてあるが、それでも一応ケジメは付けなきゃいけない。なんとなく建物を見上げる。三階建ての古い木造とレンガ建築だ。この辺では珍しくもない建物だ。


 改めて中へと入って女将にお礼を言った。


「今日までありがとうございました」

「律儀だねぇ」


 店の奥から旦那さんも出てきた。


「旦那様も。ありがとうございました」

「おう」


 短い間だったけど、本当にお世話になった。世間を知らないティナを食い物にすること無く、本当に色々と教えてくれた。自然と頭が下がる思いだ。


「じゃあ、私。行きますね」

「あぁ。行っといで。がんばんなね」

「はい!」

「もし売りがしたくなったら何時でもおいで」


 ティナは苦笑い。最後までそれか、と。


「はは。売りはしません。でも、うん。ありがとうございました!」


 押忍!


 そう言ってティナは帯を締めて頭を下げる。


「何だいそれは?」


 女将が不思議そうだ。


「うん。私なりの感謝を表現してみました!」

「あっはっは。可笑しな子だよ。まったく……」


 そう言って笑い合う。何だかんだで楽しかった職場だ。名残惜しいけど……。


「じゃ!」


 ティナは新たな、ねぐらである宿屋に移動する。向かった先は冒険者ギルドの隣だ。そこで一人部屋を借りて、今度は冒険者ギルドへ向かった。手には大銅貨3枚が握られている。時刻は早朝を少し過ぎて忙しくない時間帯。


「たのもぉ」


 扉を勢いよく開けて中へと入って、そのまま受付カウンターへ。受付に座っているのは以前、お世話になった受付嬢だ。


「あら。前に登録へ来た?」

「こんにちは」

「もしかして?」

「そう。そのもしかしてよ!」


 ドンッと大銅貨3枚をカウンターの上へ置く。


「さぁこれで私もギルド会員よ! 登録して!」


 すると受付嬢もノリノリで対応。


「おぉ! これで貴女もギルドの一員! 見習いだけどね。でも、おめでとー!」


 そう言って手をパチパチと拍手をしてくれる。ティナも「ありがとぅ」と言って応える。


「長かったねー。ここに始めて来たのが2ヶ月前だっけ?」

「そうなのよぉ。お金を貯めるのが、こんなに大変だとは思わなかったよぉ」

「ふふ。いい勉強になったでしょ?」


 受付嬢の言葉にティナは力強く頷く。


「うん!」

「ふふ。さて、それじゃあ冒険者ギルドの規定の話からしようかな」


 そう言ってメリッサは真面目に通常の業務を始めた。


「冒険者ギルドには最低ランクのGから順に七段階あって最高ランクがAまであるの」


 その辺は酒場でも聞いたので素直に頷く。


「依頼の失敗は規約違反ではないけど罰則があるから気をつけてね」

「罰則には何があるの?」

「そうねぇ。失敗の内容によるわね。例えば紛失や損壊の場合は弁償とかね。払えなきゃ奴隷落ち。支払い終えるまで奴隷のままよ。通常の魔物討伐や素材採取の場合は……まぁ生きて帰ってこれていれば任務期間中なら何度でも挑戦できるわ。その場合は仲間を募って再挑戦とかする人がいるわね。護衛の場合の失敗には、かなり厳しい罰則があって依頼人死亡で護衛者が生きて帰った場合は、取り調べがあるわ。その後は犯罪性が確認できなくても一発でギルド追放の上に奴隷落ちね。だから護衛の仕事を受ける場合は命懸けだから慎重にね」


 護衛の仕事は重いなぁってティナは思ったが、考えてみれば当然か。依頼人の命が掛かってるからな。途中で任務放棄とかありえないわな。


「規約違反だけど、そうね。虚偽の申告とかがそれに該当するわね」

「虚偽の申告?」

「そう。さっき言った護衛の仕事で過去にね、依頼人を殺して、その上で完了印の偽造書を作って依頼を達成したと報告していた人がいたの」

「うわぁ……それって、どうやって発覚したの?」

「1度目で味をしめて3回を同じ手口でやったらしいんだけど、3度目に依頼人の家族が、息子が帰ってないとして調査してみたら発覚したの。当時は大変な大騒ぎになったらしいわよ。ギルドの信用を失墜させたとして最終的には鉱山奴隷として死ぬまで働いたそうよ」


 うへぇ。怖いな。


「冒険者ギルドは税金の支払いとかを肩代わりしたりと色々と優遇してくれるけど、それに見合った代価はきっちり取り立てるわ。成功には報酬と報奨を。失敗には罰則や命をって具合にね。慈善事業じゃないからね」


 そりゃそうだ。生温い対応なんてしてたら組織として舐められる。受付嬢が真剣な表情でティナに言った。


「それでも加入しますか?」


 ティナはしっかりと受付嬢の目を見て頷いた。


「はい。加入します。見ていて。成功者になってみせるから!」


 こうしてティナは晴れて冒険者見習いになったのだった。

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