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メビウスの廻廊  作者: 南方
。.。:+* ゜ 第二章 ゜ *+:。.。
43/54

43❊生涯あなただけ


 正直、国のことより今は早くレヴィンの誤解を解かなくてはいけない気持ちの方が強かった。

 セルジュは急いで彼の部屋へと通じる通路へと向かう。その途中で側仕えのカールに会った。

 彼は少々困った顔を見せると、深く頭を下げ、「陛下、今宜しいでしょうか?」と丁寧に窺いを立ててくる。カールの話は見当が付いていたが、大人しく聞くことにした。


「レヴィン様の耳に、陛下が側室を持つという話が入りました」

「事実無根だ。どうしてそんな話になったのか……」


 どうやら、たまたま侍女たちが雑談しているのを聞いたということだった。

 それなら、侍女全員の首を斬り落としてやろうかとセルジュが凄めば、カールは真っ青な顔をして一歩引いた。


「そ、そんなことレヴィン様は望んではおりません」

「では、どうすれば?」


 カールが言うにはレヴィンは意地っ張りだから自分から、側室の話を聞けないのだという。それとなくセルジュから側室の件は皆が勝手にしている噂だと伝えるだけで十分だと進言してくる。


「分かった。レヴィンは自分の部屋に?」

「いえ、陛下のお部屋にいらっしゃいます」


 それを聞いて通路を引き戻した。どうしてそんな噂話が広まったのかは分からないが、侍女をすべて入れ替えた方がいいかも知れないなと思った。

 ありもしないことをベラベラと喋るような人間は城には必要ない。主の伴侶を不愉快な思いにさせるなどもっての外だ。

 あまりにも強く拳を握ったせいか、ぎしぎしと指の骨が歪みそうなほどの痛みを感じた。

 辿り着いた自室前で緊張しながら扉を開けると、レヴィンが長椅子に座っているのが視界に入る。


「仕事は終わったのか?」


 そう言って彼が硬い声を出し、こちらを見つめる。その声色にセルジュの背筋がヒヤッとした。


「レヴィン、城で噂になっている件なのですが……」

「側室の話か、別に気にしてない」


 本当だろうかと疑う。先ほどのカールの様子だとかなり気にしているような話だったが、今の彼の態度を見ていると冷静そのもので逆に不安になる。

 取りあえず、自分の気持ちだけは伝えておくべきだと思ったセルジュは彼の前で跪く。


「聞いてください。俺は生涯あなただけです。側室を持つようなことはありません」


 これだけは、どうしても分かってもらいたかった。


「分かってる。最初、聞いた時は、ちょっと苛っとしたが、ニクラウスが言ったんだ。剣士時代にも色んな女に言い寄られていたのに返事すらしなかったと、そんな男が今さら側室など設けるわけがないと……」


 そう言えば、レヴィンがニクラウスを訪ねてきたと本人が言っていたことを思い出し、上手く話をしてくれて良かったと思う。

 自ら語るような話でもないため、自分ではそんな話は出来なかっただろう。小さく息を吐き出したセルジュは、レヴィンの瞳を覗き込みながら聞いた。

 

「侍女の誰がそんな噂をしてましたか? 分からなければ全員処分します」

「やめろ、そんなことされても私は嬉しくない」


 絶対にそんなことはしないでくれと彼は懇願した。

 こんなことくらいで、城に仕える者を処分していたら務めにくる人間がいなくなると冗談っぽく彼が言う。


「ですが……」

「私の尊厳を損なわせたいのか」


 ピリッとした空気が漂う。たかが噂話程度で侍女を処分すればレヴィンの矜持が傷つくことに気が付き、セルジュは分かりましたと答えた。


「ただでさえ、お前が私にへりくだった態度を取るせいで、変な目で見られてるのだから、余計なことはしないで欲しい」


 切実な願いを聞き、セルジュとしても困ったが、結局自分は、この人の願いを聞き入れること以外に何も出来ないのだ――。


 その日を境に、レヴィンは城下へ出かけることが多くなった。

 隠れて護衛を付けているとはいえ、毎日出歩くのは危険だと言えば、城に居て変な話を耳に入れないためだと言う。それを言われてしまうと、反論が出来なくなり仕方なく受け入れた。

 側室の話はレヴィンも納得したと言っていたが、城中で聞こえる噂話には、もっと下世話な話も含まれていたのだろうか。

 セルジュもそれとなく探ってはいたが、自分が〝この先も側室を設ける気はない〟と表明をしてからは、それに関しての噂話はなくなったと聞いている。

 大丈夫だと暗示をかけるように執務室に入り、各国から届いた書状に目をやれば、サバトルド王国の封蝋が押された手紙を見つける。

 

 ――いよいよ戴冠式か、けれど、なぜ二枚も? 


 過去と何か違うのか、それともレヴィン用とセルジュ用と分かれているのか、どちらにせよ、眺めているだけでは何も分からない。慎重に手紙を開けば、驚くようなことが書かれていた。

 パトリックが戴冠式の前に成婚をするという知らせを受け、しばし放心状態になった。これは本来あるべき流れを歪めた自分のせいだと思う。


 ――レヴィンのことは諦めたのだろうか。


 もしそうなら、レヴィンはもう〝死の恐怖〟に怯えることはなくなるのではないかと思った。

 戴冠式でライナーがレヴィンを狙った原因がパトリックの歪んだ愛情のせいなら、

成婚が決まった今となっては、殺す理由がないからだ。

 先日ルイスという怪しい者が城を去ったことを考えても、狙われる可能性がなくなったと考えるべきだった。

 様々な辻褄が合い、セルジュは良かったと胸を撫でおろす。あとの問題は聖皇教会だけだが、それはニクラウスに任せておいて大丈夫だろう。

 出来ればこの話を早くレヴィンに伝えたいが、城下街へ自分が出向くとうるさく言われるため、帰って来ることを待つことにした――――。


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