表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水野司の世界の声  作者: すずはるな
水野司と世界の声
PR
5/71

第5話 異人

(ずっと一緒……?)


「あ、あの。ここは何ていう場所で、家に帰りたいけど駅はどこにありますか?」


 司の質問に二人は眉をひそめて、やはり聞いてきたかという困った顔をした。


 タカギは笑みを少しだけ引っ込め、ノームは一度、息を整えるみたいに視線を落とす。


「ここは異人街と呼ばれている場所だ。それと君は帰ることができない。残念だがな」


 ノームは目を閉じてゆっくりと話した。


「え?帰れないってどうして?」


 司は少し強気に答えた。


でも、声の奥は震えていて、自分でも情けなくなる。


「そうだな。看守がドアを開けるまでまだ時間があるだろうから少し説明しよう」


 ノームはちゃぶ台を部屋の中央に置き、司に座るように促した。


 司はそれに従い、正座して、話を聞こうとした。


 ノームは小さくため息をしてから、ゆっくりと言葉を選ぶように話し出した。


 司は唾を飲み込み、ノームの次の言葉を待った。


「まず、君の状況だが。君は異世界に迷い込んだ。だから、家に帰ることはできない。それから……」


「え? 異世界? 異世界ってなんですか?」


 司は聞き覚えのない言葉が気になってノームの言葉を遮ってしまった。


「なに? 君は異世界を知らないのか? まいったな。どう説明すればいい」


 ノームが困ったように顎髭を触っていると、


「俺だって初めてここに来たときは知らなかったぜ。普通は知らねえよな? 司」


 タカギはフォローするように笑顔を司に向けた。


 司は仲間がいたことが嬉しくなり、


「うん」


 と答えた。


「そうか、なら司。君は本を読むかね?  何か物語を聞いたことは?」


「あ、ゲームしかやらない、です」


 司は小声で答えた。


「そうか、ゲームをやるか。なら話は早い」


 ノームは嬉しそうに話し出した。


「その物語や世界は、互いに繋がっていないだろう? 別々の舞台、別々の登場人物」


「それが『別の世界』だ。ここで言う異世界ってやつだ」


「つまり私たちは、生まれ育った物語とは違う物語の中に、迷い込んだ。ここまで、イメージできるか?」


 司はなんとなく理解できたので、小さく頷いた。


「ここは君が生まれた世界とは違う別の世界だ。だから帰る方法がないんだ」


「でも、ここに来れたのなら、帰れるんじゃ?」


 ノームの言葉に割り込むように司が聞いた。


「司、気持ちはわかる。ならどうやって君はここに来たんだ? 覚えているかい?」


 司は答えられなかった。


 眩暈と頭痛で少し目を閉じていたらこの場所にいたことをノームに伝えたが、


「それではわからないな」


 と、ノームに言われてしまった。


 司はそれでも諦めきれないと声を出そうとしたが、

ノームが先に話し出してしまった。


「次に、我々は『異人』とこの世界の人間から呼ばれている。異人はこの世界では奴隷として生きていくことになる」


「え?」


 司は声を出して質問しようとすると、ノームが右手を顔の前に突き出して制止させた。


「すまない。まずは先に説明させてくれ。それから質問を聞こうと思うが構わないかな?」


 司は小さく頷いた。


 それを確認したノームは、咳ばらいをして話し出す。


「ありがとう、司」


「この世界には君のように毎日何百人もの異人が迷い込んで来る。それを初めは受け入れていたが、徐々に問題が生じて異人を奴隷にすることに決めたらしい」


 ノームは目をゆっくりと閉じ、小さく息を吐き、話し出した。


「異人は三人一組での行動を義務付けられ、組番号で管理されている。そのうちの一人にわかりやすいように首輪をつけ、組長として残りの二人を監督する役割を与えられている」


「つまり、私のことだ」


 とノームは自分の首輪を指差した。


「残りの二人は組長の指示に従うこと。それと黒い服を着た者は看守といって、我々を監視する立場だ」


「緑色の服を着たのが異人兵。彼らは治安維持を目的によく看守と共に行動している」


「まあ、従っていれば向こうも手荒い真似はしない。昨日食べ物を持ってきたのが看守だが、君も見た通り友好的だったろう?」


 司はそうだろうか? と昨日のことを思い出す。


 ノームはふっと笑うと話を続けた。


「彼らも同じ異人だ。つまり仲間だ。多少は目をつぶってもらえる。司もいずれわかるさ」


「そうだぞ? よく怒られるけどよ。昨日みたいに優しい時もあるからよ。大人しくしておけよ?」


 タカギがとぼけた顔で言った。


「タカギ、それはお前が問題行動ばかり起こすから怒られるんだ。司、タカギのようになるなよ?」


 ノームはタカギの顔を見ながらやれやれと首を振り、

タカギは「わかった、わかったって」と両手を前に出して苦笑いしていた。


 二人のやり取りを見ていると司は気づいたら、口元が少しだけ緩んでいた。


「あとは、もうじき看守がそこのドアの鍵を開けて我々は部屋の外に出ることになるが、会話は極力禁止されている」


「私とタカギ以外の異人に話しかけないように。おそらく相手にはされないだろう」


「うかつに話しかけると看守か、異人兵に怒られるぞ」


 今度はタカギがふざけた感じで話すと、


「お前が言うな」


 とノームがため息交じりで答えた。


「さて、今覚えることはこんなところだ。質問はあるかな?」


 ノームが司に質問を投げかけてくるが、

不思議なことになぜか教えられたことが納得してしまい、疑問が浮かばなかった。


 まるでそれが当たり前だと受け入れつつある自分に驚いていた。


 それでもなんとか口に出したのが、


「やっぱり帰りたい。うちに帰りたいんです」


 それを言わないと帰りたいという気持ちすら忘れてしまうのではないかと不安がよぎったのだ。


「そうだな。司、常に心に願い続けるんだ。そうすればきっと願いが叶う。家に帰ることができる」


 ノームが力強く司の目を見て話した。


 司はこの言葉を忘れないように何度も頭の中で唱えた。


 そうこうしていると、ガチャガチャという音がしてドアの鍵が開けられた。


「お、看守が来たな。行こうぜ司。飯の時間だ」


 タカギが嬉しそうにドアに向かって歩き出す。


「飯?」


 司が驚いた声を出すと、ノームが微笑んだ。


「まずは食事だ。じゃあ食堂に行こうか」


 ノームに促されて司はドアに向かって歩き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ