表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

11❊王都へ


 季節が変わりようやく、空気に新緑が感じられるようになった頃、レヴィンは王都に用意された屋敷へ引っ越した。

 ミラー通りと呼ばれる場所の一角で、この辺りは離れた場所に領地を持つ貴族が社交界シーズンに滞在するための別邸なども多く立ち並んでいる場所だった。


「この場所……、絶対に高かっただろう?」

「いいえ」


 無表情に返事をしてくるセルジュを睨み返しながら――、


「……私が何も知らないとでも思っているのか? この辺りは一等地だぞ、安いわけが無い」

「実は、幽霊屋敷で買い手の付かない屋敷でした。ですので他の屋敷の半分の値段で済んだのです」

「え……」


 セルジュの言った言葉を鵜呑みにして、レヴィンがごくりと喉を鳴らしていると、背後にいたカールが、「ぷは」と吹き出して笑う。

 

「……冗談を言ったのか?」

「はい、そうです」

 

 真顔で冗談だったと言うセルジュに、「お前の冗談は笑えない」とだけ言い残し、さっさと屋敷に足を踏み入れた。

 

 ――何が冗談だ……、あんな顔で言われたら本当だと思うだろう。


 膨れっ面で玄関ホールに入ると、後から付いてきたセルジュが、「レヴィンの部屋へ案内します」と言い、こちらの腕を取ると彼の逞しい腕へ絡ませる。こういう時は、本当に腹が立つくらいリードが上手いと思ってしまう。

 そのままセルジュのエスコートを受け、自分が使う部屋へ入った途端、懐かしい気分に戻された。

 細部まで拘ったと分かる繊細な装飾にレヴィンは、ただ茫然とするばかりだった。


「カールに以前ご使用になられていた部屋の家具や、壁紙などを聞きました」

「わざわざ……、こんなこと……」

「気に入らないのでしたら――」

「違う! ……その、ありがとう」


 気に入らないわけがない、自分の慣れ親しんだ部屋がそのまま戻って来たような安堵感に包まれて、ほぅと熱い溜息が零れた。

 部屋の窓へと向かい、レヴィンは外の景色を確認する。正面に城が見え、彼がこの家を選んだ理由が分かった。


「セルジュは本当に優しいな……」


 独り言のように出た言葉だったが、彼には聞こえていただろう。


「少しでも、王宮に居た時と変わらない環境を与えて差し上げたかっただけです」

「そうか、嬉しいよ」


 彼の優しさに触れる度にレヴィンは、過去の自分は毎回どうして殺されなければいけなかったのかと思う。

 

「それから、近頃、王都は物騒な事件が多いようです」

「事件?」


 どうやら、貴族と教会が揉めていると言う話だった。

 過去の人生でも教会の話題くらいは耳にしていたが、ふと、レヴィンはあることに気が付く。そういえば嫁ぎ先の貴族は全て王族を支持していたが、途中で支持先を変えた。

 何がきっかけだったのだろうか? と少し気になるが、どの過去も性奴隷のような生き方だったため、その辺りの情報にレヴィンは疎かった。

 どちらにしても、教会との衝突というなら中央都市に所在する聖皇教会の教皇(きょうこう)閣下の指示が世界中の教会に下ったのだろう。

 聖皇教会は全ての国に介入しており、特に教会に関しては、ほぼ教皇閣下の手中と考えてもいい。


「古臭いしきたりが好きな教皇が、くだらないことを教会に吹きこんだんだろう」


 少々呆れたようにレヴィンが言えば、肯定するかのように頷いたセルジュが、「そうですね」と言う。


「それで、具体的にどんな事件なんだ?」

「――っ」


 動揺しているセルジュを見て、おそらくオメガに関することなのだと勘付いた。

 穢れたオメガを清めるとか、その辺りの暴動はレヴィンが子供の頃も起きていたし、あながち外れでもないのだろう。

 兄の手紙にも〝来ない方が良い〟と書かれていたことを思い出し、以前から教会との確執が芽生えていたのだと、ようやくあの時の手紙の内容に納得がいった。


 ――ああ、そうか半年前にハリーが来たことも、この話だったのかもな……。

 

 妙にセルジュが自分に纏わりついていたことを思い出し、ハリーが余計なことを言わないか気にしていたのだと気が付いた。

 たかが、オメガに関する暴動の話を聞かされたからと言って、今さら自分が気を悪くすると思っているのだろうか? これだから真面目な男は――、とレヴィンは自ら、その話題に触れた。


「どうせ、オメガに関することなんだろう? 隠さなくても良い」

「はい、そうです」

「穢れたオメガを清めるとかなんとか言ってるんだろうな……」

「ええ、見当違いもいいところです。穢れているのは……、アルファの方ですから」


 そんな言葉を言えるなんて貴重な男だなと思う。

 優劣をつけたがるアルファであれば、自分達は優であり、オメガを劣と位置付ける人間が大半だ。

 多少はセルジュにだって、その気持ちが無いわけではないはずと、疑った目で彼を見つめたが、切ない顔にも見えて、それでいて罪悪感も持っているように見える。

 ふと、先日カールに指摘されたことを思い出した。


 ――『早く本物の夫婦になられた方が賢明ですよ』


 カールは簡単に言うが、本物の夫婦になったからといって、どうなるというのだろうか。

 それに、拒んでいるのはセルジュもなのだ。なにもレヴィンだけが拒んでいるわけではない。じっとこちらの言葉を待つ彼に、どうして抱かないのだ? と聞きたくなったが、レヴィンの口からは違う言葉が出ていた。


「腹が減った……」

「直ぐに用意させましょう」

「いや、せっかくだ。外食にしよう」 


 セルジュの眉根が寄り、「レヴィン、今の話聞いてませんでしたか?」と子供を宥めるような言い方をする。


「今は事件が多く、外出は危ないのです」

「王妃の側近まで務めた〝氷狼(ひょうろう)の騎士〟が一緒にいるのに何が危ないんだ?」


 本当に自分のことを分かってないな、とレヴィンはセルジュを見つめる。屈強な騎士である彼を知らない人間がこの国にいるわけがないし、ごろつきだって一番避けて通りたい人物だ。


「本当に外食は駄目なのか?」


 再度レヴィンが訊ねると、仕方なくセルジュが折れる形で外食することになった。

 久々に王都の街並みを満喫し、領土では味わえない都会の雰囲気を肌で感じながら外食を楽しんだ――――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ