19❊セルジュの反応
領地から戻って来たセルジュをそわそわしながらレヴィンは出迎えた。
二人の結婚の報告を聞いて、どのような顔をするのかとても興味があったのだ。
ブランカはセルジュのことを異性として意識したことはなくとも、セルジュはあるのかもしれないわけで……、と何だかレヴィンの方が落ち着かない気分だった。
普段と何一つ変わらない出迎えをするトビアスが、玄関先でセルジュの上着を受け取りながら結婚の報告をしている。
「ブランカと結婚?」
「はい、レヴィン様にはもう報告いたしました」
「そうか、おめでとう。式はどうするんだ?」
「業務がありますので教会で書類の提出だけしようかと思っております」
トビアスが淡々と説明するのを聞きながらうなずくセルジュは、結婚の報告に驚くこともなく、通常通りだった。
レヴィンは正直つまらない気分になったが、もしかしてお互いが付き合っていたことを知っていたのでは? と思った。
ふとセルジュがブランカに目線を送る。その顔はどこかホッとしたような笑みで、心の底から結婚を喜んでいるように見えた――。
自室へ向かうセルジュの後を歩き、「知っていたんだな」とレヴィンは冷やかな声を出した。
「はい」
「いつから」
「彼女から相談を受けたのは三ヶ月ほど前です」
「……そうか」
やはり知っていたんだな、とレヴィンは疎外感を覚えて不貞腐れる。
「彼女は平民ですので、自分のような者が彼と付き合ってもいいのかと悩んでいたようです」
「確かに平民からすれば、爵位のある息子と恋愛は荷が重いか……」
平民と貴族の身分差は、やはり大きく圧し掛かるものだ。
特に親族の意見で自尊心を傷つけられることも多い、ブランカが相談出来る相手はセルジュしかいないのだから当然か、と納得していると――。
「俺もずっと思ってます……、〝どうして、あなたは俺を選んだのか〟と……」
セルジュの言葉に思わず、自分の肩がビクッと揺れる。
そうだ、あの誓いの間での出来事は誰が見たって、首をひねるようなことだった。
王妃の護衛騎士のセルジュとは確かに頻繁に顔を合わせていたけど、愛想のない彼がレヴィンに好かれるはずがないことは当人も分かっているのだろう。
「……お前に一目惚れだったと言ったら信じるのか?」
「……」
無言のまま歩き続けるセルジュだったが、レヴィンの部屋の前で歩みを止めた瞬間。
「もし……、そうなら、嬉しいです」
そう言い残すと彼は足早に立ち去った。
とても信じられない言葉を聞いた気がしてレヴィンが立ち尽くしていると、相変わらず空気の読めないカールが、「どうしましたか? 喧嘩です?」とへらへら聞いて来る。
「喧嘩ではない」
レヴィンの答えを聞き、「……お二人はずっとこのままなのでしょうか?」とカールが疑問を口にした。
「このまま?」
「夫婦としての義務を果たされてませんよね? レヴィン様はずっと制御剤を飲んでいらっしゃいますし……」
今まではブランカとセルジュがそういう関係だと思っていたから、不愉快な思いをさせたくなかった。
けれど、今は? 何の障害もなくなったし、レヴィンだってセルジュに対して少なからず愛情を抱いている。それに先ほどのセルジュの言葉もいいように捉えるなら、好意を持たれているのだろう。
――だとすれば私は……、時計塔で死なないのだろうか……。
セルジュに好かれているのであれば、〝誓の間〟に戻らないで済むのかもしれない。けれど……、正直どうすればいいのかレヴィンには分からなかった。
過去、どうして何度もセルジュに殺されていたのか真実を知りたいと思うが、それを知るには今回も死ぬ必要があるからだ。
――私は……。
今回、彼と婚姻したのは自分の死の意味を知りたかっただけで、心を通わせたいと思っていたわけじゃなかった。
それなのに、知らなくてもいいことを色々と知ってしまった。セルジュが優しく不器用で何をするのにも迷いがなく、正直な人間だということを、だから――。
「何処へ行くのですか?」
「セルジュの所だ」
「あー、なるほど、分かりました。では人払いをしておきますね」
ニタっと笑うカールの顔を見てレヴィンは察する。
「……勘違いするな、話をするだけだ」
「あー、はいはい」
「その、『あー』はやめろ」
「はいはい」
まったく、誰にどう教育を受ければ主にあんな態度が取れるのか……、とレヴィンは首をひねる。
とりあえず、今はカールに構っている場合ではないと思ったレヴィンは、急いでセルジュの部屋へと向かった――。
勢いのまま部屋の前まで来たのはいいが、正直どうすればいいのか今さら悩む。取りあえず扉越しに話をするわけにもいかないためノックをした。
「……入るぞ」
「レヴィン?」
「少し話をしたいんだが……」
そう言って部屋に入ったものの、どう切り出そうか言葉に詰まる。
言葉が出ないまま数分が経ち、痺れを切らしたセルジュが、「レヴィン……?」と名を呼ぶ。
「あ、えっと……、その……」
馬鹿な約束だと思うのに、どうしても言いたかった。
「実は、戴冠式の翌日から本格的な発情期間に入る予定で……、だから……、この部屋を訪ねてもいいだろうか……」
「……」
目を大きく見張るセルジュの困惑した顔を見ていられなくて思わず目を伏せた。
彼の困ったような驚きの反応は正しい。
ずっと、お互い〝夫婦〟になることを避けて来たのだから、こんなこと突然言われて戸惑うのもうなずける。
何も言葉を発しないセルジュのせいで、レヴィンは居た堪れない気分になり、呼吸するのも困難な状態に追い込まれた。
そもそも伴侶でこんな約束をする方がおかしなことじゃないだろうか? 今までは、常に相手から確認してきたというのに、どうしてこの男は――、と羞恥に耐えられずレヴィンが部屋から出ようとした時。
「その日は俺が部屋に行きます」
「あ……、ああ、待ってる」
セルジュの部屋を出て、ようやくうるさい心臓が落ち着いてきたレヴィンは、深く長い息を吐くと自室へと向かった――――。




