表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水野司の世界の声  作者: すずはるな
水野司と世界の声
PR
7/71

第7話 食堂

 食堂の両開きの木の扉を抜けると、そこは薄暗い通路だった。


 幅は少し狭くて、三人が横並びで歩くと肩が当たりそうになる。


 床板がきしみ、空気もひんやりしていた。


 そのまま通路を抜けた瞬間――


 まばゆい光が、どんっと飛び込んできた。


「うわっ……!」


 思わず声が出そうになり、司は反射的に目を細める。


 暗さに慣れていたせいで、まぶたをうっすら開けるのがやっとだった。


 少しずつ目が慣れてくると、司はその場で立ち止まりそうになった。


 そこは、想像していた『薄暗い食堂』とはまるで違った。


 天井一面がガラスの屋根になっていて、そこから太陽の光が降りそそいでいる。


 まるで屋内なのに、外にいるみたいだ。


 見上げれば、高いところに青空まで見えていた。


「……すごい……」


 司は思わず、感嘆の声を漏らした。


 その下では、異人たちが六人ずつ向かい合って座り、食事をしている。


 司が想像していた『奴隷の食事』の雰囲気とは違って、

どこかフードコートみたいだった。


 基本は黙食――そう聞いていたはずだが、

あちこちで小さな声の会話や、笑い声も混じっている。


「司、あそこで朝食を受けとる」


 ノームがそう言いながら、あごで前を示した。


 見ると、カウンターの前に列ができていた。


 異人たちはそれぞれ木のトレーを持ち、順番に前へ進んでいく。


 まるで給食みたいだ、と司は思った。


 カウンターの向こう――厨房では、異人たちが汗だくで動き回っていた。


 鍋のふたがカタカタ鳴って、湯気がふわっと上がる。


 そのすぐ横で、看守が腕を組んだまま無言で見張っている。


 空気が、そこだけ少しピリッとしていた。


 司たちも列に並ぶ。


 ノームの背中を見ながら、司はトレーを握り直した。


 順番が来ると、厨房から一品ずつ渡される。


 白米。 味噌汁。 焼き魚。


 トレーの上に並んだそれを見て、司は思わず目を丸くした。


(え? これだけ?)


 食堂にはたくさんの長机が並んでおり、異人たちはそこで食事をしている。


 机は木製の六人かけで、椅子は背もたれのない丸い椅子だ。


 司はトレーを持ったまま周りを見渡す。


「さて、どこかに空いている場所はないか?」


 ノームがきょろりと首を動かす。


 するとタカギが、すぐに見つけたように指をさした。


「ノーム。あそこ、空いてるぜ」


 指差した先には、すでに三人の先客が座っていた。


 でも、向かい側の三席がちょうど空いている。


「そうだな、あそこにするか」


 ノームはそう言うと、迷いなく歩き出した。


 空いている席に、右からノーム、タカギ、司の順番で座る。


 司の正面には、髭面の男が座っていた。


 どこか遠くを眺めていて、目が合っても表情ひとつ変わらない。


 首元には赤い革の首輪。


 そこに『300』と黒字で書かれている。


 その隣には、ノームみたいに大柄で、

筋肉ムキムキマッチョマンのスキンヘッドの大男。


 うまそうにガツガツとご飯を食べている。


 さらにその隣には、

真っ白なお団子みたいな髪型をした小柄な男が、黙々と箸を動かしていた。


 どうやらこの並びには決まりがあるようで、

右から組長、組員、新人――そんな順番になっているらしい。


 つまり、司の前に座っている髭面の男が、組長ということだ。


 司は机の上に置かれた朝食に視線を落とすと、小さくため息をついた。


(朝は食パンと目玉焼き、ウィンナーとコーンスープって決めてるのにな……)


(ごはんだけって……海苔もふりかけもないの? 味しないよ)


 不満たっぷりのまま、司は箸を持って白米を一口、口に入れた。


 ――甘い。


 え? ごはんって、こんな味だったっけ。


 司は思わずもう一口噛む。


 噛むほどに、じんわり甘みが広がってくる。


(なにこれ……うまい)


 今まで食べてきた『味のしないごはん』とは、まるで別物だった。


 司が味を噛みしめていると、タカギが横からにやりと笑って声をかけてきた。


「司、飯と一緒にみそ汁飲んでみな。絶品だぜ」


 言われるままに司は、白米を口に入れてから味噌汁をすすってみる。


 味噌の香りと塩気が、ごはんの甘さに混ざってこれもまたうまかった。


(今まで、こんなにおいしいって思ったことないや)


 次に司は、焼き魚へ視線を移す。


 (こんがり焼けた皮はおいしそうだけど……)


(魚の目がこっち見てるみたいで、昔から苦手なんだよね……)


 だけど、今日はなぜか好奇心のほうが勝った。


 司はそっと身をほぐして、口に運ぶ。


……うまい。


 塩を振っただけの焼き魚のはずなのに、その塩気が身のうまみを引き立てていて、箸が止まらない。


「ほう、司は魚平気か? 近頃は魚嫌いが多いと聞いていたがな」


 ノームが優しく微笑みながら声をかけた。


「うん。本当は魚の目が苦手で避けてたけど……」


 司はもう一口食べてから、嬉しそうに言った。


「食べてみると、おいしいね」


「そうだろう。食わず嫌いをせず、なんでも食べられて偉いぞ」


 ノームは子供を褒めるみたいに、ゆっくり頷いた。


「なに贅沢言ってんだよ。食えるだけでも感謝しないとな。バチが当たる」


 タカギは魚の骨をしゃぶりながら、いつもの調子で言う。


 ノームが「確かにそうだな」と、タカギの言葉に強く頷いていた。


 食事を終えた三人は、来た道をそのまま戻り、異人棟の部屋へと帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ