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劇場内殺人事件中編【急】

 米沢様は私の声に気付く事なく、刑事様の許へと行ってしまわれました。それを眺めておりますと、翔子が近寄って参りました。

「杏子、今のうちに情報共有したいんだけどいいかな」

「えぇお願い」

 翔子は一息吐き出してから語り始めました。

「まず、出された人達の中に犯人らしき人はいない。根拠は此処にいる人達には共通点があるから」

「共通点?」

「此処に残っている人達はね、殺されたキャバ嬢の働いているキャバクラの常連なんだよね」

「成る程。四人共常連ってのは偶然じゃ無さそうね。勿論、その裏付けもあるのでしょう?」

「勿論。全員ね、ある一人を目当てで尾けてたらここにたどり着いたんだってさ」

「その一人って、殺された方?」

「yes.勿論録音もバッチリだよ」

 すると彼女は手に持った録音機を再生しました。すると新藤 圭一さん、工藤 雄二さん、新田 富恵さんの順番で声が流れ始めました。すると確かに、皆『嬢を追って来た』と宣っておられました。

「さすがだわ翔子。良くやった」

 翔子は頬を照れくさそうに掻き、続けました。

「聞いたと思うけど、皆なんで尾けてたのかは言わないんだよね。杏子どう思う」

「そうね、皆さん入場が遅かったわよね。殺害された方達は、私達より早くに入場されてたのに」

「皆嘘ってこと?」

「いや、違うわ。何か、準備をしていたのかも」

「殺害の準備」

「もしくは、守るための準備」

「守る? 誰から」

「殺害された男性から」

 翔子は目を顰めさせました。恐らく勘付いたのでしょう。

「考えられる可能性は三つ。一つは、女性の方が男性を殺害し、自殺した。でもこれは切傷の向きからして違うと思う。二つ目は、翔子が聴取した方々が劇場の入り口辺りでバッタリと出会し、打ち合わせ、男性を殺した。でもこれは女性まで殺害しているから違うと思う。三つ目は、米沢様が何かしらの怨みで両名を殺害した。これが一番妥当だと思うのよね」

「それまた何故」

「米沢様は矢澤出版に勤めているの」

「矢澤出版って今ごたついてる」

「そう。神経質になっている時期だからね、そんな中担当している先生の批判でも聞いたら。それがまた、酷いものだとしたら、あり得ると思うの」

「憶測が過ぎない?」

「ええそうね。でも、ちゃんとキャバクラの名刺を持っていたわ。先生との大事な打ち合わせも、この後あるのだとか」

「それ程の怨みだと? 大事な先生との打ち合わせをパーにしてもおかしくないけど、それよりも優先してしまうほどの酷評だったと。もしくは、先生に負担をかけないように自分が冷静でいるために殺したと」

「私はそう思っているわ。だから、これからは裏付けよ。今から穹(そら)ちゃんに電話して、調べてもらおうと思うの。キャバクラのゴミ置き場を」

「なんでゴミ置き場なんて調べさせるの」

「死因の確証を得るためよ」

「死因は失血死ではないってこと?」

「男性ね、お酒の臭いがしたの。それも酷く粗悪なお酒の臭いが」

「お酒が死因の可能性があるのね」

「そう。でも首を切られていたのも事実。その凶器も見つけないとね。でもそれは放映室の座席の中だと思うのよね」

「探してくるよ。現場検証の人達にならコネが通じるでしょ」

 そう言いますと、翔子は放映室へと駆けていきました。そして私は穹ちゃんへと電話を掛けました。

「もしもし穹ちゃん。お願いがあるのだけど」

「な〜に〜杏子ちゃん。また事件の雑用?」

 穹ちゃんの眠たそうな声は、いつだって私に日常を感じさせてくださいます。

「雑用じゃないよ、重要な事よ。百合の園っていうキャバクラのゴミ置き場を調べて欲しいのよ。恐らくそこに粗悪な酒の瓶があると思うの」

「粗悪な酒、か。分かるかな」

「きっと、ラベルが元から貼られていないと思うから分かり易いと思うわ」

「は~い。見つけたら連絡するね」

 そう言いますと穹ちゃんは電話をお切りになりました。

 それから私は考えを纏めておりますと、翔子が戻って参りました。

「杏子、あったよ。剃刀だった」

 翔子が手に持っております袋の中身を見てみますと、髪結床などで使われます、長い剃刀でした。

「何処に有った」

「殺害された女性と男性の席の背もたれのすき間に一本ずつ入れ込まれてた」

「やっぱりね」

 話しておりますと、刑事様が参られまして、私を呼びました。

「杏子さん。貴女の番です。此方へ」

「承知いたしました」

 私は思考を巡らせながら向かっておりますと、一つのことに気が付きました。剃刀の向きのことを。

「杏子さん。貴女のお友達、警視総監殿のお孫さんでしたね〜。驚きましたよ、調書を見せてくれだなんて言ってこられましたからね」

 刑事様は蛇のような鋭い眼つきで私を凝視しておられます。

「何をおっしゃいたいのでしょうか」

「これはね、いけない。警視総監殿の顔に泥を塗りたくっているのと同義ですよ。職権濫用とも言えない、実に悪質な行為です」

「それは失礼いたしました。何分学生の身ですので、まだ事の良し悪しには疎いのです。どうかお許しを」

 私が深々と頭を下げますと、刑事様呆れたように続けられました。

「学生といいましても、分からない年でもありませんでしょ。まぁ、貴女方の実績に免じて、今回は目を瞑りますが、今後このような事がありましたら、公務執行妨害でしょっ引きますからね」

 そう言いますと刑事様はお決まりに、顎で出口を指しました。

「それでは失礼いたします。あぁ、それと、犯人はお二人ですね」

 私はそう言い残し、放映室へと戻りました。


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