劇場内殺人事件中編【序】
その悲鳴は先程揉めていました、水商売様らの席の方からでした。
「どうしたんだろう」
「私、行ってくる」
「ちょっと杏子!」
階段を5つ降り、水商売様らの席へ向かいますと、水商売様の左側の席に座っておられる方が血塗れで唖然としており、浮かれポンチ様の右側の席に座っておられるカップルの方達もまた、血塗れで、彼女様の方は身震いを起こしておられました。
「翔子! 警察へ連絡を」
「アイアイサー」
「どなたか、何が起こったのか、お話願えますか」
どの方々も、この状況に魂を抜かれておりまして、言葉を発せられぬようでした。警察が到着なさる前に、事を聞きたかったのですが、それは叶わなそうですので、少しでも死体の状態をこの目に焼き付けようとじっくり舐め回すように見ていきます。
まず水商売様の仏様を見ていきますと、目をお閉じになっておられますので、恐らく睡眠薬の類を投与されたのでしょう。そして、首の頸動脈部分を深く切り裂かれております。ぱっと見、それ以外の外傷は見当たりませんでした。
続きまして、浮かれポンチ様の仏様を見ていきますと、水商売様と殆ど同様でございました。違いいたしましては、水商売様は左側からの切り口。浮かれポンチ様は右側からの切り口だという事です。
十分とは言えませんが、まあそれ程に仏様を見ていますと、警察の方がご到着になりました。
「警察です。皆さん被害者の方からお離れください」
警察の方々が一分ほど仏様の状態を確認すると、一人が外へと駆けていきました。恐らく応援を読んだのでしょう。それから十分程してから、刑事を名乗る方々が続々と入ってこられました。
「こりゃ酷いな。首元がパックリいかれてやがる」
刑事様方が話しておられるのを聞いておりますと、事情聴取をするとのことで、隣のバックルームへと案内されました。バックルームの入り口前には刑事様が二人立っており、劇場入り口付近にも刑事様が五人が立っておりますので、仮に犯人が逃走を図ろうとも、取り逃がすことはないのでしょう。
「こちらへ」
「どうも」
一礼をし、バックルームへと踏み入れますと、そこは薄暗く、埃っぽいお世辞にも清潔とは言い難い場所でした。
「こちらへお座りください」
目元に刃物で切りつけられたであろう傷のある刑事様が、腕を組み、顎で目の前の椅子を指します。
「失礼いたします」
何とも機嫌の悪そうに刑事様は聴取を開始されました。
「ええ、まずお名前と住所諸々をそこにお書きください」
言われた通りに名前と住所を書きます。この間の空気というものは何ともねちっこいものでありまして、息が詰まりそうになります。
書き終え、ペンを置きますと刑事様が瞬時に用紙を回収し読み上げていきます。
「ええ、守島 杏子さん、ですね。今日はお一人で?」
「いえ、友人と二人です」
「そうですか。えぇ学生さんですか。どちらの大学で?」
「西城大学です」
「ほぅ、優秀ですね〜。そうですね。そんな優秀な貴女から見て、怪しい人物はおりましたか」
「怪しい方ですか。特にはおりませんでしたね。強いて言えば私ですかね。私は上映開始前にあのアロハ服の方と言い合いをしましたし、死体の状態をながめておりましたので」
「ほう?それまた何故。何故、眺めておいでで?そして何を言い合ってたんです」
刑事様の目が鋭く、そして小馬鹿にした風に問うてくださいました。私は正直に、言い合った内容、死体を眺めていた訳をお話しました。
「そうですかそうですか。それを証明できる人物はおりますか」
刑事様は呆れたような声でおっしゃいます。
「友人と、背広を着ている方が、証人になってくださるかと」
「そうですか。お話はもう結構です、どうぞお戻りください」
顎で出口を差し、刑事様は調書と睨めっこを開始しておりました。
外へ出ますとまた別の刑事様が案内をしてくださいました。
「こちらでお待ちください」
案内された場所は事件の起きた部屋とは別の上映部屋でした。




