劇場内殺人事件後編
ああ、言い放ったのは良いのですが、肝心の裏付けが出来ておりませんので、私は必死に集められていた方々の手へと目をやります。
新藤 圭一様、右。工藤 雄二様、左。新田 富恵様、左。つまり、水商売様を殺害されたのは、工藤 雄二様、新田 富恵様のどちらか。
こういった時は考えを巡らせるよりもまず行動です。まずは工藤様から。
「少し宜しいでしょうか」
工藤様の形といたしましては、やや身よりも大きな黒色のコートに黒のスラックス、眉にかかる程の長さの髪といったところです。
「何でしょう」
声色はいたって冷静でありました。
「殺害された女性についてお伺いしたいのです」
「巴ちゃんについて? 何でまた」
やはり米沢様が落とされた名刺は、殺害された水商売様の物。
「特に深い意味はございません。ただ、仏様を見てしまいましたので」
工藤様は申し訳なさそうな顔をされてから、話してくださいました。
「巴 エナさん。それがあの人の名前だ。歳は40半ばで、キャバ嬢だった。凄くいい人でね、人気No.1だったんだ。俺もしょっちゅう指名してた」
巴様を語る工藤様は、息子の顔をされておりました。
「良い方とは、具体的にどうのような方だったのでしょか」
「巴ちゃんは、前の夫を事故で亡くしててね、今まだ中学生の娘さんを食べさせるために働いてたんだ。よく娘さんの話もしてくれたよ。最近できたファストフード店のハンバーガーを気に入ってたとかね。まぁ詰まり、娘さん思いの良い母親だったのさ。俺はそういう所を気に入ってたんだ」
「そうでしたか。それは、誠に残念です。子供の為にそこまでできる方が亡くなるのは、誠に心苦しいです」
「ありがとう。巴ちゃんも、そう言ってもらえて、報われたと思うよ」
「もう一つ、宜しいでしょうか。殺害されていた男性の事についてなのですが」
「あぁ田尻さんね。店に行くと毎回巴ちゃんにダル絡みしてたんだよね。お酒入っちゃうともう巴ちゃんの身体をペタペタと触ってね、正直、死んで良かったと思ってるよ」
「そう言った事は冗談でも言ってはなりませんよ。どんな方であろうとも」
「あ、ああそうだね。すまない」
工藤様から離れまして、新田様にお声掛けをします。新田様の形といたしましては、赤色のドレスに金色のスパンコールを散りばめている、綺麗なドレスに身を包まれた細身に、松田聖子様のような髪型をした女性です。
「少々宜しいでしょうか。巴 エナ様につきまして、お聞きしたいのですが」
新田様は私を一睨みされ、ぶっきら棒に『話したくないわ』と答えられました。
「そこを何とか。巴様の娘様の無念にもかかわるのです」
「あんたに何がわかるっていうの」
非常に大きな声でした。
「分からないからこそ、お教え願いたいのです。知りたいのです」
新田様は俯きながら、話してくださいました。
「あの人は、私の恩人よ。私が路頭に迷っていたところを拾ってくれたの」
「新田様も百合の園で働いているのですね」
「ええ。雨の日、園の辺りを傘もささずに歩いてたらね、あの人が『そんな格好では風邪を引いてしまいますよ』って言って店に入れてくれたの。そして温かい卵酒を出してくれたわ。身体が温まるからって」
やはりとても優しいお方のようでした。お二方共、巴様の話をなさっている時は、まるで故郷を思い出しているかのような顔をしておられますもの。
「素敵な人ですね」
「そうよ。素敵な大恩人。それなのに。それなのに」
新田様はそう言いますと、泣き崩れてしまわれました。背中をさすると、彼女の涙の嵩は増しました。
「新田様...」
ふと、新田様の指先をみますと、気になるものがありました。
それを確かめようとしますと、翔子と共に刑事様が入って参られました。
「皆様お疲れ様でした。本日はこれにて解散っとしたかったのですが、どうやらそこの守島 杏子さんからお話があるそうなので、まぁ、もう少々お待ちください」
そう言い終えますと、刑事様は『どうぞ』と顎で指示なされました。
「は、はい。巴様と田尻様を殺害した犯人が分りましたので、その共有を」
場は一気に冷たい空気へと変貌します。
「まず、私が言いたいことは、犯人は殺害をしていない、ということです」
刑事様が大胆に笑いになりました。
「何を言ってるんですか守島さん。貴女は仏さんを見たんでしょ? あれは他殺ですよ、どう見てもね」
「ええ、ご遺体を傷つけたのは間違いありません。ですが、私はこう考えます。お二方は自殺だと」
「どっどういうことよ。自殺って」
新田様が喚きます。
「その証拠はもう少々しましたら到着いたしますので、お待ちください。ですので、その前に。遺体を傷つけた方を共有いたします。それは」
辺りを見回しますと、新田様は怯え、工藤様は殺気立っており、刑事様は睨見つけておりました。
「新田様、貴女です」
場から更に熱が奪われていく感覚が強まりました。
「ちょっと待ってくださいよ守島さん。貴女、私達に犯人は二人だって言ったじゃないですか」
刑事様が宣います。
「ええ。ですから言ったじゃないですか。お二方共自殺だったって」
「はあ?」
翔子が口を挟みます。
「だから、殺した犯人は二人。詰まり、巴さんと田尻さんの二人ってことよ」
「そして、死体損壊を起こしたのは新田様お一人です」
しますと、新田様が喚きます。
「冗談じゃないわよ。私が何であの人を殺さなきゃいけないのよ。ふざけないでよ」
「貴女は、田尻様の事が憎かった。違いますか」
新田様はたじろぎます。
「貴女は巴様にベタベタと触れる田尻様が憎かった。それを巴様に訴えかけた。あんな奴は出禁にしてもらおう、っと。ですが巴様は田尻様を庇った。貴女を助けた時のように」
新田様は喚きました。
「な、何言ってんのよあんた。そんな妄想で人の事を。あんたに何が分かるっていうのよ。何を知ってるっていうのよ」
「分かりません。貴女のことは貴女にしか。ですがこれだけは言えます。貴女は殺していない」
「そ、そんな」
携帯の着信が鳴り響きました。そのれは穹ちゃんからでした。私は手で新田様を制止しました。
「失礼、証拠が届きました」
携帯を開き、決定ボタンを押し込みますと、可愛らしい声が聞こえてまいりました。
「もしもし杏子ちゃん。お酒あったよ。それと、昨日の店の様子を、防犯カメラで見せてもらったから、それも送るね」
そう言い終わりますと、一つのデータが送られてまいりました。
「届いたかな?」
「届いたよ。ありがとう、穹ちゃん」
私は穹ちゃんに告げ、電話を切りました。そして、データを確認しますと、期待通りのものでした。
「こちらをご覧ください」
私はスマホを新田様へ突き出し、画面を見せました。
「この茶色の瓶日本は、昨夜、巴様と田尻様がお飲みになった物です。このお酒はラベルが元よりない、粗悪な酒でございます。そしてこの瓶の形からしまして、メチル酒だと思われます」
「メチル酒? そんな物どこで」
刑事様は片眉をつり上げ、とても怪訝そうでした。
「メチル酒は、あの近辺の露地で売っているそうです。友人が調べてくださいました。店は高いが飲みたい。そんなニーズに売れるのだとか。話を戻します。友人が百合の園で聞いた所、百合の園では一定の料金を支払いますと、酒の持ち込みが可能なのだとか。昨夜、田尻様がどうしても巴様と飲みたいからと、料金3000円を支払い、この酒を開けていたそうです。こちらがその映像データの一部です」
穹ちゃんの防犯カメラ映像直撮り映像を流します。そこには巴様と田尻様が一本ずつ、メチル酒を飲んでおられる様子が映し出されておりました。
「メタノールを摂取しますと、体内で分解される過程で有毒なギ酸が生成され、重篤な代謝性アシドーシスを引き起こします。百合の園店長曰く、メチル酒を飲んだ後、巴様は体調不良を訴えて早退されたそうです。そして、今日のお二人は完全プライベートだそうです」
一息置き、私は続けます。
「メチル酒を飲むと、最終的に昏睡となり死亡するそうです。つまり、貴女はお二方をただ眠っておられると思い、首を剃刀で切ったのでしょう。どうでしょうか。違いますかね。お二方を検査すれば、体内から大量のメタノールが検出されますし、剃刀の指紋もあります。逃げるだなんて考えは、お捨てになったほうがよろしいかと」
一礼し、新田様を見ますと顔面蒼白でした。
「私がやりました」
新田様は続けます。
「だって。あの人があんな奴に惚れるから」
新田様は泣きました。泣き崩れました。それほど、巴様を大切におもっていたのだと思われます。




