第66話 巨大湖 バルト
行軍三日目
大部隊は朝から湖畔に沿うような形で行軍していた。
巨大湖・バルトを避け、その反対側にある敵の山城へ向かうためである。
朝の冷たい風が湖の水面を撫で、波が静かに揺れていた。
しかし、そんな穏やかな景色とは対照的に、隊列にはどこか張り詰めた緊張感が流れている。
騎士たちは周囲へ鋭い視線を向け、異人たちも無言で不安げに歩いていた。
その時だった。
先頭を進むロビンの元へ、一人の斥候騎士が砂煙を上げながら駆けてくる。
騎士はロビンの前まで来ると馬を止め、素早くフルプレートのヘルムを外した。
「申し上げます! ここより十キロ先に敵を発見いたしました!」
「数にしておよそ一万。すでに向こうは待ち構えており、わが軍の到着に備えております!」
騎士は馬上のまま敬礼し、息を整えながら報告した。
ロビンは落ち着いた表情のまま、静かに問い返す。
「やはり出てきたか。敵将から何か聞いているか?」
「はっ。敵将の話によりますと、ここより東へ六キロほど進んだ先に、両軍が展開可能な開けた場所があるとのことです」
「そこで開戦したいと申しております」
「心得た」
ロビンは短く頷いた。
「貴殿は他の騎士を連れて敵将に了承の旨を伝えよ。その後、その場の下見を頼む」
「はっ!」
斥候騎士は再び敬礼すると、すぐさま馬を走らせて去っていく。
ロビンは付き従う騎士へ目配せし、数名を同行させた。
さらに残っていた騎士たちへ視線を向ける。
「各中隊長へ伝達。全軍、戦闘準備を開始せよ」
その声に、周囲の騎士たちの空気が一変した。
先ほどまでの不安げな空気が消え、全員の表情が戦場のものへ変わっていく。
「はっ!」
騎士たちが力強く返答し、それぞれ馬を走らせていった。
ロビンは湖の向こうに広がる空を見つめる。
その鋭い片目が、これから戦場となる地を静かに睨んでいた。
「此度は悪いが、圧勝させてもらうぞ」
ロビンは低く呟く。
「王国初の遠征でもあり、初陣でもあるのでな」
その声には強い自信と、歴戦の将としての重みがあった。
周囲の騎士たちも、それに呼応するように声を張り上げる。
「王国に勝利を!」
「勝利を!」
湖畔には騎士たちの雄叫びが響き渡り、静かだった朝の空気を震わせた。




